労働安全衛生・保安防災

主な取り組みの目標と実績

労働安全衛生の確保

目標の範囲 年度 目標 実績 評価
グローバル 2024 国内DICグループ:1.90
中国地域:1.00
AP地域:1.00
欧米地域:8.00
国内DICグループ:1.93
中国地域:0.90
AP地域:1.28
欧米地域:5.70
★★
2025 国内DICグループ:1.60
中国地域:1.00
AP地域:1.00
欧米地域:5.30
 ―  ―

保安防災の確保

目標の範囲 年度  目標 実績 評価
日本 2024 重大事故ゼロ
プロセス事故発生率:0.110
(直近の平均実績を維持)
プロセス事故発生率:0.229
2025 重大事故ゼロ
プロセス事故発生率:0.110
(直近の平均実績を維持)
 ― ― 
  • 上表での数値は、総労働災害度数率を示す。100万労働時間当たりの労働災害死傷者数(死亡災害+休業災害+不休業災害)。TRIRともいう。
  • 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
    [ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力

労働安全衛生

方針

基本的な考え方

DICグループは、安全操業最優先を経営の基本とし、無事故無災害の達成および労働安全衛生水準の向上を追求します。

安全操業は、DICグループの持続可能な成長を支える事業の根幹であり、レスポンシブル・ケア活動における重要な基盤の一つです。その実現に向けて、DICグループ全体・従業員一人ひとりが「安全第一」を共通認識として、労働安全衛生に取り組んでいます。

DICグループの労働安全衛生マネジメント

DICグループの生産領域は多岐にわたり、化学反応を伴う工程以外にも危険物・有害物を扱う工程や回転体機器を扱う工程があります。ひとたび重大事故を起こせば、近隣住民の方々をはじめ社会に多大な影響を及ぼし、協力会社を含む従業員に健康被害をもたらす危険性があります。こうした事態を起こさないようDICグループでは、各国の法令を前提として、自社従業員(従業員および派遣社員)などを対象とした独自の労働安全衛生マネジメントシステムを運用している他、AP地域ではISO45001の認証取得を推奨し、2024年12月時点のAP地域の同認証取得率は96%(3月末データ到着予定)でした。また、リスクアセスメントに基づき「職場のリスク低減、安全基本動作の徹底、安全感度の高い人材育成」を重点課題に位置づけ、安全基盤の強化や安全文化の醸成に向けたグループ全体の保安力向上に努めています。

日本、中国、AP、欧米版の安全操業の啓発ポスター

推進体制

サステナビリティ委員長(社長執行役員)を最高責任者とし、RC部が、基本的に各地域の統括会社を経由して各事業所とともに安全衛生活動を推進しています。
国内DICグループの場合、RC部が各事業所の安全環境担当者と定期的に会議を開催し、重点課題および目標の達成状況を確認し進捗を管理しています。
また、海外DICグループにおいては、RC部と地域統括会社が連携して地域ごとに目標を設定しています。地域統括会社の指導のもと、各事業所の安全環境担当者がリスクアセスメント、事故災害の分析と改善策の推進に取り組み、労働安全衛生の持続的なレベルアップを図っています。(詳細は、方針・目標・体制を参照

2024年度の主な活動と実績

1. DICグループの実績

DICグループでは、労働災害について各地域で目標を設定し、ゼロ災害に向けた取り組みを推進しています。一般的に災害の指標としては「度数率(休業災害度数率)」があげられます。これは100万労働時間当たりの死亡災害者数と休業災害者数の和です。
さらに厳しい指標として、DICグループでは「総労働災害度数率(TRIR: Total Recordable Injury Rate)」を用いています。これは100万労働時間当たりの労働災害死傷者数(死亡災害+休業災害+不休業災害)であり、日本、中国、AP、Sun Chemical社(米国、以下「サンケミカル社」)の各地域で目標を設定しています。
統計の対象となる従業員の範囲は、工場および研究所における直接雇用の社員(正社員、嘱託社員、パート社員)および派遣社員です。場内の請負業者や外部の請負業者や工事業者は除いています。
DICグループの実績は、TRIRの目標値が4.47に対し、実績は3.51と、目標を達成しました。死亡災害者数はゼロ、休業災害者数は83名、不休業災害者数は63名でした。今後も引き続き、事故災害情報の共有化や安全基本動作の徹底、リスクアセスメント、事故災害の分析と対策、安全衛生に関する教育により、災害者数の低減を図っていきます(詳細は後述)。

