トップメッセージ

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中期経営計画「DIC111」の振り返り

一定の成果を上げた事業体質の強化とその実績化をさらに強固にし、持続的成長を目指す

DIC グループは、2019年度より中期経営計画「DIC111」を推進し、2021年度に最終年度を迎えました。“「安全・安心」、「彩り」、「快適」の価値提供を通じてユニークで社会から信頼されるグローバル企業へ”を基本コンセプトに、事業の「質的転換」による事業体質の強化を目指す“Value Transformation”と、社会課題や社会変革に対応した新事業の創出を目指す“New Pillar Creation”という2つの基本戦略のもと、2021年度売上高9,500億円、営業利益700億円という高いレベルの実現を目指しました。米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に伴うサプライチェーンの分断が相次ぐ中、売上げは伸び悩み、計画は大幅な未達に終わりましたが、一方、このような厳しい事業環境にありながらも、DIC グループは2つの基本戦略を着実に推進し、一定の成果を収めることができました。
大きな成果としては、ドイツBASF社の顔料事業(Colors & Effects 事業、以下「C&E 顔料事業」) 取得により、有機、無機顔料におけるグローバルなリーディングポジションを確立したこと、デジタル化の加速に歩調を合わせる形で、高速通信を可能にする低誘電材料の開発を進めた結果5G 関連の需要を取り込んだこと、が挙げられます。
また、印刷インキ事業では経済的な付加価値に加え、気候変動や資源循環問題への関心が高まる中で、サステナビリティへの貢献など社会的な提供価値の高いパッケージング分野へのシフトを加速しました。既に印刷インキ事業全体の売上げの約80%がパッケージ用インキになるなど、既存事業のValue Transformation は着実に進捗しています。
新事業では、エレクトロニクス、オートモーティブ、次世代パッケージング、ヘルスケアの4 つの重点分野において、それぞれ新製品を発表しており、新たな事業の柱にするという目標への道筋が見えてきました。
基本戦略において一定の成果を得た一方で、売上・利益計画の未達を埋めるためには、以下の残された4つの課題に引き続き取り組む必要があります。(1)会社が目指す事業ポートフォリオ像をさらに明確にした上で、事業ポートフォリオの変革による持続的成長の実現を図ること(2)成長ドライバーであるC&E顔料事業をはじめとする買収事業についてもシナジー効果を早期に発現させ、実績を上げていくこと(3)新事業については、実際に新たな事業の柱として確立させていくフェーズに入っており、具体的な投資と実績化を進めること (4)市場が縮小している出版・新聞用インキ事業や、競争環境の激化により苦戦しているTFT 液晶事業については、事業の効率化や事業転換といったさらなる構造改革を進めること、であります。

長期経営計画「DIC Vision 2030」(2022年~2030年)

「経営ビジョン」を再定義し、社会的意義の極大化による企業価値向上を図る

「地球温暖化」というキーワードは、我々が目指すべき10年後の社会を鮮明にしました。2030年をターゲットとするSDGsや「2050年カーボンニュートラル実現」という時間軸を持った視点が入ってきたことで、世界はサステナビリティに向かって地球的な解決に大きく動き出したといえるでしょう。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現を契機に、人々の行動様式は大きな変化を余儀なくされ、いわゆる「ニューノーマル」あるいはリモートワークやデジタルマーケティングなどデジタル社会への移行について、積極的な対応を図らなければ企業競争力に影響を及ぼす状況になったといえます。
このような劇的な社会環境の変化、パラダイムシフトに直面したことで、3年ベースでの計画ではどうしても近視眼的になることから、よりサステナビリティとニューノーマルを意識した長期的企業価値向上を目指す長期経営計画に舵を切る決断をしました。
長期的に企業が持つべき視点とは何か。私たちは、それを「財務的利益の極大化」だけにとらわれない「社会的意義の極大化」であると考えました。これは、長期的視野に立って社会を見据え、企業価値の向上を図ることは株主利益にもつながる、つまり社会的利益の中に株主利益が含まれるという認識に立ったものです。
当社ならではのパーパス(存在意義)を通じた社会的意義の極大化を会社の大義とし、自らの使命として認識するだけでなく、従業員はもとより、多くのステークホルダーの皆様と共有することで、「パーパスドリブンな経営」を推し進めていく所存です。
こうした経緯から、新しい「経営ビジョン」を再定義しました。
新たな「経営ビジョン」は、

彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに - Color & Comfort -

です。従来の経営ビジョンである“化学で彩りと快適を提案する”を進化させ、化学の領域にとどまらない幅広い価値を提供し、人々の暮らしや地球環境も含めた私たちの未来をより良いものにするという思いを、ここに込めています。
こうした背景から、今回、基本方針を「進化したColor & Comfortの価値提供を通じて、株主利益を包摂する社会的利益を追求し、長期的企業価値の向上を目指す」とした、長期経営計画「DIC Vision 2030」を策定しました。

