サステナビリティ関連技術と製品の開発
要素技術を活かしたソリューションの提案
主な取り組みの目標と実績
持続的社会に貢献する新製品・新技術の開発力の向上
2023年度 目標 |
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2023年度 実績 |
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評価 | ★★ |
2024年度 目標 |
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サステナブル製品・サービスの開発推進
2023年度 目標 | サステナビリティに貢献する製品の開発促進 |
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2023年度 実績 | 溶剤系と同等の性能を発揮する合成皮革用水系ウレタン樹脂、PFASフリー界面活性剤、天然由来原料をベースにしたバリアコート剤等の新製品を開発した |
評価 | ★★ |
2024年度 目標 | サステナビリティに貢献する製品の開発促進 |
- 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
[ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力
持続的成長に向けて
DICグループは、経営ビジョン「彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに - Color & Comfort - 」の実現に向けて、色彩・光学、有機材料設計、高分子設計、分散など既存基盤技術の深耕に加え、新たな基盤技術として無機材料およびバイオ材料設計の確立、MI(Materials Informatics)などAI技術の活用とAI分野のスペシャリスト育成に取り組んでいます。
グループ全体の技術リソースの融合により、また産官学連携やCVC活用などオープンイノベーションも積極的に活用し、持続的成長につながる次世代製品・新技術の開発を目指しています。

具体的な取り組み
DICグループでは、クリーンテクノロジーの開発、利用を推進しています。サステナブルパッケージや、カラーサイエンス、スマートリビングなどDIC製品をご使用いただく各種領域において、より環境に配慮した製品を具現化するための様々な素材、部材の開発に取り組んでおり、私たちの製品が用いられることで地球環境問題の解決に貢献していくことを目指しています。なお、国内については、技術リソースの約52%を環境負荷の低減に関わる研究テーマへ投入しています。
サステナブルパッケージ領域
印刷インキでは、印刷適性を向上させたLED対応高感度UVインキ新製品の販売を開始、ヒートシール剤では医薬品用PTP(Press Through Package)向け水性タイプやPVC容器フィルムを含む各種容器向けに低温領域から性能を発揮する新製品を開発しました。また、硝化綿やホルムアルデヒド未使用で従来型と同レベルの耐熱性を有するOP(Over Print)ニスの展開を開始しました。
イージーピールフィルムでは、フードロス削減に対応したコンビニ向け総菜容器用や冷凍宅配弁当容器用の蓋材が実績を拡大しており、オーブン等高温加熱調理の場面で使われる耐熱C-PET容器にシールできるタイプも開発しました。
海外ではSun Chemical社(米国、以下「サンケミカル社」)がサステナビリティ戦略のもと、インキ、コーティング剤、接着剤の開発に取り組んでおり、様々な包装のリサイクル化を進め、欧州の新しい「使い捨てプラスチック指令」に準拠する天然由来の原料をベースにしたバリアコート剤、剥離剤、ヒートシール剤を開発しました。新製品のレトルトフィルム用水性インキは印刷適性が大幅に向上し、シュリンクラベル用の水性インキは高速フレキソ印刷を可能にしました。
カラーサイエンス領域
有機顔料では、ディスプレイのカラーフィルタ用顔料の新製品開発に注力している他、新たにインクジェットインキ用顔料を製品化しました。サンケミカル社においては、小粒径タイプの新しいエフェクト顔料の販売を開始、高い鮮映性、輝度感を有することから自動車等の塗料用途で色空間の幅を広げています。また、防腐剤や防カビ剤等のバイオサイドを含まない水系塗料向け易分散顔料の製品ポートフォリオや、抗酸化作用を有しメイクアップ化粧品・スキンケア製品に使用できる天然色素製品を発表しました。
スマートリビング領域
合成樹脂では、次世代通信規格5G、6G用の電子回路基板用低誘電樹脂の開発を進めている他、合成皮革用の環境配慮型水系ウレタン樹脂の新製品を市場に投入しました。本製品は最終製品の臭気、GHG、VOCの低減に貢献し、かつ溶剤系同等の性能を発揮します。界面活性剤では有機フッ素化合物「PFAS」フリーの環境対応型新製品を開発、ディスプレイ、半導体、自動車、塗料等の用途で従来品を代替していきます。
硫黄系添加剤では既存の天然油脂よりも環境にやさしい藻類油が原料の新製品を開発、潤滑油の摩擦低減と酸化安定性改善等に貢献し、自動車(特にEV)や金属加工用潤滑油等への採用が見込まれます。工業用テープでは、スマートデバイス向けに易解体性・貼り直し性に優れるノントルエン型粘着製品のラインアップを拡充し、またUV照射により剥離可能な光学部品製造工程用の粘着テープを量産化しました。
グローバルな研究開発体制で新製品開発を推進
日本国内の研究開発組織は、事業に直結した製品の開発・改良を担う技術統括本部とDICグラフィックス社の技術本部、基盤技術の深耕と創生を担うR&D統括本部、戦略的な新事業創出と事業部門の次世代製品群の事業化を担う新事業統括本部よりなり、これに加えて海外では、サンケミカルグループの研究所(米国、英国およびドイツ)、青島迪愛生精細化学有限公司(中国)、主に中国、アジアパシフィック地域における技術開発活動の拠点となる印刷インキ技術センター、ポリマ技術センター、藻類研究センター、ソリッドコンパウンド技術センター、顔料技術センター、テープ技術センター、3Dプリンティング材料研究室などが一体となってグローバルに製品・技術の開発を行っています。
プロダクト・スチュワードシップ
DICグループは、プロダクト・スチュワードシップに配慮した事業活動を推進しています。印刷インキや接着剤などグローバルに展開する食品包材向け製品では、プロダクト・スチュワードシップの活動チームを編成しています。各地域の規制に関する情報やトピックの共有・周知、教育を実施し、自社製品の製品設計への活用、グローバル顧客の求めるサプライチェーンでの証明書の発行に反映しています。
また、世界各国の法規制や環境対策の動向を把握して各国の化学物質の規制に適合する製品の設計と、環境アセスメントの実施を継続していきます。
知的財産戦略
基本方針
DICグループではDIC Vision 2030の実現に向けて経営資源の一つである知的財産を事業戦略と一体的に活用することで、Value Transformationの推進、成長領域へのシフトを推進していきます。
経営戦略の実現、企業価値の向上には“競争優位な知財ポートフォリオ構築戦略”、“知財リスクマネジメント体制”および“Technology Intelligence機能”を活動の基盤としてステークホルダーから信頼される無形資産活用体制を構築していきます。
競争優位な知財ポートフォリオ構築戦略
Value Transformation推進に向け、ケミトロニクスなどスマートリビング領域で早期かつ確実に成果を得られる分野へ経営資源を集中させる中で、当分野での競争優位な知財ポートフォリオの構築を実現します。
具体的手法としては図1に示すような知財の外部環境を解析する手法を用いて、特定分野の上位特許出願人のネットワークを可視化することで当社の当該分野でのポジションを把握し、競合にないユニークな技術領域における競争優位性の確保を念頭に置いたポートフォリオ構築戦略を進めることが可能です。