2020 ~ 2024年度の総労働災害度数率(TRIR)と労働災害死傷者数

JP

2020 2021 2022 2023 2024
TRIR 2.51 3.60 2.23 2.09 1.93
休業 5 12 4 9 3
不休業 18 21 16 10 13

CN

2020 2021 2022 2023 2024
TRIR 2.29 1.94 0.79 2.06 0.90
休業 5 6 2 7 2
不休業 4 2 1 4 2

AP

2020 2021 2022 2023 2024
TRIR 1.02 0.90 1.21 1.11 1.28
休業 7 7 9 9 10
不休業 2 1 2 1 1

SUN

2020 2021 2022 2023 2024
TRIR 5.63 5.33 6.33 4.53 5.70
休業 50 45 70 50 67
不休業 45 44 62 41 47
  • TRIR(総労働災害度数率)=(死亡災害者数+休業災害者数+不休業災害者数)/ 労働時間数 × 1,000,000

2. 国内DICグループの実績

2024年の実績は、国内DICグループのTRIR目標値1.90に対し、実績は1.93であり、目標に僅かに届きませんでした。前年のTRIRは2.09であり、前年比で改善しました。死亡災害者数はゼロ、休業災害者数は3名、不休業災害者数は13名でした。災害者数における「傷害」と「疾病・体調不良」の内訳を右記の表に示しました。

国内DICグループ

  傷害 疾病・体調不良 合計
死亡災害者数 0 0 0
休業災害者数 3 0 3
不休業災害者数 12 1 13
合計 15 1 16

3. 海外DICグループの実績

2024年度の実績は、TRIRでは、サンケミカルグループが目標8.00に対して5.70、中国地域が目標1.00に対して0.90となり目標を達成。一方AP地域では目標1.00に対して1.28と未達でした。

海外DICグループ合計で、死亡災害者数はゼロ、休業災害者数は80名、不休業災害者数は50名でした(具体的な数値は、データ集を参照)。

TOPIC

南通DIC「1日当番安全員」活動

南通DICでは、2024年5月から11月にかけて、「1日当番安全員活動」を実施しました。活動は5つのステップからなります。

  • 活動前準備: 活動計画を策定し、「1日当番安全員」記録表を作成し、メールで全員に通知します。
  • チェックリスト: 当番記録表のチェックリストは、着装、現場環境、設備施設、現場作業、消防管理、その他の安全問題の6つの項目に分かれています。各項目には具体的なチェック内容が列挙されており、基準に照らして要求を満たしているかどうかを確認し、要求を満たしていない場合は問題点を記録します。
  • 1日当番安全員の勤務: 1日当番安全員は「安全員」の識別標識を着用します。問題を発見した場合は記録し、部門責任者に報告します。
  • 提案の収集: 各部門は毎月第2営業日前に記録表で発見された問題を環境安全部にまとめて送付し、環境安全部が問題の是正を監督します。
  • 評価: 環境安全部は各部門の「1日当番安全員」記録表を収集し、記録された問題を分類・集計します。最終的に問題点を「安全上のリスク」と 5Sに分類します。安全上のリスクは1件当たり20元、5Sは1件当たり10元の賞金が贈られます。受賞者は合計96名、安全上のリスクは119件、5Sは90件、総賞金額は3280元でした。

労働災害防止に向けた安全基盤の整備

1. 労働安全衛生データ「安全月報」

DICグループは様々な国で事業を展開しており、国や地域ごとに異なる労働安全法規制を遵守しています。一方で、DICグループ全体の活動をレベルアップするには、DICグループ共通の「基準や指標(モノサシ)」を設定し、グローバルにおける安全活動のベクトルを合わせることが必要です。そこで、DICグループでは、グローバルで共通の指標を定め、各地域のデータを毎月集計することにより、DICグループ内で情報共有を図っています。具体的には、中国地域は迪愛生投資有限公司(中国)、AP地域はDIC Asia Pacific社(シンガポール、以下「DICアジアパシフィック社」)、欧米地域はサンケミカル社によりデータを集計し、RC部が集計・分析しています。これにより、DICグループ各社では、安全操業の度合いを客観的に比較・評価でき、国・地域ごとに精度の高い目標設定や改善プログラムの策定に役立てています。日本、中国地域、AP地域に関しては、2019年度より各事業所のデータを統合するITシステム「DIC ESHデータ収集システム(DECS)」で運用し、データ集計の効率化を図っています(詳細は、データ集を参照)。

