化学品・製品安全
主な取り組みの目標と実績
化学物質情報総合管理システムの機能向上
化学物質情報マネジメントシステムの整備
目標の範囲 | 年度 | 目標 | 実績 | 評価 |
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2024 |
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★★★ |
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2025 |
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国内外法規制対応業務フロー見直し
海外法規制改正への対応
目標の範囲 | 年度 | 目標 | 実績 | 評価 |
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2024 |
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★★ |
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★★ | ||
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2025 |
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- 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
[ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力
基本的な考え方
DICグループは、製品のライフサイクル全体でリスクを評価し、ステークホルダーが適切に製品を取り扱うための情報提供を推進します。
方針および体制
欧州・米国・日本などの地域・各国では、2002年開催の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(WSSD[ヨハネスブルグサミット])で提唱された「2020年目標」の達成に向け、化学物質管理に関する法規制の強化を通じて、人の健康や環境に対する悪影響の最小化を目指しています。さらに、2015年には国際社会共通目標としてSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されました。DICグループにおいても、化学物質を取り扱うグローバルな総合化学メーカーとして、WSSD以前より法規制以上の統一規約を定め、「安全・環境・健康に関する方針」(1992年制定)のもと、プロダクト・スチュワードシップ※をレスポンシブル・ケア活動の基盤に位置づけ、ステークホルダーに向けて製品のライフサイクルにわたる適切な取り扱いをするための情報提供を推進しています。また、環境負荷低減製品の開発に資するため、化学物質情報の管理を推進し持続可能な開発に貢献しています。この目標の推進に向け、中国地域に活動拠点を、また日本にAP地域に対するコミュニケーションを担当する部署をそれぞれ設置し、アジア地域グループ各社への情報発信を続けています。さらに欧米地域を統括・管理するサンケミカル社の担当部署との情報共有も強化しています。
- プロダクト・スチュワードシップ:製品のライフサイクル全体(化学物質の開発から調達、製造、輸送、販売、使用、廃棄・リサイクル)でリスクを評価し、適正な管理と安全性およびリスクに関する情報の開示を通じて、ステークホルダーの安全・環境・健康を守る考え方。
化学物質管理への取り組み
2003年に国連より勧告されたGHS※1は、日本では2006年に労働安全衛生法(安衛法)で対応が義務化され、今では多くの国に導入されています。DICではレスポンシブル・ケアの基盤であるプロダクト・スチュワードシップの一環として、GHSにいち早く対応。顧客へ知り得る限りのハザード情報を提供しリスク低減に活用してもらうため、2006年の法施行と同時にGHSに対応した安全データシート(SDS※2)の提供とラベル表示を開始しました。その後、2009年には原材料から製品まで多くの化学物質情報を一元管理し、化学物質の審査および製造等の規制に関する法律(化審法)をはじめとする多くの法規制を自動でチェックすることや顧客からの情報提供依頼に対応可能な「CIRIUS」(シリウス:国内向け化学物質情報総合管理システム)を自社開発しました。
一方、高まる海外向け製品への対応要望に応えるため、2013年には最大46ヶ国の言語に対応可能な「WERCS」(ワークス:グローバル対応SDS発行システム)を稼働させ、2015年より11ヶ国・23の海外関係会社にも導入しました。さらにグローバルで複雑化する化学物質管理業務に対応するため、CIRIUSとWERCSの機能を統合して新たに「CIGNAS」(シグナス:グローバル化学物質情報管理システム)を構築、2021年に日本、2023年に中国地域のDICグループ各社で稼働させ、CIRIUS/WERCSからの置換を行いました。さらに2024年末までにAP地域のDICグループ各社へ展開が完了し、WERCSからの置換作業中です。一方、サンケミカル社では2006年から「ATRION」(エイトリオン)の運用を開始し、品質の高い情報を顧客に発信しています。
化学物質を適法に製造・輸入および取り扱うための人材教育に関しては、2000年から国内DICグループにおいて取り組んでいます。2007年からは独自のライセンス制度を開始するなど、社員の能力向上・維持に努めています。
- Globally Harmonized System of Classifi cation and Labelling of Chemicals の略。2003年に国連が勧告した化学品の分類および表示に関する世界調和システム。
