お客様とDIC ~新しい価値の創造
主な取り組みの目標と実績
2021年の実績と評価
ソリューション事業の提案
2021年度 目標 | 当社のコアコンピタンスを活用し、社会的価値と経済的価値の両面から次世代事業の成功角度を高め、循環社会に向けた新たな社会のエコシステム作りに貢献するる |
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2021年度 実績 | 3Dプリンティング材料・やわらか無線センサー・新型CFR P・高放熱フィラーなど、社会課題解決に貢献する製品を上市するとともに、パッケージング用プラスチック資源循環の社会実装に向けた取り組みを進展させた |
評価 | ★★★ |
2021年度 目標 | 国内外での展示会出展やデジタル技術の活用を通じて、顧客の潜在課題を発掘し、ソリューション事業の提案につなげる |
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2021年度 実績 | サステナブルマテリアル展をはじめとする展示会やマーケティングオートメーションを活用することで、幅広いチャネルで顧客にアプローチし、潜在課題の発掘や深掘りを実施した |
評価 | ★★★ |
2022年の目標
新たな事業の柱の創出
2022年度 目標 | 社会課題、社会変革と当社のコンピタンスとの交点を重点領域と定め、社会課題解決に貢献する次世代事業の構築に取り組む |
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2022年度 目標 | オープンイノベーション(CVC、アカデミア、企業連携等)の活用や戦略投資を実施することで、技術プラットフォームを拡充し、新事業・新製品の創出につなげる |
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- 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
[ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力
新しい価値の創造
DICグループは、新『経営ビジョン』で、人々の暮らしや地球環境を含めた私たちの未来をより良いものにすることを宣言しており、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、株主利益を包摂する社会的利益の追求を基本方針とし、社会とDICグループ双方の持続的発展を追い求めることが使命であると考えています。
この使命を具現化すべく、「DIC Vision 2030」では、貢献する社会を、“グリーン”、“デジタル”、“Quality of Life (QOL)”として、企業価値を向上すべく、2030年にサステナブル製品の売上高比率60%を目標に、成長市場における事業拡大と新事業創出により、事業ポートフォリオの構築を推進してゆきます。
事業ポートフォリオの変革
コロナ禍によるデジタル化の加速や消費者行動の変化、2050年のカーボンネットゼロに向けた世界的な企業行動の変容など、大きなパラダイムシフトが起こっています。DICは、これまで培ってきた強みと、社会課題・社会要請とが重なり合う、サステナブルエネルギー領域、ヘルスケア領域、スマートリビング領域 、カラーサイエンス領域、サステナブルパッケージ領域の5領域を設定します。
新事業統括本部は、次世代・成長事業の領域における事業化を担当し、R&D統括本部は、新規事業の創出で不可欠である無機材料設計、バイオ材料設計の基盤技術の確立を担い、両統括本部がシームレスな連携体制をとって新事業の早期樹立を推進し、ポートフォリオ変革を先導してゆきます。
次世代・成長事業の領域は競争領域で変化の速い分野です。このような領域での事業化に際しては、社内連携も強化し自社の強みを徹底的に活用するとともに、CVCや各種業界でのネットワークをハブにして、スタートアップ、アカデミアの活用、企業連携など外部リソースを有効に活用することで、イノベーションの連続を実現してゆきます。
01廃棄軟包装フィルムへの脱インキ処理を加えたマテリアルリサイクルの検証開始
国際的社会課題である廃プラスチック・海洋プラスチック問題への対策として、世界中で持続可能なプラスチック利用方法の模索が進んでおります。日本においても2022 年4月1日より施行されたプラスチック資源循環促進法とともに、プラスチックサステナブル化が、ますます加速することが予測されます。
サステナビリティ戦略においては、インキ・接着剤・フィルムといったプラスチックパッケージ関連製品を取り扱う当社として対応すべき領域を定め、取り組みをしております。その取り組みの一つとして、大手製パンメーカー様・リサイクラー様との協業による「廃棄軟包装フィルムへの脱インキ処理を加えたマテリアルリサイクル」の検証を開始いたしました。従来のマテリアルリサイクルによる再生品はインキを含有するために色や物性が限定されてきましたが、本脱インキ処理により、脱色、物性向上が認められ、再生プラスチックスの用途拡大を実現します。今後、広域での社会実装を実現することで、廃棄軟包装フィルムの再生利用拡大に貢献いたします。

02藻類由来材料による植物性DHA
