トップメッセージ

トップメッセージ

2019年2月、当社は創業111周年を迎えました。創業時からの事業である印刷インキは世界トップシェアを占め、そこから派生した顔料・ポリマ事業を併せて大きな発展を遂げてきました。今日ではパッケージ・住宅・自動車・化粧品・エレクトロニクス・ヘルスケアなど幅広い領域で、「無くてはならない製品やソリューション」を提供しています。
当社の事業は世界64の国と地域に174のグループ会社を通じて展開し、売上高の約6割、2万人を超える従業員の約7割を海外が占めています。そのため当社を語るにはグローバルの切り口を避けては通れません。
さらに近年は、AIやIoTに代表されるデジタル化の波が、私たちの暮らしや社会、ビジネス環境に著しい変化をもたらし、気候変動・食の安全・海洋プラスチック問題などの様々な社会課題も顕在化しています。こうした大きな環境の変化の中で私たち素材産業は社会にどのように貢献していくのか。これが社長就任時からの私の命題でもあります。グローバルにダイナミックに進むパラダイム・シフトを的確にとらえ、その中でDICグループが存在価値を高めながら持続的な発展を遂げていく。これを目指して、今般当社グループは2019年度よりスタートする中期経営計画「DIC111」を策定しました。事業・財務・人材戦略などのレベルアップを図りながら経営の効率化・高度化に努めていきます。

中期経営計画「DIC108」(2016~2018年度)を振り返って

2018年までのDIC108は、2024年までの成長シナリオの第一段階と位置づけ、「インキ・顔料・ポリマなどの安定基盤事業のサステナブル化(環境対応・合理化・戦略的投資)」と「社会要請にマッチした最適ビジネスの構築(エレクトロニクス、パッケージ、ヘルスケア、低炭素化)」を柱に、技術開発・事業展開・財務基盤の強化に注力してきました。その結果、 2016、 2017年度は、安定基盤事業・成長牽引事業ともに堅調に推移し、2年連続で創業以来の最高益を達成しました。
しかしながら最終年度の2018年度は、売上高こそ8,055億円と前期比2.0%の増収となったものの、営業利益は484億円と前期比14.3%減となりました。製品価格の改定が原料価格の上昇スピードに追いつけなかったことに加えて、欧州新興国の通貨安による換算目減りなどが影響したことがその主たる要因です。これに伴い、経常利益は487億円と前期比14.5%減、親会社株主に帰属する当期純利益は320億円と前期比17.0%減となりました。なお、年間配当金については1株125円とし、前期比5円の増配とさせていただきましたので、結果として3ヶ年を通じての配当性向はDIC108でお約束した30%を超えるに至りました。
2018年度の業績が示すとおり、当社の収益は依然基盤事業に支えられており、原料事情をはじめとするマクロ環境の変化に弱い事業体質であるとともに、成熟地域における需要減少に適応する事業ポートフォリオの転換や、全社を成長軌道に乗せる新たな事業の柱の創出が急務であることを再認識しました。DICグループが次の成長軌道へ向かう上で私たちがやるべきことがはっきり見えたという思いでいます。
2019年度の見通しについては、米中貿易摩擦に端を発する中国経済並びに世界経済の動向、英国のEU離脱問題などによる金融市場の変動リスクなどに留意する必要がありますが、顕在化した当社の課題解決の方策を中期経営計画「DIC111」に取り込みながら、マクロ環境の変化に強い継続的な成長をもたらす事業体質への転換を推進します。2019年度の売上高は前年度比5.5%増の8,500億円、営業利益は7.5%増の520億円を見込んでいます。

2016年、2017年と最高益を更新するも、原料高の影響により最終年度は大きく当初計画を下回る

【成果】

  • 成熟地域における需要動向に合わせた生産体制の再構築(出版インキ、ポリマ)
  • 計画を超える機能性顔料事業の成長
  • 太陽HDとの資本業務提携によるエレクトロニクス分野の基盤強化
  • 継続的な売上成長の実現と過去最高益達成(2017年)
  • 適切な財務バランスの維持・改善をベースに目標を上回る配当性向

