IT・DXの推進

顧客価値の創出と事業基盤の強化を両立へ

DICグループは、デジタル技術とデータの活用により、顧客価値の創出と事業基盤の強化を両立させるIT・DXを推進しています。 サプライチェーン、営業・マーケティング、生産、研究開発、基幹業務システムの各領域において、業務改革と意思決定の高度化 を進めるとともに、グローバルでの事業運営を支えるデジタル基盤の整備を加速しています。今後も、AI活用、データマネジメント、 セキュリティ強化、人材育成を通じて、「DIC Vision 2030」の実現に向けた変革を着実に進めていきます。

1. サプライチェーンマネジメント(SCM)

サプライチェーン全体のモノと情報の流れを可視化し、地域・事業を横断した最適化を図る「サプライチェーン改革」を推進しています。DICグループ全体で自動連携可能なデジタル技術を活用し、最新の需要情報に基づく計画業務をオンラインでリアルタイムに行う「デジタルSCMプラットフォーム」を構築し、2023年度より主要事業で本格運用を開始しました。2025年度は、このプラットフォームの運用定着および対象拡大が大きく前進しました。アジア地域のカラーマテリアル事業ではプラットフォーム上での需給調整対象を全品目に拡大し、在庫削減や納期遵守率向上に貢献しました。パフォーマンスマテリアルおよびケミトロニクス事業でも日本国内を中心に定着が進みました。BIツールを活用したダッシュボードの整備により事業運営に必要な情報を視覚化し、業績管理や意思決定の高度化を進めるとともに、業績管理業務の効率化を実現しました。

また、Sun Chemical社(米国、以下「サンケミカル社」)においても同じプラットフォームの導入が2025年度に正式決定し、構築フェーズを開始しています。これにより、グローバルで統一したSCM基盤の構築が動き出しました。

今後に向け、アジア地域のDICグループでは、プラットフォームを既に導入済みの各事業において効率化・高度化・脱属人化の効果を一層高め、事業運営に不可欠な仕組みへと進化させていきます。また実行系領域の生産性向上に向け、基幹システムの高度活用を検討していきます。

サンケミカル社では2026年度中のプラットフォーム稼働開始を予定しており、リアルタイムな製販連携を通じた在庫削減や一層の業務効率化を実現していきます。DICグループ全体としては、各事業戦略に沿った最適なSCM体制を構築し、グローバル運営体制(GOM)の実現を着実に進めていきます。

2. デジタルマーケティング・営業支援

2025年度は、DICが掲げるDXを通じた顧客体験価値の向上と事業変革の実現に向け、営業・マーケティング領域におけるデジタル活用を着実に進めました。デジタルマーケティングでは、インターネット上の検索データを活用した顧客ニーズの把握とアプローチを開始し、従来接点の少なかった顧客層への提案機会を拡大するとともに、新たな商談創出にもつなげました。また、常設オンライン展示会を設置し、顧客が関心や課題に応じて製品やソリューション情報へいつでもアクセスできる環境を整備することで、継続的な顧客接点の創出と情報提供の高度化を実現しました。さらに、メールマーケティングにおいても、顧客データを活用した配信の高度化に取り組み、顧客ごとの関心に即した情報提供を推進しました。これにより、既存顧客との関係維持・強化に加え、新たな顧客接点の創出にも寄与しています。加えて、営業支援システムの活用高度化に向けた取り組みも進め、今後のさらなる活用拡大に向けた基盤整備を推進しました。

2026年度以降は、2025年度に整備・着手した各施策を基盤として、顧客接点の質の向上と営業・マーケティングの一体化をさらに推進します。常設オンライン展示会については、引き続き安定的に運用し、顧客が関心や課題に応じて必要な情報へアクセスできる環境を維持することで、継続的な顧客接点の確保を図ります。メールマーケティングにおいては、顧客データのさらなる活用を通じて配信リストの精度向上を図り、顧客属性や関心領域に応じた情報発信を強化することで、提案機会の拡大と既存顧客との関係深化を両立させます。また、営業支援システムについては、活用のさらなる推進により、部門横断での顧客情報共有や営業プロセスの高度化を進め、提案活動の質的向上を図ります。併せて、営業とマーケティングの連携を強化し、データを起点とした意思決定の高度化にも取り組みます。これらの取り組みにより、持続的な顧客価値の創出と事業競争力の強化につなげていきます。

