特集 実は半導体“総合”材料メーカーDICの強みとさらなる成長への布石

「DIC Vision 2030」の成長牽引事業が半導体材料です。AI融合社会を背景に半導体市場が高い成長を続ける中、他社に例を見ないほどの幅広い製品ポートフォリオを有するDICの強みを活かし成長投資を続ける計画です。

実際、半導体材料を含むケミトロニクス事業本部の2025年度の業績は売上高653億円(前年度比7.0%増)、営業利益78億円(同3.2%増)、営業利益率12.0%となり売上規模は全体の6%強ながらも営業利益では全体の約13%※に達しています。AI向けデータセンターの急増などによって半導体市場は今後も拡大が見込まれており、外部調査会社の予測では、同市場は2027年に2025年比約2.4倍の1.9兆ドル(約300兆円)に達する見通しです。DICの半導体材料も、売上面・利益面の双方で高い成長性が見込まれています。

※事業利益全体に対する比率

DICの半導体材料のラインアップ

半導体の製造は前工程・後工程の他、基板に搭載する実装に分かれます。また、製造過程で必須であるものの最終的に製品に残らない工程材料と半導体チップや周辺に残る機構材料に分かれており、DICの製品は下の図にある様々な場面で使用されています。

注目の製品を紹介

フォトレジスト用ポリマ

半導体の微細回路を形成する際に使われ、半導体の性能向上につながる「微細化」のカギを握る材料。DICはフォトレジストの骨格材料となるポリマを提供。特徴として、感度・耐熱性に優れ、近年注目の「厚膜用途」に対応可能。今後は高集積化が進む後工程向けの需要拡大にも期待できます。

エポキシ樹脂

半導体回路を保護する封止材の他、半導体・電子部品を載せて配線接続する各種の基板のメイン材料として使われます。ハイエンド領域では高周波対応が求められ、DIC独自の活性エステル型エポキシ樹脂硬化剤が高く評価されています。目下はAI半導体などに使うビルドアップ基板用の需要拡大が期待されています。

工程用ストレッチテープ

微細なハンドリングが求められる電子部品の生産工程で使用可能な工程用ストレッチテープです。伸ばすだけで剥離することができるため、顧客の製品への負荷を大幅に低減でき、作業時間の短縮が可能です。今後は電子部品の微細化に伴い、煩雑化する生産工程の簡略化に貢献できます。

DICの半導体材料のユニークネスを活かした成長戦略

半導体製造の川上から川下まで、ここまで幅広い製品を提供する企業は“素材王国”の日本でも少数。多様な製品提供を通じて総合的に得られる経験や情報を統合すべく、ケミトロニクス事業本部を2024年1月に設立。それにより、製・販・技一体の組織体制も構築され、新たな価値創出ができるようになりました。

DICの総合力の
発揮が期待される
製品・領域

中空糸膜
SEPAREL®

次世代低誘電樹脂
EPICLON®NE-X

銀ナノ粒子導電材料
PLAZMO®

低誘電
ボンディングシート

・中空糸膜モジュール

フォトレジストなどの薬品に含まれたごく微小な気泡などが欠陥の原因に。DICの「SEPAREL®」は気泡を取り除き、半導体製造における歩留まり向上や塗布均一性によるラフネス(ばらつき)の低減といった品質向上に寄与します。
DICが提供するフォトレジスト用ポリマーの知見も踏まえ、前工程全体を俯瞰した上で、全体最適なソリューションを顧客に提案できます。

・次世代低誘電樹脂
・銀ナノ粒子導電材料
・低誘電ボンディングシート

AI半導体の他、5G/6G通信といったハイエンド領域では前工程における微細化の限界が進む中、後工程の微細化に注目が集まっています。中でも高速メモリHBMやチップレット技術の広がりの他、先端通信世代5G/6Gの高周波信号の伝送効率化などを背景に、微細加工や低誘電化といった高度なニーズが求められています。
こうした需要を取り込むため、DICでは、自社が抱える有機・無機の両材料にコンパウンド(混錬)技術を適切に組み合わせた総合的技術によって、顧客にとって最適なソリューションにカスタマイズすることができます。

主な戦略投資

  • 2023年にPCAS Canada社を買収
    →フォトレジスト用ポリマーの製品強化
    →2030年までに同材料の売上高を150億円へ
  • 2029年稼働予定の千葉工場のエポキシ樹脂プラントを新設
    →売上高を2024年度比4割増へ

長期経営計画での位置づけ

「DIC Vision 2030」では、半導体材料は成長事業に位置づけられます。同事業に含まれるバッテリー・フィジカルAIに対しても半導体材料の事業規模は大きく、DICの成長寄与度は高いと期待されています。

AIや6G、ARなど次世代の情報社会のインフラとなる高機能素材を提供します

執行役員
ケミトロ二クス事業本部長

原 穂

DICは、印刷インキ、顔料、樹脂などの分野において、100年以上にわたり社会の発展を素材の力で支えてきました。これまでに培ってきた技術基盤や知見を礎に、変化する社会課題に応え続けるためには、既存領域にとどまらず、新たな領域へ挑戦し続けることが重要であると考えています。

その取り組みの一つが「ケミトロニクス」。化学(Chemistry)とエレクトロニクス(Electronics)を融合させた本分野では、半導体や電子デバイスの性能を支える高機能素材の開発を通じて、次世代の情報社会を下支えすることを目指しています。

近年、AIやIoTの急速な普及によってデータ通信量は飛躍的に増加しています。それに伴い、半導体の高性能化が進む一方で、電力損失や発熱といった課題はますます顕在化しています。

私たちは素材の力によって電気エネルギーの損失を減らし、デバイスの高性能化や長寿命化に貢献することで、社会全体の生産性向上と持続的な成長を支えていきたいと考えています。

また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に加え、グリーントランスフォーメーション(GX)への対応も重要なテーマです。素材開発の初期段階からエネルギー効率向上や環境負荷低減を考慮し、持続可能な社会へ貢献することも私たちの使命です。

私たちが提供する素材の多くは、最終製品として直接、皆様の目に触れるものではありません。しかし、AIや6G、ARといった次世代技術を支えるインフラの一部として、まるで「空気」のように社会を支える存在になりたいと考えています。見えないところで価値を生み出し、未来の社会基盤を支える――――そのような存在として、私たちは挑戦を続けていきます。