お客様とDIC ~新しい価値の創造
主な取り組みの目標と実績
新たな事業の柱の創出
年度 | 目標 | 実績 | 評価 |
---|---|---|---|
2024 | 社会課題、社会変革と当社のコンピタンスとの交点を重点領域と定め、社会的利益と経済的利益を両立可能な次世代事業の構築に取り組む |
|
★★★ |
グリーン・デジタル・QOLの領域にて、オープンイノベーションの活用や戦略投資を実行することで、新製品・サービスの早期開発につなげる |
|
★★★ | |
2025 | 社会課題、社会変革と当社のコンピタンスとの交点を重点領域と定め、社会的利益と経済的利益を両立可能な次世代事業の構築に取り組む | ― | ― |
グリーン・デジタル・QOLの領域にて、オープンイノベーションの活用や戦略投資を実行することで、新製品・サービスの早期開発につなげる | ― | ― |
- 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
[ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力
新しい価値の創造
DICグループは、「経営ビジョン」において人々の暮らしや地球環境を含めた私たちの未来をより良いものにすることを宣言しています。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、株主利益を包摂する社会的利益の追求を基本方針とし、社会とDICグループ双方の持続的発展を追い求めることが使命であると考えています。
この使命を果たすべく、「DIC Vision 2030」では貢献する社会をグリーン、デジタル、Quality of Life(QOL)の3つに設定し、成長市場における事業拡大と新事業創出により、事業ポートフォリオの構築を推進しています。
またグローバル視点で次世代事業創出に貢献する組織としてグローバルイノベーションセンター(GIC)を新設し、グループ全体のアセットを最大限活用しつつ、開発を促進していきます。
直近の事業環境を踏まえ、テーマについては随時見直しを行い、ターゲットとマイルストーンを明確にしたタイムマネジメントを心がけています。これからも次なる成長の原動力となる新しい価値の創造に取り組んでいきます。
事業ポートフォリオの変革
コロナ禍を経たデジタル化の加速や消費者行動の変化、2050年のカーボンネットゼロに向けた世界的な企業行動の変容など、大きなパラダイムシフトが起こっています。DICグループは、これまで培ってきた強みと社会課題・社会要請とが重なり合う、サステナブルエネルギー領域、ヘルスケア領域、スマートリビング領域、カラーサイエンス領域、サステナブルパッケージ領域を5つの重点事業領域と設定しています。
短期的には、5つの重点事業領域の中でも、ケミトロニクス※を中核としたスマートリビング領域にリソースを集中的に投入し、新規事業の早期立ち上げを図ります。その実現に向けては、当社が保有する高分子材料・有機材料の技術に加え、無機材料やバイオ材料などの材料設計技術も積極的に活用し、収益性と実現可能性の高い事業領域への取り組みを加速させます。
また、変化のスピードが速い次世代・成長領域、例えばヘルスケア分野においては、社内の連携体制を強化し、自社の強みを最大限に活かすことが重要です。さらに、CVCや各業界のネットワークを起点とし、スタートアップ、アカデミア、他企業との連携など外部リソースを戦略的に活用することで、継続的なイノベーションの創出を実現していきます。
- ケミトロニクス=エレクトロニクス仕様の化学・素材を軸にした事業
01高速通信・IoT・ロボティクスが発展する新時代に対応した無機フィラーを開発
高速通信・IoT・ロボティクスなどの発展に伴ってより高品質な材料が求められるようになる中、当社は独自製法により、欠陥の少ない高品位な無機フィラーの合成に成功しました。この無機フィラーと樹脂とを一体化させることにより、高性能な素材が実現できます。2027年の量産化に向け、スケールアップの取り組みを進めています。例えば、高速通信用途では、従来のフィラーでは実現できない誘電率・誘電正接を有する誘電フィラーを開発しました。これによりアンテナの小型化・高効率化が可能となります。
IoT・ロボティクス用途では、力・振動を感知すると電圧が発生する圧電フィラーを開発し、樹脂と一体化させることで、フレキシブルな高感度圧電センサーシートを実現しました。曲面を含む任意の形状や大きさに加工できる特性を活かすと、より精緻なバイタルセンシングやソフトロボットへの触覚付与などが可能となります。また、従来の鉛含有セラミックス材料とは異なり、鉛不使用により環境にも配慮しており、サステナブル社会の進展へも貢献していきます。