【課題】

  • 成熟地域における更なる需要減少を見据えた事業の構造改革(出版インキ、一般加工品)
  • 原料価格上昇による2018年の減益をふまえた、原料動向に左右されない強固な事業基盤の確立
  • 出版インキの需要縮小を補い、全社を成長軌道に乗せる新たな事業の柱の創出
  • 戦略投資の着実な実行

2025年度の売上高1兆円を目指し、事業ポートフォリオの転換と経営基盤の高度化を推進します

社会的価値と経済的価値の視点によって事業を再構成

今般新たな3ヶ年の中期経営計画「DIC111」の策定にあたり、私たちは改めて、DICグループが目指す企業像を確認しました。

ユニークで社会から信頼されるグローバル企業へ

この企業像に到達するために、中堅・若手社員を含む「存在価値ワーキンググループ」を設けて「当社の社会への提供価値とは何か」「当社が取り組むべき社会課題とは何か」「当社にとって事業を通じたサステナビリティとは何か」について議論を重ねました。
その解として導き出したのが、全事業を「社会的価値」と「経済的価値」の視点で見直し、地球環境・食糧問題などの社会課題やデジタリゼーションをはじめとする社会変革にフォーカスした『事業ポートフォリオの転換』を図ることです。
DICは化学会社として社会に様々な機能や付加価値などを提供し、人々の暮らしの利便性を高めることに貢献してきました。その一方で私たちは、生産活動の過程で生じる環境への影響など負の側面にも意識を持って事業に取り組んできました。これからはこの考えをさらに進めて、当社は高機能などの利便性と、環境・社会価値がセットで提供できる姿を目指したいと考えています。私たちは事業活動を通じて従来以上に気候変動や持続可能な資源利用、健康などの社会の課題解決に貢献し、社会の豊かさの向上につながる価値を高めていきます。ここに経済的価値をシンクロさせることで化学会社として持続的な成長ができると考えているのです。
その延長線上に、2025年度の売上高1兆円、営業利益1,000億円、純資産5,000億円というマイルストーンがあります。ユニークで社会から信頼されるグローバル企業になるには、私はこれが必須の指標であると考え、DIC111の3ヶ年では事業の質的転換と新事業の実績化、並びに戦略的M&Aによる非連続的成長を加速していくことを主眼に取り組んでいきます。

「事業ポートフォリオの転換」を通じて成長路線へ

01「事業ポートフォリオ」に基づく組織の再編

DICでは、2019年度から従来の5セグメントを「パッケージング&グラフィック」「カラー&ディスプレイ」「ファンクショナルプロダクツ」の3セグメントに再編し、各事業分野でどのような価値を提供するべきかをメッセージに表しました。当社は多種多様な産業に複合的な製品を提供しているため、常々投資家の方々から目指す方向性が分かりにくいというご指摘を受けることがあります。その意味でも社外のステークホルダーの皆様にシンプルで分かりやすい事業構造とメッセージを伝え、同時に全従業員が同じベクトルを持って課題解決に向かうものとしていくことが重要と考えています。

「パッケージング&グラフィック」

これまでは印刷インキ、多層フィルム、接着剤などの各事業単位で個別に製品戦略を進めてきました。これを「パッケージ」という製品群に括り位置づけを変えると、食の安全性やフードロスなどの社会課題を共通化することができます。インキ・フィルム・接着剤の3点セットを持つDICは、“包装材料を通じて、社会やくらしに「安全・安心」を提供する”ために技術やノウハウを結集し、社会課題を解決しながら事業展開を進めていきます。

「カラー&ディスプレイ」

“社会やくらしに「彩り」を提供する”というメッセージのもと、顔料・液晶・天然系色素に事業を特化しました。顔料では特に化粧品分野の成長が見込まれ、また藍藻類スピルリナから抽出した食品用天然系青色素(リナブルー®)は、世界的な食の安全志向の高まりから市場拡大が期待できます。また収益性の高い液晶分野では次世代ディスプレイ材料として、インクジェット方式によるカラーフィルタ用量子ドットインキの共同開発を進めています。