カーボンニュートラルや脱石油化学などサステナブルな産業構造への変革が求められる中で、二酸化炭素を吸収して光合成により有用物を産生する藻類はますます注目が高まっています。当社は食品に利用する微細藻類開発のリーディングカンパニーであるフランスのファーメンタルグ(Fermentalg、本社:リブルヌ郡) 社と代理店契約を締結し、ファーメンタルグ社が開発した微細藻類(シゾキトリウム)由来のサプリメント素材である高濃度DHA(ドコサヘキサエン酸「) DHA ORIGINS(ディエイチエー オリジンズ)TM-510」の取り扱いを、2021年7月より開始しました。DHAはオメガ3の一種で、ヒトの体内ではほとんど生成できず、食事から摂取する必要のある必須脂肪酸です。世界中でその健康効果が知られており、豊富なエビデンスが蓄積されています。藻類由来の植物性DHAは魚由来のDHAと比べ、海洋汚染や漁業資源枯渇などの懸念が抑えられ、臭いの低減、さらには非動物性であることから、ベジタリアン・ヴィーガン対応の商品です。さらにアレルゲン物質や遺伝子組み換え原料も使用しておらず、有機溶媒を使用しない抽出技術も用いられ、安心・安全な素材です。EUの安全基準(Novel Food)や米国FDAの食品安全性基準(GRAS)にも準拠しています。DHAORIGINSTM-510原料の藻類は、自然界でトップクラスのDHA量を含みます。厳選された藻類を清浄環境下で培養し気候に左右されないタンク培養技術で効率良く育てることで、人工的な濃縮工程を経ず、51%という高濃度なDHAを実現しました。当社はこれからも藻類培養技術を強化して、人々の健康やQOL向上でサステナブルな社会の実現に貢献していきます。
03高速データ通信を実現する「高周波対応配線形成用新シードフィルム」の研究開発
デジタル化が進展し高速・大容量通信インフラが必要となる中で、高周波信号をロスなく伝送する銅配線技術がますます重要になってきています。ロスの少ない高周波伝送には配線表面の平滑性が重要になりますが、当社は太陽インキ製造株式会社と共同で「高周波対応配線形成用新シードフィルム」を開発し、配線の四辺が平滑なファインパターンの形成を可能にしました。これは当社の金属ナノ粒子材料をフレキシブルプリント配線板用に展開するために開発したフィルム材料です。本フィルムに塗工されている当社の金属ナノ粒子は、銅配線形成時の銅めっきのシード層として用いられます。
TOPIC
バイオベンチャーへの出資・協業を起点とした新事業の創出
DICグループでは2016年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、破壊的イノベーションを含むユニークな技術力・ビジネスモデルを有し、社会やDICグループに貢献するスタートアップを世界各地から見出し、協業や出資を行っています。中でもサステナブルなビジネスの潮流の中で成長するバイオ分野のスタートアップに注目しています。2018年に出資した米国バイオベンチャー、チェッカースポット社をはじめ、2021年にはイスラエルのバクサ・テクノロジーズ社(以下「Vaxa社」)への出資を行いました。Vaxa社は、LEDを用いた独自のフォトバイオリアクター設備と藻類培養技術を有し、他社にないクリーンで付加価値の高い藻類製品を開発、商用化しています。さらに米国デビュー・バイオテクノロジー社(以下「Debut社」)と天然由来色素の新合成法に関する共同研究開発を開始しました。Debut 社は酵素反応に対し高い知見およびプロセスデザイン力を有しており、当社のカラーマテリアル分野の技術基盤と組み合わせることで、従来にないサステナブルで高付加価値な天然由来色素の開発・製品化が期待されます。当社はCVCなどのオープンイノベーションを積極的に活用することで、ともにサステナブルな社会を目指すパートナーシップを構築し、社会課題を解決する新事業創出を推進していきます。
TOPIC
サステナビリティを軸にスタートアップとともに作る未来
DICグループでは2016年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、破壊的イノベーションを含むユニークな技術力・ビジネスモデルを有し、社会やDICグループに貢献するスタートアップを世界各地から見出し、協業支援や出資を行っています。中でもサステナブルなビジネスの潮流の中で成長するスタートアップに注目しています。例えば、 2018年に出資した米国バイオベンチャー、チェッカースポット社は、微細藻類より材料を作り、これまでの石油由来材料を代替し、より持続可能な高性能製品の材料を生み出す技術を保有する会社です。同社のビジネスモデルは、製品が作られて廃棄されるまでを考慮して製品設計し、ソーシャルメディア活用で消費者のエコロジー、環境、サステナビリティへの共感反応を追跡する革新的なものです。当社はCVCなどのオープンイノベーションを積極的に活用することで、DICとともにサステナブルな社会を目指すパートナーシップを構築し、社会課題を解決する新事業創出 “New Pillar Creation”を推進していきます。
TOPIC
体外式膜型人工肺(ECMO)に用いられる中空糸膜の提供
DICは、新型コロナウイルス感染者のうち重症者の治療に用いられる体外式膜型人工肺(以下、「ECMO」)※において、血液に酸素を供給する役割を担う中空糸膜を生産し供給しています。
人工肺は静脈血を灌流させ酸素を添加することで、血液を酸素化して体に戻すという本来生体内での肺の役割を担っています。中空糸膜は、中空糸を束ねたもので中空糸の外側に血液を流し、内側に酸素を流すことによって血液を酸素化します。当社の中空糸膜は、血栓塞栓症などを引き起こすリスクを効果的に抑制できる特殊なポリオレフィン樹脂を素材としており、1990年に人工肺用のガス分離膜として採用され