誘電フィラー

無鉛圧電フィラー

圧電センサーシート
02バッテリー火災対策 延焼防止「吸熱パッド」を開発
EVを中心にリチウムイオン電池(LIB)の利用拡大が進む中で、熱暴走による火災への対策が重要な社会課題になっており、耐火性を持つ断熱材の開発が世界的に進んでいます。当社では、さらに有効なソリューションとして、断熱性に加えて、熱暴走により発生する熱を強力に「吸収(吸熱)」することで、温度上昇を抑えてLIB外部への火災影響を大幅に抑えることに成功しました。
現在、複数の自動車メーカー・電池メーカーにおいて天板用とセル間用の2つの用途で評価が進んでいます。例えば天板用で実際に熱暴走を起こした実験では、内部温度は1300℃に達しましたが、吸熱パッドを介した上面の温度は80℃以下にとどまりました。また、高温下では硬い板状に変化する仕組みも持つため、飛散物の衝撃にも耐えることができます。
現在はパウチ形状での評価を進めていますが、今後は仕様変更も視野に入れて、電子デバイスなどの小型バッテリーや、再生可能エネルギー関連の定置型電池などにもターゲットを広げていきます。

吸熱パッド

車載LIBでの用途
03日本固有のバイオ資源でグローバルにスキンケア事業を推進
DICグループは食用藍藻類スピルリナ事業を通じて藻類培養技術を蓄積しており、さらに、江戸時代から高級食材として知られる、希少な日本固有種の淡水藍藻類「スイゼンジノリ」を屋内培養することに世界で初めて成功しました。
スキンケア製品には、肌悩みの解決や外部刺激から肌を守ることが求められています。スイゼンジノリが生み出す超高分子量多糖体は、肌の上に緻密な網目状のウォーターヴェールを形成してバリア機能を発現しながら、ヒアルロン酸の5倍以上の保水力により、小じわ、たるみ、毛穴などといった肌悩みの解決に寄与します。
当社は屋内で安定的かつ高品質に量産したスイゼンジノリから抽出した超高分子量多糖体を、新グレード「サクラネクス®」としてグローバルにスキンケア事業を推進する他、様々な分野への用途拡大を目指します。

スイゼンジノリ生育環境
04バイオスタートアップ企業VAXA社へ追加出資
当社は、バイオスタートアップ企業VAXA Technologies社(イスラエル、以下「VAXA社」)へ追加出資を行いました。VAXA社は、LEDを用いた独自のフォトバイオリアクター(写真)の藻類培養技術を有し、クリーンで高付加価値な藻類製品を開発、商用化しています。アイスランドにプラントを保有し、工場に隣接する地熱発電所から供給される安価でクリーンな電力と熱(水)・二酸化炭素をそれぞれエネルギー源・炭素源として活用しており、地球環境に優しくカーボンネガティブとなる生産プロセスが用いられています。
当社が有する長年の藻類ビジネスの知見とVAXA社のカーボンネガティブな藻類製品開発技術を組み合わせることで、サステナブルでより健康な社会を実現するスキンケア素材を開発すること、並びに、カーボンネガティブな生産システムを検証することを目的として、2021年2月の出資に続き、2025年1月に追加出資を行いました。

LEDを用いた独自のフォトバイオリアクター(VAXA社)
05DICの触感サンプルを活用した、AR(拡張現実)空間における物体の材質感の再現
スマートフォンやARグラスにより広く認知されてきたAR技術において、従来は視覚情報の拡張が主流でしたが、同時に触覚的なフィードバックを与えることにより、バーチャル物体の存在感をより高めることができます。埼玉大学が発表したAR空間における物体の材質感の再現に関する研究において、当社パッケージ技術本部が開発した触感サンプルが活用されました。
本研究では、映像合成された有形物体に触感サンプル越しに触れることで、バーチャル物体の材質感と形状を同時に知覚できるシステムを提案しています。手指に装着するデバイスにより、有形物体のどの位置に触れても触感サンプルからのフィードバックが提示されるため、低コストでの触感の再現が可能です。本手法はシステムが機能するための要件を概ね満たし、有用である可能性が示されました。