「ファンクショナルプロダクツ」

主力は、ポリマとコンパウンドの事業です。“機能材料を通じて、社会やくらしに「快適」を提供する”というメッセージのもと、当社が得意とする複合化技術を駆使して塗料・成型などの分野でさらに競争力を高めていきます。
このセグメントには、液体を通さず気体だけを透過させる「中空糸膜モジュール」など注目を集めている製品も含まれています。

また、「新事業の創出」については、エレクトロニクス、オートモーティブ、次世代パッケージ、ヘルスケアを重点的に取り組む新領域と定め、その推進に向けて「新事業統括本部」を設立しました。これは中長期の開発を担うR&D部門、要素技術をつなげて事業化する従来の製品化推進センター、市場への普及・浸透を担うマーケティング本部の3つの機能を集約したもので、新事業を入口から出口までシームレスに実績化していきます。

02「質的転換」による事業体質の強化 ―Value Transformation―

質的転換とは、製品の競争優位性を明確にし、マクロ環境の変化に強い製品群に一層注力することと考えており、その上で社会的価値並びにサステナビリティに配慮した事業への転換も進めていきます。「パッケージング&グラフィック」ではパッケージソリューションとスペシャリティインキ、「カラー&ディスプレイ」では機能性顔料をはじめとする高機能製品と天然由来製品、「ファンクショナルプロダクツ」では環境対応製品とエポキシ樹脂等の高付加価値製品にリソースを集中させ積極的に取り組んでいきます。社会的価値を意識した事業への転換を図る上では、汎用的な製品の見直しやコア事業も含めたビジネスモデルの変換にも果敢にチャレンジし、場合によっては一部の事業の入れ替えをも不退転の決意を持って臨む所存です。そのため、今回グループ内における「事業撤退基準」の制定を行いました。これは当社の事業を成長性・収益性・規模の3軸で評価し、製品の置かれた位置づけによっては出口戦略を考えるというものです。最終的には取締役会やトップマネジメントで慎重に判断していきますが、社内基準を設けることで事業判断の迅速化と、グループ全体の強化につながると考えています。

03社会課題や社会変革に対応した新事業の創出 ―New Pillar Creation―

新事業統括本部では、様々な社会課題や社会変革とDICグループの強みが重なる領域で4つのビジネスユニットを立ち上げました。「エレクトロニクス」では、インキの分散技術を活用したフレキシブルプリント配線や次世代ディスプレイへの応用展開でデジタル社会への貢献を目指します。「オートモーティブ」では、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のような複合化技術を使った事業を進め、軽量化による省燃費に貢献していくことができると考えています。「次世代パッケージ」では、食の安全・安心に対応する包装材料の開発に取り組みます。また、使用済みプラスチック製品や容器などが不適切に廃棄されるために海の環境や生態系に影響を及ぼす「海洋プラスチック問題」を喫緊の課題の一つと位置づけ、パッケージ材料に関わる複数の部門でプロジェクト体制で、代替材料への切り替えや生分解性材料への転換などの課題に取り組んでいます。「ヘルスケア」では、藍藻類で培ったバイオ技術を活用した健康長寿に貢献する製品群の開発を進めます。今後は関連する領域のベンチャー企業への投資やM&Aも活用するなど、戦略投資資金を活用して市場投入へのスピード化を図っていきます。

04キャッシュフローマネジメントを重視した財務戦略

DIC111では、財務体質の継続的な強化を図りつつ、事業ポートフォリオの転換によるキャッシュフローの最大化を優先します。成長加速のための戦略投資枠としては2,500 億円を設定しました。これを実行することで安定かつ適切な配当と充分なリスク対応力を備えた財務体質を維持し、DIC111の最終年度となる2021年度には700億円の営業利益を計画しています。 また、投下資本の効率的な運用を測る指標として「ROIC(投下資本利益率)」の考え方も取り入れる他、グローバル企業の収益力を測る指標とされている「EBITDA」も活用する計画です。

  • Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略。税引前利益に支払利息と減価償却費を加えて算出される利益。国によって金利水準・税率・減価償却方法などが違うため、国際的企業の収益力は一概に比較できないが、EBITDAはその違いを最小限に抑えて利益額を表すことから、国際的な企業の収益力の比較・分析に用いられる。