2030年までにDIC グループが目指す姿

「DIC Vision 2030」では、「社会の持続的繁栄に貢献する事業ポートフォリオの構築」と、「地球環境と社会のサステナビリティ実現への貢献」を目指す姿として定めました。加えて「サステナブル製品の売上比率を2030年に現在の40%から60%にすること」と、「2050年度カーボンネットゼロ(DIC NET ZERO 2050)へ向け、2030年度にCO₂排出量を2013年度比で50%削減する」という大きな目標を定めています。(図1)

(図1)「DIC Vision 2030」目指す姿

(図1)「DIC Vision 2030」目指す姿

事業ポートフォリオについては「インキ製品に依存しない」ことを掲げており、新たに設定した5つの重点事業領域に経営資源をより積極的に配分することで多様化された事業ポートフォリオを構築し、社会的な価値をさらに高めていくことを意図したものです。また、サステナブル製品の拡大を通じて企業価値を向上し、当社ならではの貢献社会を「グリーン社会」、「デジタル社会」、「QOL社会」という3つに定めています。
フェーズとしては、2025年度までの前半4年間を「目指す姿の実現に向けた基盤作り」の時期とし、ROIC(投下資本利益率、Return on Invested Capital)管理による投資効率や稼ぐ力を重視した経営のもとで、前中期経営計画から進めている事業ポートフォリオの変革を推進していきます。そして2030年度までの後半5年間を「目指す姿の実現と展開」の時期とし、社会課題の解決に貢献するサステナブル製品の拡大を達成します。(図2)

(図2)数値計画

(図2)数値計画

目指す姿を実現するための基本戦略

事業ポートフォリオの変革 ― 5つの重点事業領域

事業ポートフォリオの変革を推し進めるに当たり定めた5つの重点事業領域「サステナブルエネルギー」、「ヘルスケア」、「スマートリビング」、「カラーサイエンス」、「サステナブルパッケージ」は、市場の成長性や社会への影響度を基準に、社会課題・社会要請に対して、DICグループの強みを活かし貢献できると判断した事業領域です。ここに経営資源を集中させていくことで、メリハリを利かせたValue TransformationとNew Pillar Creationの実現と強化を進めていきます。特にサステナブルエネルギー領域とヘルスケア領域については、当社グループの強みを発揮した高容量、長寿命を実現する次世代二次電池材料や、天然由来材料をベースとした高機能ニュートリションなどの製品を市場に投入し、成長性の高い市場における新事業の柱として育てていきます。スマートリビング領域、カラーサイエンス領域、サステナブルパッケージ領域についても、M&Aによるビジネスの拡大やシナジー効果の最大化を進めていきます。
なお、既に成熟市場である出版用インキとTFT 液晶については今回の計画では構造改革事業と位置づけ、市場の状況を注視しつつ引き続きライトサイジングなどにより事業運営の最適化を図る予定です。(図3)

(図3)5つの重点事業領域

(図3)5つの重点事業領域

事業ポートフォリオの変革 ― 変革を支える5つの施策

5つの重点事業領域に経営資源を集中していくことと合わせて、事業ポートフォリオの変革を支えるために、5つの重要な施策を展開していきます。(図4)

(図4)5つの施策

(図4)5つの施策

DIC 株式会社 代表取締役 社長執行役員 猪野 薫

その中でも、人的資本経営の強化はもっとも重要な戦略の一つと考えています。社員が「会社の大義」を共有し、自ら進んで社会的利益を追求する集団になっていかなければならないからです。そのためには、社員の価値を最大限に高めるための人事機能プラットフォームへの投資や仕組みの整備が欠かせません。DICグループは社員の74%(2021年12月31日現在)が海外の関係会社に勤務しているグローバルな企業です。人材育成を通じて国籍やジェンダーなどに関わらずグループ全体で活躍の機会を増やしながら、外部からも積極的に人材を獲得することで人材の多様性を強みに転換し、競争力の源泉とすべくダイバーシティを推し進めていきます。また、アフターコロナを見据え、デジタル化によるワークプレイス改革や、プロセス改革による生産性の向上を進めるためにも社員の働きがいを向上させていくことが重要となります。国内・海外を問わず社内のコミュニケーションを促進し、共感と信頼による一体感の醸成を進めながら、イノベーション創出のためのチャレンジを促進していくことを重視し取り組んでいきます。(図5)