AR空間において鳥の映像を追加された有形物体に触れる様子。当社が開発した触感サンプルを介して触れることでよりリアルな材質感を再現(埼玉大学小室研究室にて撮影)。
TOPIC
全方位マルチコプター「HAGAMOSphere™」の開発とビジネス展開
当社は次世代事業構築に向けて全方位マルチコプター「HAGAMOSphere™」を開発し、2025年初頭に米国で開催された世界最大のテクノロジー見本市CES2025にてInnovation Awardsを受賞しました。本ドローンは、立方体の骨格を持ち、それぞれの頂点に傾斜したプロペラを搭載しており、通常のドローンでは実現不可能な並進飛行が可能です。また、強固な球形ガードにより意図的な地上回転運動も実現しています。
これらの特性を活かし、災害救助、検査・計測、映像・撮影、エンターテインメント業界への展開が期待されています。CES2025では、世界各国から多くの方々が当社ブースを訪れ、市場要求や潜在ニーズを把握することができました。今後、ドローンビジネスへの参入を多角的に検討していきます。
当社は「Direct to Society」の理念のもと、社員自ら社会に必要なものを考え、仕様に落とし込み、試作し、実際に全方向ドローンを飛行させることに成功しました。このことで当社が手がけるビジネスに奥行きが増すと考えます。例えば、本ドローンの機体販売だけでなく、性能向上のための機体の軽量化、バッテリーの高出力化・長寿命化、球体ガードの難燃化・耐衝撃性向上などの開発を行います。さらにドローンのようなデバイス開発を継続し、それらを使ったサービス・ソフト・ソリューションなどColor & Comfortのビジョンに合致するソフト領域をも取り込んでいくことを目指します。

全方位マルチコプター「HAGAMOSphere™」
お客様とのつながり
DICグループは、長期経営計画“DIC Vision 2030”の基本方針に沿った取り組みと活動についてご理解いただくことを第一に、お客様とのコミュニケーションを重視・強化しています。主なコミュニケーションの場として、展示会やイベント、取引先向けの講演、ウェブサイトやSNSなどの運営を行っています。
展示会
2024年度は、国内外において対面形式での展示会出展を積極的に進めるとともに、新たな形式として定着したオンラインでの出展も引き続き行いました。
日本
- 環境問題の各種課題に対応する様々な技術・サービスを一堂に展示情報発信することにより環境保全への啓発を行い、国民生活の安定と環境関連産業の発展を目的とした展示会「2024NEW環境展」(5月)に初出展し、着色可能なリサイクル材を使用したエコ容器・エコ資材などを紹介
- DX社会の発展に欠かせない「センサ・センシング技術」をメインテーマとして、先進的な製品・技術・情報を集めると同時に、次世代につながる最新のテクノロジーを発信するイベント「センサエキスポジャパン2024」(9月)に独自のセンサー関連材料2シリーズを初出展
- エレクトロニクスに関連するお客様の困りごとに対して、「機器」と「目的」の2つの切り口で解決策を提案する「ケミトロニクスonline展示会」(10月)を開催
海外
- 欧州・米州地域の事業を統括するSun Chemical社(米国、以下「サンケミカル社」)がフランス・パリで4月に開催された「in-cosmetics global 2024」で、パーソナルケア業界向けの革新的なエフェクト顔料、天然着色料、原料を幅広く紹介
- アジアではDIC South Asia Private Limitedとサンケミカル社が、インドにおける最大級の塗料およびその原材料に関する情報発信の場である「PAINTINDIA2024」で、様々な用途に対応した高品質な塗料用樹脂・顔料製品を出展
ウェブサイト
お客様との大事な接点であるウェブサイトに関しては、①グローバル、②中国、③アジアパシフィック地域のサイトの拡充を実施しました。世界中のお客様に、DICが配信すべき情報を適切に伝えるために、それらのサイトを運営しました。また、サンケミカル社のウェブサイトとも、グローバルで販売する製品に関する情報リンクの強化、問い合わせ対応の連携を図り、グローバルでのお客様満足度の向上を図りました。
さらにウェブサイトへのお客様の誘導を目的に、X(旧Twitter)、LinkedIn、Instagram、WeChat等のSNSも活用しました。
関連リンク