ESG経営の推進や人材マネジメントによって社会から愛され、尊敬されるDICグループへ

経営基盤の高度化に向けて

社会が急速に変化する中で、DICグループが的確に対応し持続的に成長していくには、事業の質的転換とともに経営基盤の高度化を図ることが不可欠です。そのために次の3つのテーマを強力に推進していきます。

01ビジネスプロセスの革新に向けた「デジタルトランスフォーメーション」

デジタル化は私たちのビジネスプロセスを一新するものととらえて、取り組んでいます。生産部門ではデジタル技術を活用した自動化や各種データの見える化などで品質向上や効率化を図り、R&D部門では物質特性をコンピュータで計算した材料データベースや人工知能を活用した「マテリアルズ・インフォマティクス」によるプロセス革新を進めています。
DIC111では、ITの進化などの外部環境変化を想定して描いた「未来予測からのバックキャスティング」によるアプローチと、いま課題になっているテーマをどう高度化すれば、どんな未来が描けるのかというアプローチの双方向でプロジェクトをスタートしました。この取り組みを発展させた先に、例えば工場の無人化や新しい化学物質の発見、新たなビジネスモデルの創出などを目指しています。

02人材マネジメント戦略の高度化

DICのビジネスモデルの質的転換を遂行するには、多様な人材の知見やエネルギーの結集が不可欠です。そのために4つの施策を柱とする「WING」によって、個の多様性を結集して社会変革に対応し、企業そのものを変革する「ダイバーシティ・マネジメント」を深化させます。特に個を活かすための働き方として「量から成果への意識改革」を重視し、同時に世界64の国と地域、2万人超の従業員から新たな人材を見出し、適材適所を図るための「グローバル人事システム」や「次期経営幹部登用プロセス」も確立します。これらを効率的に実行するために2019年度より「人事戦略部」を新設しました。

03数値目標を設定して「ESG経営」を推進

持続的な成長を実現するには、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の在りようこそが重要で、将来にわたる長い時間軸での企業価値がここで定まることを再認識しています。当 社では2018年度にESG部門を設置して組織的にESG推進強化を図る体制を整えました。ESG各分野で具体的な数値目標を設定し、グループ各社が一体となって取り組みを加速しています。
環境については、気候変動への対応として「2030年までにCO2排出量を30%削減する」目標を掲げ、世界各地の生産拠点で太陽光やバイオマス発電など再生可能エネルギーの導入や転換を推進しています。当社は2019年5月、TCFD(気候関連財務情報タスクフォース)への支持を表明しました。今後この提言に沿った情報開示にも取り組んでいきます。
また、当社グループは化学企業としてプロダクトスチュワードシップを重視し、従来より植物由来原料のインキやリサイクル性の高いポリスチレンなどの製品を開発してきました。
この延長線上に前述の環境負荷と貢献度の観点から事業を評価する「サステナビリティ指標」の導入があり、DICグループは顧客や市場に貢献できる製品やソリューションを極めていきます。この取り組みは国連のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる目標にも連動していきます。

数値目標を設定して「ESG経営」を推進

社会性については、ダイバーシティ・マネジメントの一層の深化により、多様な人材がふさわしいポジションで活躍できる企業風土の醸成に努めていきます。また近年、グローバルな人権課題への取り組みが求められていますが、DICグループは2018年5月に人権に関する国際規範に則り「DICグループ人権方針」を定め、取り組みを強化しています。
ガバナンスについては、コーポレートガバナンス・コードに基づき体制を整備していますが、マネジメントにおける多様化を推進するため、外国人・女性役員比率の拡大に向けたKPIを設定し、2025年度までにこれを30%に高める計画です。
最後に、化学会社として、安全操業・労働安全の確保と品質の保証、環境負荷の低減、化学物質の厳正で的確な管理は事業活動の根幹であると認識し、「正しいことを正しく行う」ことが王道であると肝に銘じ、「社会から愛され、尊敬される会社」を目指していきます。

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