- Safety Data Sheet の略。化学品の安全な取り扱いを確保するために、化学品の危険有害性等に関する情報を記載した文書。

新システム「CIGNAS」の設計・開発・運用
CIGNASの設計・開発にあたっては、これまでCIRIUSやWERCSの設計・開発・運用で培ってきた知識・経験・ノウハウを反映し、業務の効率化を意識しました。この効率化を実現するため、基幹システムなど社内の各種システムとのデータ連携の仕組みも構築しました。
社内の各部門では、化学物質に関する情報を各自の業務に活用したいという要望がある中、CIGNASは一部の化学物質管理のエキスパートだけではなく、必要な情報を容易に抽出・活用できるインターフェースの設計に配慮し、アジア地域のDICグループ各社社員が広く活用しています。
一方でCIGNASには、製品や原材料の組成情報などの機密情報が保存されています。幅広い社員がCIGNASを活用することから、セキュリティにも細心の注意を払って設計・開発・運用を行っています。
また、CIGNASの運用を進める中でさらにブラッシュアップを図るためのワーキンググループを発足させ、CIGNAS改修の検討を継続的に行っています。
グローバル対応体制
各国・各拠点における化学物質情報管理はその手法・品質にバラつきがあり、今後の法規制強化および取り扱い製品の増加・変移に対応するためには組織的な対応が不可欠です。システム導入にとどまらず、新システムの構築支援と展開後の管理を担う、化学物質情報管理に関する運用体制の整備が必要になります。このため、2019年にはDIC本社においてその業務を担う化学物質情報管理グループを発足させ、2020年には中国地域でも活動を開始しました。AP地域に対しては日本から適切な支援を実施すべく、2023年1月にグローバル連携グループを発足させました。これらの体制で、日本で築き上げたノウハウの展開、情報の一元管理による品質の均一化、拠点発信型のコンプライアンスの確保、ガバナンスの強化を目指して活動しています。
法規制への対応
01国内法規制への対応
DICグループでは、法令遵守をリスク管理における生命線と位置づけています。国内法規制の対応に向けては、化審法、安衛法における新規化学物質届出や、毒物および劇物取締法(毒劇法)における製造・輸入・販売業登録管理や記録保管義務など、多岐にわたる法令を遵守し、漏れなく対応しています。より確実な対応を目指し、情報収集・分析からガイドライン等の制定、グループ会社および顧客への周知徹底、CIGNASによる一元管理を推進しています。2018年に公布された改正食品衛生法では、食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみ使用可能とするポジティブリスト制度の導入等を行うこととされ、2025年5月に経過措置期間が終了しました。当社においても、ポリスチレンなどのポリマや、インキ等の食品包装容器用原材料を多数取り扱っていますので、各種業界団体等と連携しながら情報収集とリスト収載に向けた対応を進めてきました。今後も新規物質の個別リスト収載などの必要な対応を継続していきます。
なお、2024年度の化学物質の登録、届出に関する法令違反の発生はありませんでした。
2025年の主な取り組み
2023年から安衛法の改正が順次施行されています。自律的な管理を基軸とした化学物質規制体系への移行に重点が置かれ、化学物質の自律的な管理のための実施体制確立と、化学物質の危険性・有害性に関する情報の伝達強化を目的とした取り組みに重点が置かれています。この一連の流れの中で、2025年4月よりラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加、10月より労働者がばく露される程度を濃度基準値以下としなければならない物質の追加が施行されます。DICグループは改正された安衛法に準じた化学物質管理に取り組むとともに、改正安衛法に準拠したSDSの作成・配付、ラベル対応を進めていきます。
2023年に開催された国際化学物質管理会議(ICCM)で議論された新たな枠組みであるGlobal Framework on Chemicalsに対しても、どのように政策や法規制に反映されるかを注視しながら取り組んでいきます。
02海外法規制への対応
ここ数年の主な動きとして、東アジアにおいては主要な化学物質関連規制の制定や改正が相次いでおり、2019年韓国の化学物質登録および評価等に関する法律(化評法)の大幅改正、2020年中国の新化学物質環境管理弁法の大幅改正、などがあげられます。また、これまで新規化学物質登録制度のなかったタイ、ベトナム、トルコ、中南米などで当該制度導入の動きがあります。GHS制度はほとんどの国で導入、義務化されましたが、未導入であるインドにおいても義務化の動きが出てきました。DICグループでは現地コンサルタントやサンケミカル社をはじめとするグループ会社の専門家といったグローバルネットワークと連携して、最新情報の収集と必要な対応を進めるとともに、グループ会社や顧客への情報提供に努めています。
EUのREACH規則対応に関して、日本では36物質の登録を行っており、各部署で連携を取り違反となる出荷が起きないよう対策を講じています。また、登録後も法的に要求されている対応を随時進めています。
また、DICは日化協のワーキンググループのリーダー企業として、制定・改正に対する日本企業の意見・提言の取りまとめ、規制当局との意見交換を行っており、日本企業の法規制対応の重要な役割も担っています。各国の化学品規制動向の監視と法改正への迅速な対応の徹底により、2024年度の化学物質の登録、届出に関する法令違反の発生はありませんでした。
2025年の主な取り組み