て以来30年にわたり高い信頼性を得ています。
世界的に新型コロナウイルスによる重症呼吸不全の患者が増大している状況を鑑み、当社は医療現場に欠かせない医療機器の安定供給に貢献していきます。
- 体外式膜型人工肺(ECMO)とは、ExtraCorporeal Membrane Oxygenationの略で、重症呼吸不全の患者に対して、ポンプと人工肺を組み込んだ体外循環装置を用いて、呼吸や循環の補助を行う方法。
VOICE
あらゆる人々の持続可能な将来に向けた、次世代事業構築を推進

新中期経営計画「DIC111」策定において、SDGsに代表されるサステナビリティを、如何に次世代事業の構築に組み込むか、多くの議論を重ねました。その結論の一つが、事業を評価する一つの軸、サステナビリティ指標の新たな導入です。サステナビリティと表現される持続可能性とは、誰にとってのものなのか。それは顧客のためだけでなく、CSRと呼ばれる社会に対する責任だけでもなく、それは製品を生み出す従業員を含む我々DIC グループと、製品をお使いになる顧客の皆様と、そして製品が最終的に貢献するこの社会、いずれもが、持続可能な将来に向かうものでなければなりません。DIC グループは、この考えに則った次世代事業の構築を推進します。
新事業統括本部 マネジャー 小林 伸生
TOPICS
DICの製品、知見をタイの交通安全に
WHO(世界保健機関)の統計(2015年)によると、タイの10万人当たりの交通事故死者数は36.2人で世界第2位、日本の約8倍にもおよびます。日本では、道路の安全対策の一つとして、ドライバーの視認性を高めるカラー舗装が多く用いられ、交通事故低減に効果を発揮しています。タイでも空港周辺や観光地周辺はカラー舗装が見られるようになりましたが、特に雨天時には対スリップ性が十分でないとの報告があります。そこでサイアムケミカル社(タイ)は、日系フォーミュレーターと共同で、カラー舗装の中でも日本で実績のある2つの機能を両立した「遮熱滑り止め舗装」を検証し、タイ政府機関への紹介を開始しました。2つの機能とは、1.スリップ抑制効果がある滑り止め機能、2.ヒートアイランド対策や道路の耐久性向上が期待できる遮熱機能です。
サイアムケミカル社(タイ)は、日本で培った技術をタイに展開する事により、タイにおける交通事故低減、さらにはヒートアイランド対策に貢献していきます。

お客様とのつながり
DICグループは、社会から信頼されるグローバル企業を目指し、お客様とのコミュニケーションを重視・強化しています。主なコミュニケーションの場として、展示会やイベント、取引先向けの後援やワークショップなどを実施しています。
2021年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の流行下にある状況を踏まえ、展示会、説明会などのオンライン化、ハイブリッド化を進めました。国際的な展示会としては東京国際包装展TOKYO PACK 2021(2月)の開催に合わせ、DICグループオンライン展示会を実施し、リアルとネットの融合展を開催しました。また、化粧品産業技術展CITE Japan 2021(5月)でも、展示会開催に合わせオンラインで化粧品原料ショールームを公開し、動画を使ったプレゼンテーションを展開しました。また、SNSを利用した製品活用事例の紹介なども進めました。サステナブルマテリアル展(12月)では、リアル開催期間中に会場に来られない方々のためのオンライン展示の拡充も行いました。
欧州・米州地域の統括会社である米国サンケミカル社は、Virtual INFOFLEX 2021(5 月)、Innovate 2021 Textile Innovation Week(10月)などのオンラインイベントに参加し、グローバルにサステナブルパッケージング対応製品や、ジェットインキなどの新製品をプレゼンテーションしました。さらに、11月には最新の化粧品業界動向のトレンドプログラム「What’s in Asia」を提供しました。
その他、7月にはコーティング樹脂製品の製品検索システムを日本語、英語、中国語で公開し、世界で生産されている300を超える製品ラインナップからお客様のニーズに最適な製品を簡単に検索し、用途や特徴などの情報を確認していただけるようにしました。
また、前述の出展成果や顧客との信頼関係を見える化する手段として、顧客満足度を示す指標の一つである顧客が継続的にDIC製品を購入いただけているかの割合(顧客保持率)を、基幹システムを駆使して測定しています。顧客満足度の把握とその改善への取り組みを業務の中で推進しています。
デジタルマーケティング
DICグループではデジタルマーケティング活動拡大に注力しています。DICウェブサイト製品コンテンツの大幅な拡充を順次図っているほか、2021 年度は特定の領域ごとに顧客の課題解決視点のオンライン展示会も複数開催いたしました。また、電子メールや外部サイトなど、様々なデジタル手段を活用した顧客とのコミュニケーションも活発に行っています。
2022年度も引き続きウェブサイト製品コンテンツ拡充を加速化する他、新たな領域でのオンライン展示会開催や、ウェブセミナーの実施など、デジタル手段を顧客との重要なチャネルと位置づけアプローチをさらに拡充・高度化してまいります。
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