さらに、内部環境の解析として当社のコア技術の新たな用途展開について、図2のように技術を細分化し、技術要素ごとに知財情報をはじめとする様々な情報から用途探索を行うことを可能としています。
当社のポートフォリオ戦略は、パテント・リザルト社が公表する化学業界特許資産規模ランキング、LexisNexis社によるグローバルでの特許価値成長ランキングにおいても高く評価されています。

Technology Intelligence機能
Technology Intelligenceとは知財情報や各種技術情報を分析し、必要に応じて他のビジネス情報を組み合わせ、最良の意思決定につながる付加価値をつけた情報です。これを各部門に提供し、事業を推進する機能を知財センターに設置することで成功確率の高い施策への絞り込みを円滑に進めメリハリのある経営資源配分に寄与します。具体的には、新規事業や技術開発テーマの初期段階において、Basic-IPLと定義した競合、顧客、リスクなどのコンパクトなコア情報を提供することで成功確度の高いテーマ選定に貢献します。その後、技術開発、上市、量産化の各ステージにおいて、得られた情報に基づき、事業が適切に推進されているか確認するプロセスを設置し、Technology Intelligenceを事業に活用できる体制を構築しています。

知財リスクマネジメント体制
DICグループは、コンプライアンス遵守の基本方針に基づき、新市場・新技術領域の特許調査の徹底、契約マネジメント・機密情報管理の徹底、模倣品・侵害品・類似商標の排除活動を行っています。当社は、サステナビリティ委員会にリスクマネジメント部会を設置し、全社的なリスク管理体制の整備を進める中で、知財リスクについても最小化を図っていきます。
さらに、当社では知財ポートフォリオと事業の整合を図る知財判定会議や、技術開発のインセンティブ向上に向けた特許報奨を審議する特許審議会を重要会議と位置づけ、経営層による実効的な監督により、変化の早い事業環境に柔軟に対応した知財活動を推進するとともに、知的財産への投資等に関する適切な開示を行うことでステークホルダーから信頼される無形資産活用体制を構築していきます。
VOICE
環境負荷を抑えた精密コーティング用高性能PFASフリー界面活性剤を開発

近年、PFAS(広範囲の有機フッ素化合物)の環境蓄積への懸念から、PFASフリー品が注目を集めています。DICグループではこの動きに先駆けて開発に着手し、これまでに多数の製品化に成功、顧客評価合格も続いています。特にDIC独自構造を導入して、一般的に両立が難しい平滑性と重ね塗り性を高水準で両立可能なこれまでにない製品を開発しました。PFASフリーに加えて、重ね塗りの前処理を必要としないサステナブルな界面活性剤として期待しています。今後も、社会に新しい価値を提案できる製品の開発を続けていきます。
DIC株式会社 ケミトロニクス事業本部 ケミトロニクス技術本部 ケミトロニクス技術2グループ 土肥 佐和子