(図5)人的資本経営の強化

(図5)人的資本経営の強化

現在、社内では働き方改革を推進する「WSR2020(Work Style Revolution 2020)」を私自身が委員長を務める委員会形式で展開しています。この取り組みは、社員一人ひとりの働き方を見直し抜本的に変える、「行動変革」を起こしていこうというものです。経営陣と社員がDICを一緒に変えていくという気持ちのもと、過去の慣習や暗黙のルールに縛られることなく、全社員がいきいきと仕事をし、チャレンジ精神を持ち、お互いの成長を応援し合える企業文化へと変容し、「DICで働いてよかった」と思える会社を目指しています。実際に社員の意識や行動が変化したかどうかは継続的に社内調査を行い、軌道修正すべきところがあれば社員とも議論しながら柔軟に対応していきます。
また、C&E顔料事業の買収を契機に、グローバルな人材の交流や情報の共有化を進めることで、グローバル経営体制を強化していきます。例えば欧米地域の統括会社であるSun Chemicalの社長をグローバル本社であるDICの常務執行役員とすることで、欧米だけでなく、グループ全体の改革にも携わり責任の一角を担ってもらう体制をつくりました。今後は社内の様々な部門で、日本と海外のスタッフが同じベクトルで一緒に仕事をしていく機会をますます増やしていきます。

戦略投資については、企業の成長や事業ポートフォリオの変革、新事業の立ち上げのため2025年度までに2,300億円の戦略投資枠を設定しています。この投資枠は、新技術や拠点を獲得するためのM&Aや新製品のための設備投資の実行を想定しています。例えば、新たな事業の柱として育成するサステナブルエネルギー領域と、スマートリビング領域を中心に5つの重点事業領域を対象に広く投資を行っていきます。今後の環境変化にも迅速に対応して投資先を判断してまいります。
戦略投資に加えて2025年度までに基盤投資として、CO₂排出を削減するグリーン電力化や、技術プラットフォームの拡充、IT・DXの推進など総額700億円の投資を見込んでいます。技術プラットフォームについてはAIやマテリアルズ・インフォマティクスを駆使した研究開発へと転換し、C&E 顔料事業の買収やベンチャーキャピタルとの共同開発により手に入れた無機材料、バイオ材料の設計技術を拡充するとともに、新技術や新製品の開発を強化し加速させていきます。

※マテリアルズ・インフォマティクス:統計分析などを活用したインフォマティクス(情報科学)の手法により、技術開発を高効率化する取り組み

サステナビリティ戦略

サステナビリティ戦略については、DICグループが貢献する3つの社会「グリーン社会」、「デジタル社会」、「QOL社会」に対して、DICが強みを発揮し社会課題解決の貢献度と環境負荷の低減を座標とする独自指標を用いて「サステナブル製品」を定義し、その売上高比率を現在の40%から2030年度には60%まで高めていくことを目標としました。例えばバイオマス原料を使用したインキや顔料、5Gや6G世代の高容量高速通信に対応した低誘電材料、安全・安心で便利な生活をサポートする天然由来材料などの新製品の提供を通じて、化学という領域にとらわれない様々な価値を提供していけると考えています。
また、DICグループは2021年から「DIC NET ZERO 2050」というスローガンを掲げ、CO₂排出量低減のための生産設備の電化推進など自社を中心とするScope 1 & 2領域での活動により、2030年度には2013年度比50%の削減を目標としています。さらに2050年度には、リサイクルおよびバイオ原料等の推進などScope3領域も含むバリューチェーン全体を通じた削減貢献により、カーボンネットゼロの実現を目指していきます。

地球・社会の持続的繁栄に向かって

DICグループは2021年のC&E 顔料事業の買収によって、これまで以上に多様な人材が集まり、グローバルネットワークも強化されました。買収当初に発生した物流体制の課題も解消し、アフターコロナを見据えた社会活動の拡大によって2022年度の売上高は大きく伸長することが期待できます。一方、収益については地政学リスクによる流動的な社会情勢やそれに伴う石油価格のさらなる上昇などを背景に不透明な状況が続きます。
こうした中、新しい経営ビジョンと長期経営計画「DIC Vision 2030」を実現するため、様々なステークホルダーの皆様との「会社の大義」の共有が必要であり、DICグループの社員自身がこれをよく理解し、共感して、自ら実践していくことも大変重要です。「DIC Vision 2030」の発表後、私を含む経営陣が分担して国内の事業所を訪問し、社員に対して計画の主旨や意義、理解してほしいことを説明するキャラバンを行っています。今後、環境が許せば現地に赴き、海外の社員にも説明に行くことを考えています。経営陣が直接社員と対話することで共通の理解を生み、計画の実現に向けた率直な議論を行っていきたいと思っています。
DICグループはグループ利益と社会的意義の極大化を図るとともに、新しい経営ビジョンに掲げた「人と地球の未来をより良いものに」していきます。平和の尊さを再認識し、DICグループとして何ができるかに向き合いながら「地球・社会の持続的繁栄」の実現に向けて、ステークホルダーの皆様とともに、DICならではの「ユニークで社会から信頼されるグローバル企業」として発展してまいります。

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