3. スマートマニュファクチャリング

DICでは自社製品の生産に不可欠なプロセスである「合成反応」、「分散・混練」、「混合」、「分離・精製」といったコア要素技術の研究と進化に継続的に取り組んできました。さらに、各製品に特化した生産プロセスの高度化を通じて、製品価値の維持・向上を実現してきました。一方で、生産プロセスにおける装置構成や方式の進化は、近年成熟段階に達しつつあります。その結果、生産における競争力や差別化の源泉は、プロセスの中に蓄積された「職人性」や「ノウハウ」へと移行しています。こうした背景のもと、AI・IoT・データ分析などのデジタル技術を活用し、生産活動をより高度かつ効率的に最適化する「スマートマニュファクチャリング」の実現は不可避となっています。すなわち、従来の「作り方」そのものを進化させる取り組みから、「作り方の捉え方」に着目した革新へとシフトする必要性が高まっています。

  • 従来の価値創造の軸
    材料設計 × 生産プロセス開発(ハード中心) × 製造技能人材
  • 「DIC Vision 2030」Phase2で目指すスマートマニュファクチャリングの軸
    材料設計 × 生産プロセス開発(ハード中心)× デジタルによる再現・補強※
  • 人の作業の単なる“置き換え”ではなく、“知的創造性の再現・補強”に本質を置く

2025年度の主な取り組みとして、DICの代表的な生産プロセスであるバッチ反応に適用可能なプロセスインフォマティクス技術を、株式会社日立製作所とともに堺工場で実用化し、合成樹脂製造プラントの運転自動化を目指したデジタルツイン技術の深耕に取り組みました。これにより、「主力既存製品の品質安定化」、「新製品・改良品の直行率向上」、「人に依存した反応管理業務からの脱却」を推進するとともに、そこで得られた知見をもとに、展開効果の高い製品群を見極めた上で、技術開発をさらに加速させました。その成果として、新たに小牧工場と四日市工場の生産プロセスを対象としたAIモデルの検証を開始し、具体的な効果創出に向けた取り組みを進めました。

2026年度以降の取り組みとして、主要事業所におけるコア生産プロセスを対象としたAIモデルの検証にとどまらず、基幹システム(SAP)やサプライチェーン領域との連携を見据えたデータ統合の高度化、およびそれを実現するツールの探求を進めていきます。これにより、生産プロセス単体の最適化から、需給・在庫・原料調達・生産計画を含めた全体最適化への進化が可能となり、収益性の向上や意思決定の高度化を実現していきます。さらに、こうした取り組みを通じて、「経営と現場が一体」となった真のスマートファクトリーの構築を加速させていきます。

また、本構想においては、生産効率の向上にとどまらず、エネルギー使用の最適化やCO2排出量の可視化・削減といった観点も重要な要素と位置づけています。デジタル技術を活用し、「環境負荷低減と経済価値の両立」を図ることで、カーボンニュートラルの実現にも貢献していきます。

4. データサイエンス

技術部門では2021年に設立したデータサイエンスセンターを基軸とし、データサイエンス技術・計算科学技術利活用による予測・設計・解析を推進し、新製品開発期間の抜本的な短縮、新たな価値創造、原理原則の解明に取り組んでいます。さらなる成果の拡大、高度化を目指し、2025年度に取り組んだ主な施策は以下のとおりです。

  • 研究開発のさらなる効率化・・・目的とする特性に向けて効率的に実験条件を探索・実施することができるツールの利用体制を整備。データサイエンス担当者だけではなく実験科学を担当する研究開発メンバーも活用できる体制を整備。
  • 量子コンピュータの実装推進・・・量子アニーリングによる可視光スペクトルデータから重要波長領域を抽出し、材料特性を予測する新たなアプローチを東北大学と開発し、2025年の国際会議で共同発表。従来手法と比較して、より高精度な特性予測が可能となり、材料設計の効率化と精度向上の両面での効果が期待されます。下図はブドウの画像から甘さ(糖度)を高精度で予測するモデルを構築した例で、本技術は材料開発・品質設計・プロセス最適化への応用が可能です。
  • 生成AIの活用推進・・・社内技術文書やトラブル解決事例を対象としたRAG(検索拡張生成)スキームを設計し、業務の高速化、自動化に向けた体制を整備。
  • グローバル展開・・・海外グループ会社との連携を強化し、ベストプラクティスの共有やデータサイエンスを活用した共同課題解決を推進。今後も、データサイエンス技術・計算科学技術利活用による成果を拡大すべく、活用の裾野の拡大、対象領域の拡大、技術の高度化を推進します。