労働安全に関する統計データ

・従業員数
・労働災害死傷者数
・休業日数
・総労働災害度数率
(TRIR)

・労働時間数
・火災爆発件数
・度数率

2. 事故災害分析とタイムリーな情報提供

DICグループでは、社内で発生した様々な事故や災害に対して、発生事業所と本社安全担当部署が速やかに連携を取り、原因を分析し、対策を実施しています。また、定期的に、本社安全担当部署と工場安全環境グループが原因の深掘りや有効な対策について議論し、そこで出た対策等を各事業所や各会社に水平展開することで、DICグループ全体の再発防止に努めています。同時に、これらの情報は、国内外のDICグループ各社に配信し、情報共有を図っています。国内DICグループでは、災害事例を「事故事例集」や「労働災害事例集」としてデータベース化し、安全教育の場で広く活用しています。

3. DIC安全基本動作

日本、中国、AP地域のDICグループでは、過去の様々な事故や災害をもとに、「安全確保のためのルールや行動規範」を定め、『安全基本動作』として発行しています。2019年に第5版を改訂し英語・中国語版も公開しています。

TOPIC

サンケミカル社では、「ストップワーク権限」の基本原則にしたがっています。何かを見たら、何かを言う。従業員や契約社員を問わず、すべての労働者が直面する、または同僚や周囲で見かける危険な状況や行動に直ちに対処することを強く奨励しています。ストップワーク権限の行使は認識され、評価されます。私たちのチームには、作業を停止し、考え、状況を評価し、安全性を向上させるために必要な行動を取り、安全に作業を再開できるようになるまで作業を再開しないことを期待しています。これは、私たちの安全文化を毎日推進する「STOP-THINK-ASSESS-REACT(S.T.A.R.)」のマントラです。ともに安全な作業環境を作り出し、全員が一日の終わりに無事に帰宅できるよう努めています。

4. 安全衛生に関するリスクアセスメントの実施

DICグループでは、安全衛生に関する危険性や有害性を特定し、事故や労働災害の未然防止活動を行っています。
特に、国内DICグループでは、化学物質に起因するリスクをさらに低減させるため、リスクアセスメント手法を刷新し、従業員の化学物質による健康障害防止に取り組んでいます。
具体的には、評価手法も含めたDIC独自のリスクアセスメントガイドラインを2023年に刷新し、運用に関する教育を国内DICグループの生産工場の管理者に実施した後、労働安全衛生法で定める対象物質について危険性・有害性を評価し、リスク低減策の検討(取り扱い方法や設備の改善など)を実施しています。

5. 工場の安全と環境を守るe-ラーニング講座

労働安全衛生・保安防災のレベル向上を継続して図っていくには、社員一人ひとりが化学物質や製造プロセス、法規制などに関する幅広い知識を習得していく仕組みを構築することが重要です。その仕組みの一つとして、国内DICグループでは2016年度にインターネットを活用したe-ラーニング講座を導入しました。工場の操業に関わる重要な法令として「消防法」、「大気汚染防止法」、「高圧ガス保安法」などを受講科目に選定し、その後、法令だけでなく「静電気」も科目に追加しました。RC部員や各事業所の安全環境担当者、製造部門担当者の視点から、教材の有効性も確認しています。最大16講座あり、テストで力量を確認しています。2024年度は、193名が受講しました。2022年度からは、株式会社ラキールより安全衛生教育サービスを導入し、安全教育用の動画を配信しています。

ラキール社の安全教育動画キャラクター

6. 災害カレンダー

国内DICグループにおいては、過去に発生した事故災害を月次カレンダー形式でまとめ、社員全員が閲覧できる「災害カレンダー」を2022年から社内ポータルのトップ画面に設置しています。事故災害が発生した日に①発生工場名、②事故災害の種別(熱中症・薬傷等)、③被害程度(休業・不休業等)の情報が掲載され、利用者が気になる災害をクリックすると発生状況や対策をまとめた詳細なデータを閲覧することができます。月間の災害がまとめて表示されているため、各月の災害傾向を視覚的に把握することもできます。社員一人ひとりが、過去その日に起きた災害を確認することで、グループ全体の安全・防災の意識を高めています。

