特 集 「Direct to Society」で創る未来の彩りと快適

社会とともに未来を創る—直接社会にアプローチし課題を発見、価値を提案する企業へ
「Direct to Society」とは:生活者に近い視点で、未来を予測し、革新的な製品開発・事業化につなげる試み
通信やAIの急速な進化に伴い、社会基盤を支える化学メーカーも大きな変革の時代を迎えています。DICはこれまで顧客の要望に沿った製品開発を得意としてきましたが、受動的な対応だけでは、消費者や顧客のニーズを把握することが難しくなってきています。そこで、DICは社会に直接目を向けて生活者との距離を縮め、能動的に未来を予測し、まだ顕在化していない課題を見つけ出し、解決する「Direct to Society(D2S)」という試みを打ち出しました。
このD2Sの試みのもと、まずは注力するスマートリビング領域からD2Sを加速させ、従来とは異なる化学を超えたテーマにも挑みDICグループが持つ創造性の力を体現していきます。
Episode1 〜Direct to Society
全方位マルチコプター「HAGAMOSphere®」:革新的なデザインと機能がCESで反響を呼ぶ
2025年1月、米国ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES2025」に初出展しました。同展示会において、当社が掲げる「Direct to Society」のコンセプトモデルとして、全方位マルチコプター「HAGAMOSphere®(アガモスフィア)」(プロトタイプ)を世界初公開しました。革新的なデザインとエンジニアリング機能が高く評価され、CES Innovation Awards®(ドローン部門)を受賞しました。CESの反響は大きく、各国のエンジニア、マーケター、クリエイターたちからの関心を集め、メディアにも注目されました。

開発秘話1
スケッチから始まるアイデアの連鎖
従来のドローンとは違う動きを模索したきっかけは、2023年に社長から渡された「これを飛ばせないか?」という手書きスケッチから始まりました。最初はその大胆なアイデアに戸惑いましたが、社内各分野の技術とアイデアを結集し、ドローンの固定観念を捨て8つのプロペラの回転を独自のアルゴリズムで制御することで、機体を傾けることなく水平に飛行可能な構造にたどり着きました。開発を大きく進展させた「HAGAMOSphere®」は幾何学状の球体ガードを装着することで、地上では転がって走行することも可能になり、狭小空間や複雑な環境下でもスムーズに動作し、点検・監視・物流などの多様な分野での活用が期待されています。メンバーの士気もCESを通じて向上しており、今後も機体精度を向上させ、市場で活用できる機体へとチーム一丸となって開発を進めます。
社長の手書きスケッチの一部


新事業統括本部
インキュベーション推進ユニット
AI デバイスグループ
開発秘話2
DICがドローンビジネスに取り組む意義
なぜ、DICがドローンを作るのか、そこにはドローンを構成する周辺材料や流体解析、成型加工にDICならではの設計技術が活かされています。高い弾性率を持った強靭かつ柔軟なエポキシのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)や、軽量化のためのPPS樹脂などの材料設計技術は、化学メーカーのDICにとっては決して新たな事業戦略ではなく、当社が長い間、培ってきた技術が活かされています。
今回CESに初出展したことでマーケットからの期待に大きな手応えを感じました。ドローンやロボットフィンガーなどのデバイス・モジュールビジネスを通じて社会をとらえ、従来の化学メーカーの枠を超えて価値やソリューションを提示することで、AIとデバイスの融合領域などの業種や業界の垣根を超えて新たな事業を創出することを目指しています。

池田社長と展示会説明メンバー

新事業統括本部
インキュベーション推進ユニット・リーダー
小寺 真介
Episode2 〜Direct to Society
手で行うように思いどおりにつかめるロボットフィンガー
「MoR®」で顧客の「もっと」を実現
DICが独自の素材技術とメカニカル設計によって開発したロボットフィンガー「MoR®」は、人の手で行うような繊細な動作でしっかり持つことを実現する新技術です。一般的なロボットハンドはカメラやセンサを駆使して物を認識し、つかむ動作を行いますが、「MoR®」はカメラを使用せず、歪みを計測するセンサパターンを描画したフィンガーが力を調整して、臨機応変に精密なグリップを可能にしています。
この技術の開発背景には、DICの持つ特殊素材技術が大きく関わっています。樹脂の持つ形状の自由度と独自のコンパウンド技術を活用し顧客の用途に合わせたフィンガー形状とセンサーパターンにより、適切な力でつかむことが可能になりました。これにより、食品や精密機器など、デリケートな物体を取り扱う場面でも応用が期待されます。「MoR®」は、製造業の自動化を一歩先に進めるソリューションとして、多くの業界から関心を集めています。

カバーガラス、柔らかい豆腐を掴むロボットフィンガー

新事業統括本部
インキュベーション推進ユニット
AI デバイスグループ マネジャー
森 耕太郎
Episode3 〜Direct to Society
全社プロジェクトでD2Sを実践
新しいビジネスアイデアとそれらを推進できる人材の創出を目指す
2024年に関係部署メンバーに加え、全社(国内)公募で「スマートリビングプロジェクト」を立ち上げました。プロジェクトメンバーは約50名。身近にある生活環境や生活体験(スマートリビング)を対象領域とし、従来の研究開発スタイルから発想を転換し、一人ひとりが直接社会を見つめる視点を持って、起こりうる未来から想定される課題や価値に対する開発、ソリューションの検討に取り組んでいます。
プロジェクトメンバーは、従来の枠にとらわれず、視野を広げて柔軟に発想し、考えたアイデアをビジネスにつなげていく取り組みにおもしろさと難しさを感じながらも奮闘しています。このようなプロジェクトで経験した新しいアプローチ手法を通じ、新たな価値を多様なメンバーとともに創造できる人や環境を作っていくことが、今後のDICの発展や経営ビジョンの実現につながっていくと思います。

プロジェクトのチームセッションの様子

経営企画部
スマートリビングプロジェクト マネジャー
西原 美奈
2025年度の特集

「Direct to Society」で創る未来の彩りと快適
社会とともに未来を創る—直接社会にアプローチし課題を発見、価値を提案する企業へ