韓国化評法による既存化学物質再登録については、登録期限が近い物質を中心に、登録期限に向け引き続き滞りなく準備を進めていきます。また、新規化学物質登録制度導入の動きがある各国に対して、必要情報の収集と、登録が必要な物質の対応を進めていきます。インドのGHS制度義務化の動向を注視するとともに、日化協を通じて意見・提言の提出、必要な措置を講じていきます。
教育・制度
01国内DICグループにおける取り組み
エキスパート養成
グローバルな総合化学メーカーである当社は、法令遵守をリスク管理における生命線と位置づけ、教育によるエキスパート養成を進めています。化学物質法規制に関しては、2014年から「化学物質法規制入門コース」を開始しました。
2021年度以降は対象者(主に技術部門のある事業所全体)が受講しやすいよう、オンライン教育へと切り替えて実施しました。2022年度以降は、受講対象範囲を国内DICグループ社員に拡大し、化学物質を適法に取り扱うための教育を実施しています。また、2023年度より化学物質法規実務に即した実務者コースを新設し、教育内容のさらなる充実に取り組んでいます。
ライセンス制度
国内DICグループのライセンス制度は、化学品の輸出入に関する業務に従事する社員に対し、必要な法規制教育の受講と試験を義務化し、合格者のみにライセンスを与える制度です。ライセンスの有効期間は輸出の場合2年、輸入の場合3年です。輸出・輸入担当者には外為法、輸入担当者には化審法、安衛法、毒劇法などに関する専門的な教育を実施しています。ライセンス更新に際しては、再度の教育および試験の合格が必要です。2024年度は教育・試験をすべてオンラインで実施しました。ライセンス保有者は、輸入ライセンスが326名、輸出ライセンスでは基礎的な内容となるクラスBが209名、より実践的な内容であるクラスAが1,449名います。また輸出においてさらに高度な上級コースも110名が保有しています。安全保障貿易管理の環境は厳しくなってきているため、2023年度よりロシア制裁関係(クラスAで対応)および米国法関係(上級コースで対応)を大幅に強化しました。2025年度は通常兵器管理が大幅に強化される見込みであり、この点に対する対応も含めてライセンス制度をさらに発展させていきます。
また「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)の発効により、経済連携協定の重要性も飛躍的に高まりました。これを受けて特定原産地証明制度に関するライセンス制度を2022年度から開始、現時点で150名が保有しています。2024年12月に英国がCPTPPに参加したことからさらに重要性が高まっており、2025年度もこれを拡大していきます。
2024年度現在の輸出入ライセンス保有者

02海外DICグループにおける取り組み
海外DICグループにおける教育
AP地域のDICグループ会社18社で2024年にCIGNASが稼働しました。この稼働に際し、レスポンシブルケア部グローバル連携グループが中心となり、CIGNASに関する教育を実行しました。まずCIGNAS導入各社に対し、CIGNASおよび関連システムのオンライン操作教育説明を計17回行いました。この教育により各社のユーザがシステムの基本的な操作方法を理解し、各自で稼働前の操作自習を行いました。また、操作自習から一定期間後、自習を進める中での不明点に対して回答するQ&Aセッションを25回行いました。Q&Aセッションでは実際の画面を投影しながら不明点を明確にすることで、ユーザの理解を深めました。
VOICE
サンケミカル社と連携強化、化学物質管理の新たな取り組み

DICとサンケミカル社は、化学物質リスク評価と化学物質管理法規制の分野において、新たに協働体制を開始しました。難溶性粒子、コンピュータ上や情報技術を用いてデータ解析を行う研究手法のin silico※シミュレーションによる毒性予測、グローバルでの規制動向や食品接触材料など、様々な分野における連携を強化することを目的としています。
両社の化学物質リスク評価の分野においては、お互いの専門知識やリソースを共有しながら、一丸となってこれら複雑な課題に対して取り組んでいます。また、化学物質管理法規制の分野においては、両社の関係者が対面で定期的な情報共有の場を設けることで、連携を強化していくことに合意しました。具体的には、四半期ごとに会議を開催し、半年ごとに化学物質管理法規制に関するニュースレターを発行し、今後の国際的な規制動向や業界団体からの情報について、関係者全員で情報共有を行います。さらに、化学物質の情報管理や再分類に関するプロジェクトでも連携し、関連情報を効率的に共有することで、顧客向けの確実な安全性情報を提供していきます。
このような連携により、最新の規制要件の対応をすることができ、最終的により効率的で効果的な規制遵守を確かなものにしていきます。
- in silico:「コンピュータ上で(の)」 の意。コンピュータを用いたシミュレーションやデータ分析等によって化学物質の毒性を予測すること。
Dr. Heidi Stratmann Global Director for Toxicology and Product Safety Sun Chemical
動物実験に対する考え方
DICグループは、3R(Replacement:動物を使用しない実験方法への代替、Reduction:実験に使用する動物数の削減、Refi nement:実験方法の改良による実験動物の苦痛の軽減)の原則を基本とし、動物を使用しない代替法および構造活性相関(QSAR:Quantitative Structure-Activity Relationship)による安全性評価を進めています。
製品の安全輸送
物流活動においては、万が一事故が起きた場合にも、環境面、安全面で適切に対処できるようSDSを簡略化したイエローカードを作成し、物流関係者に必要な情報を提供しています (詳細は、物流安全を参照)。