災害カレンダー

災害報告書の一例

TOPIC

DIC AP Back 2-Basicsプログラム

DICアジアパシフィック社では、安全がすべての業務に深く根付いており、すべての従業員が最高の安全基準を維持する力を持つ優れた安全文化を育むことを目指しています。このビジョンを強化するために、私たちは「Back-2-Basicsプログラム」を開始しました。これは、アジアパシフィック地域のすべてのDIC拠点で基本的な安全原則と実践を強化するための継続的な取り組みです。このプログラムは、学習ツールとしてもリフレッシャーとしても機能し、従業員が基本的な安全行動と基準を一貫して遵守することを推進します。

この取り組みの重要な要素は、継続的な自己学習です。毎年、アジアパシフィック地域のすべての拠点の1,500名以上の従業員に12のe-ラーニングモジュールが割り当てられます。

2025年のトピックは、次のとおりです。

  • ヒューマンファクター
  • 安全データシートの紹介
  • 火傷
  • 眼の傷害予防
  • 切り傷と出血
  • 騒音による聴力損失
  • はしごの安全な使用
  • ディスプレイ画面機器
  • 建物とオフィスの避難
  • CPR(心肺蘇生法)
  • 流出の予防と管理
  • 契約者管理

今後は、Back-2-Basicsプログラムをさらに強化し、リーダーシップの可視性と安全管理の構造化の推進などをテーマに取り入れる予定です。すべての拠点で安全文化の継続的な改善と責任の深化を推進していきます。

安全体感教育

日本、中国、AP地域のDICグループにおいて、安全体感教育を行っています。安全体感教育とは、危険を疑似体験することにより、危険に対する感受性を高めたり、危険敢行性(危険の受け入れやすさ)を低下させる教育プログラムです。2012年に国内DICグループで安全体感教育を開始したことを皮切りに中国、AP地域にも幅広く安全活動を展開してきました。こうした取り組みの結果、国内DICグループの度数率が以前のレベルから半減するなど、大きな効果として現れてきました。
DICグループの安全体感教育研修では、通常の生産活動において一般的に発生しやすいとされている動力機器への“はさまれ”や“巻き込まれ”、高所からの墜落・転落、カッターでの切創などの災害事例を、社員が疑似体験します。この体験を通じて、危険敢行性を低下させ、危険感受性を高めることで、潜在的な危険に対して「自ら考え、行動し、自分と仲間を守る」という意識変革を目指しています。

1. 国内DICグループ会社の取り組み

2014年に国内DICグループの教育施設として「埼玉安全体感研修センター」を開設し、新人教育や階層別教育プログラムで活用しています。そしてDICおよびDICグラフィックス株式会社では、新入社員教育カリキュラムに「安全体感教育」と「危険予知トレーニング(KYT)」を必須項目とし、経験の浅い従業員の被災率ゼロを目指しています。また、千葉・堺・北陸・東京・鹿島などの各工場では、独自の安全体感機器やカリキュラムを整え、安全文化の醸成を図っています。2015年には、移動巡回用として小型化した6種類の安全体感機器を、国内DICグループの各事業所に貸し出すようにしました。また、教育指導の担当講師を各事業所の複数の社員が担えるよう、RC部では「講師ライセンス制度」を設け、講師養成にも注力しています。

新入社員研修(埼玉工場)

転倒災害の体感教育(埼玉安全体感研修センター)

2. 海外DICグループ会社の取り組み

海外のDICグループでも、「安全体感機器」の導入を推進しています。中国地域では、南通迪愛生色料、迪愛生(広州)油墨有限公司、常州華日新材有限公司、迪愛禧佳龍油墨股份有限公司(台湾)に設置しています。また、AP地域ではDIC Compounds (Malaysia) Sdn. Bhd.(マレーシア)、PT. DIC Astra Chemicals(インドネシア)、DIC Siam Chemical Industry Co., Ltd.(タイ)、DIC India Limited, Noida工場(インド)に設置しています。これらの生産拠点では、周辺の関係会社の従業員向けにも安全体感講習の開催や講師の養成に取り組んでいます。

安全文化の醸成に向けた取り組み

1. 安全風土醸成分科会

国内DICグループでは「安全第一」を共通認識とするために、安全文化の醸成に取り組んできました。2011年度からは、DICとDICグラフィックス(株)の工場安全担当者が参加する分科会を発足させ、方針・施策を議論し、当社のレスポンシブル・ケア活動に反映させています。