5. DXを支えるセキュアな人材育成と基幹業務システム

2024年度に刷新されたアジア地域のDICグループに続き、2025年度よりサンケミカル社でも2027年度の本稼働を目標に基幹業務システムの刷新を開始しました。アジア地域では、刷新へのナレッジ提供を実施しています。全執行役員およびサンケミカル社CAO、CIOが参加する「I&T戦略協議会」、並びに各業務領域の責任者とIT部門が一体的にITを運営するための「グローバルプロセスオーナー制度」を整備し、グローバルにおけるデジタル運営基盤を構築しました。これにより、デジタルテクノロジー活用などの業務環境変化やテクノロジー進化に対して、会社として適切なIT投資の判断が行える環境構築などのガバナンス強化に取り組みました。また、急増するサイバー攻撃への備えとして、侵入テストおよび第三者アセスメントを実施し、その結果を踏まえて、中長期セキュリティロードマップを作成しました。加えて、セキュリティ関連ガイドラインの更新、従業員へのセキュリティe-ラーニングおよび不審メールテストによるデジタルリテラシーの強化を実施しました。

2026年度以降は、デジタル運営基盤を活用し、サンケミカル社の基幹業務システム刷新のサポートのほか、連携を密に実施し、ITにおいてもグローバル運営体制(GOM)の確立を目指します。サイバー攻撃に対しては、中長期セキュリティロードマップに基づき、セキュリティ基盤整備とITガバナンスの強化により、検知・対応・復旧の3つの柱に重点を置いたリスクの最小化に努めていきます。AIに関しては、データマネジメントを実践し、AI Readyな状態を目指すデータ駆動型経営への基盤作りとエージェント型AIによるデータ分析や業務の自動化の両輪で進めていきます。

6. グローバルな情報セキュリティ体制の確立

DICグループでは、事業活動を行う上で、情報セキュリティを経営上の重要項目の一つに位置づけ、「情報セキュリティに関する方針」を定めています。会社が保有する情報資産を、役員・従業員各々が責任を持って日常的に適切に管理し、機密情報の適正な活用と情報資産の効果的利用を図ります。また、内部監査の実施を通じて、現状の問題点を確認し、想定されるリスクに備え、継続的な改善に努めています。加えて、IT部門管掌役員を責任者とした情報セキュリティ部会を定期・随時開催することで、新たなリスクに適応した規程・ガイドラインの更新を適時実施し、グループへ周知しています。情報セキュリティ強化に関する年次目標と施策は、DICグループのサステナビリティ委員会の承認のもとで実施され、進捗が管理されています。

2025年度の主な活動として、これまでのアセスメント結果とインシデント教訓を反映し、ロードマップを全面刷新して「情報セキュリティ対策ロードマップ2030」を策定。5領域(組織・運用・IT・制度/ルール・教育)を対象に、マニュアルとガイドラインを改定し、22項目のグループ共通施策を展開したほか、エンドポイントセキュリティの全面展開、訓練・啓発の強化などにも着手しました。

経済産業省が定める「DX認定事業者」の認定

DX(デジタルトランスフォーメーション)認定制度とは、「情報処理の促進に関する法律」に基づき、経済産業省が定めた「デジタルガバナンス・コード※」に対応し、DX推進の準備が整っている企業を国が認定する制度です。
当社は2022年に初めて「DX認定事業者」の認定を取得し、更新審査を経て2026年9月末までの適用が認められました。
今回の認定更新では、「デジタルガバナンス・コード2.0」の基本的事項である「経営ビジョン・ビジネスモデル」、「戦略」、「成果と重要な成果指標」、「ガバナンスシステム」への対応が審査されました。

  • 経済産業省は「企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応」を、デジタルガバナンス・コードと定めました。2020年11月に策定されたのち、2022年9月に「デジタルガバナンス・コード2.0」に改訂され、2024年9月には「デジタルガバナンス・コード3.0」へと改訂されています。このたびの当社の認定更新は「デジタルガバナンス・コード2.0」を基準として審査されたものです。2024年12月の認定より、新基準が適用されます。
DX認定事業者