2. DIC安全誓いの日

国内DICグループでは、過去の重大災害や事故を繰り返さず、将来に向け各人が安全を誓う日として、毎年9月6日を「DIC安全誓いの日」と設定しています。当日は、各社員が自身の安全に対する決意をカードに記し、宣言します。

年度 取り組み内容
2012 安全の方針に関する提言を行い、職場に潜む危険源を可視化した注意喚起ステッカーを作成
2013 社長安全ポスター製作と「安全基本動作」の習慣化に向けた各職場での輪読を開始
2014 「安全基本動作」をイラスト化した輪読用の冊子を作成
2015 日めくり式の輪読用冊子を編集し、各職場に配布して安全風土の醸成を強化。これらの資料を英語・中国語に翻訳
2016 中国地域での輪読を実施し、安全文化の醸成を強化
2017 「安全基本動作」の改訂作業に取り組む
2018 「安全基本動作」改訂版(第5版)を発行
2019 「安全基本動作」第5版の輪読用冊子の作成に取り組む
2020 「安全基本動作」第5版の輪読用冊子の発行を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で2021年に延期
2021 社長執行役員や生産統括本部長が各工場を訪問し、現場作業員の声を聞くタウンミーティングを開催。「安全基本動作」第5版の輪読用冊子を発行
2022 保護具マニュアルの改訂
2023 発生した事故災害の効果的な水平展開と再発防止を目的に、事故災害調書の改訂に取り組む
2024 新しい災害調書が完成、運用開始
「安全基本動作」を輪読している様子(小牧工場)

「安全基本動作」を輪読している様子(小牧工場)

VOICE

化学物質の自律的管理を実現する仕組みづくり(2024年日化協RC優秀賞受賞を振り返り)

DICでは、化学物質の自律的管理を実現するため、当社国内グループの化学物質の取り扱いに関する規程を改訂、管理ワークフローの明確化等を実施しました。また、キーマンになる化学物質管理者等を各部署に配置するため、当社ガイドラインやリスクアセスメント手法をまとめ、規則に則った講習を内製化しました。これらにより、国内グループで化学物質の適正な管理ができる体制を構築しました。

本件は、国内主要事業所の安全環境グループとレスポンシブルケア部の選抜メンバーで構成されており、私はレスポンシブルケア部メンバーとしてプロジェクトに途中から参加し、プロジェクトで議論した関係規程の文書化や、DICオリジナルのリスクアセスメントツールの開発、国内事業所を網羅する教育の設計・運営等の事務部門を担当しました。

社内外を問わず手本にできる前例が少なく、難しさが多々あり、くじけそうになることもありましたが、プロジェクトメンバーとの真剣な議論の中で自分自身の責任を再確認し、最後までやり遂げることができました。

完成前は各々違うイメージを持っていた「化学物質の自律的管理」を明確にし、DICの方向性を示すことができたと考えています。このメンバーと力を合わせた成果が2024年度日化協RC優秀賞の受賞につながったことに大変うれしく思います。

今、国内DICグループでは構築した仕組みが順調に運用され始め、自律的な化学物質管理が体現されつつあると思います。今後は、運用を見守りつつ、必要なアップデートを行っていくつもりです。

DIC株式会社 生産統括本部 レスポンシブルケア部 安全環境グループ 加藤 洋介

保安防災

方針

基本的な考え方

DICグループは、重大事故を未然に防ぐために、保安管理体制を構築するとともに、万一の事態に備えた対策を実施します。

化学プラントが火災・爆発・有害物質の漏えいなどの事故を起こせば、近隣住民の方々をはじめ地域社会に多大な影響を及ぼし、協力会社を含む従業員には健康被害をもたらす可能性があります。DICグループでは、こうした事態を未然に防止するために、設備や作業に関する安全法令を遵守するとともに、さらなる保安管理のレベルアップや、万一の事態に備えた防災訓練や地震対策などを計画的に実施しています。

推進体制

サステナビリティ委員長(社長執行役員)を最高責任者とし、レスポンシブル・ケア部(以下RC部)が基本的に各地域の統括会社を経由して各事業所とともに保安防災活動を推進しています。国内DICグループの場合、RC部が各事業所の安全環境担当者と定期的に会議を開催し、重点課題および目標の達成状況を確認し進捗を管理しています。
また、海外DICグループにおいては、DIC本社のRC部と地域統括会社が連携して地域ごとに地域統括会社の指導のもと、各事業所の安全環境担当者がリスクアセスメント、事故災害の分析と改善策の推進に取り組み、保安防災の持続的なレベルアップを図っています(詳細は、方針・目標・体制を参照)。

2024年度の主な活動と実績

1. 化学プロセス事故の件数

2017年に、ICCA(International Council of Chemical Associations:国際化学工業協会協議会)において、報告すべき化学プロセス事故の基準が策定されました。それに伴い、国内DICグループでは2018年度からプロセス事故の発生件数を報告しています。2022年度からは、直近3年間の実績をもとに目標を設定しています。
2024年度は、国内DICグループでは12件発生し、20万労働時間当たりの発生件数は0.229件のため未達でした(目標値0.110)。未達となった主な理由は漏えいが多く発生したためです。今後は製造プロセスのリスクアセスメント等を実施して改善を目指していきます。

  • 報告すべきプロセス事故の基準は、以下の①~④のすべてが該当した場合。主に製造プロセスが関わる火災・爆発・漏えいが該当する。①化学物質か化学プロセスが直接関係している、②製造、物流、貯蔵、ユーティリティー、パイロットプラントで起きた事故、③プロセスユニットからの物質またはエネルギー(火災、爆発、爆縮)の放出、④以下のいずれかの事象が発生した場合:労働災害、設備損傷、避難、GHS該当物質の放出。

プロセス事故発生率 = プロセス事故件数/労働時間×200,000

  2020 2021 2022 2023 2024
ICCA プロセス事故件数 4 7 3 7 12
プロセス事故発生率事故発生率(20万労働時間当たり) 0.073 0.128 0.055 0.124 0.229

2. 化学プロセスのリスクアセスメント

DICグループの工場では、化学反応を行うプラントからプレス機などの加工系設備まで、用途に応じた様々な装置が稼働しています。そこで、国内DICグループでは2013年に「DICプロセスリスクマネジメントガイドライン(PRM)」を制定し、各事業所で計画的にリスクアセスメントを進めています。

PRMは、生産および研究開発業務におけるリスクの包括的把握と継続的な低減を目的に、取り扱う化学物質や生産工程・生産フォーミュラ、機械設備、作業行動に関わるリスクアセスメントの実施時期や実施体制を示したものです。さらに、2020年度からは、化学プラントの事故(漏えい、火災、爆発)に特化したリスクアセスメントであるHAZOP(Hazard and Operability Studies)を開始しました。DICでは、これまでに四日市・千葉・鹿島・堺・北陸工場など、化学反応系プラントが存在する工場で評価を行っている他、2025年度に国内共通のガイドラインを制定する予定です。

3. DIC BCPortalの運用

日本は、位置、地形、地質、気象などの自然条件から、台風、豪雨、洪水、地震、津波などによる災害が発生しやすいといわれています。また、化学プラントが火災・爆発・有害物質の漏えいなどの事故を起こせば、地域社会に多大な影響を及ぼします。このような緊急事態の際、的確に判断を行い、迅速な行動につなげるためには、正確な情報収集・把握・共有が必要となります。非常事態においても、安定的な対応を可能とするために災害等情報管理ポータルシステム「DIC BCPortal」を運用しています。
直近でその導入効果が表れた災害の例としては、2024年1月1日16時10分頃石川県能登地方で発生したマグニチュード7.6の地震があります。石川県志賀町、輪島市では震度7を記録し、北陸工場がある石川県白山市では震度5弱を記録しました。幸いにも工場は停止中であり、重大な被害はありませんでしたが、職員の安否確認、工場の被害報告がDIC BCPortalで行われました。
DIC BCPortal導入前は、緊急連絡網に基づいて電話、メール等にて事故・災害の発生や被害状況報告等を行っていましたが、迅速性や正確さ、情報共有範囲に課題がありました。

DIC BCPortal導入に伴い、迅速・正確な情報共有体制を早期に整備し、DICグループとして的確な意思決定をすることが可能となりました。

4. 緊急対応の訓練

国内DICグループの生産拠点では、日常の保安パトロールや設備の定期点検、BCP(事業継続計画)の観点から、万一の事態を想定した様々な緊急対応訓練を計画的に実施しています。