サステナビリティ関連技術と製品の開発
要素技術を活かしたソリューションの提案
9 産業と技術革新の基盤をつくろう 12 つくる責任 つかう責任

主な取り組みの目標と実績

持続的社会に貢献する新製品・新技術の開発力の向上

年度 目標 実績 評価
2024
  • グローバル技術拠点が一体となった戦略製品・新技術の開発促進
  • 複合化、オープンイノベーション(OI)、AI活用による高付加価値創出技術の開発加速
  • 顔料関連製品では、機能性、デザイン性に優れる黒色顔料や、自動車塗装用のエフェクト顔料などを開発した
  • 製品開発へのデータサイエンス積極活用により開発時間を短縮、また各種分野で産官学連携等により開発を加速した
★★
2025
  • グローバル技術拠点が一体となった戦略製品・新技術の開発促進
  • 複合化、OI、AI活用による高付加価値創出技術の開発加速

サステナブル製品・サービスの開発推進

年度 目標 実績 評価
2024 サステナビリティに貢献する製品の開発促進 合成樹脂関連製品では、各種インフラ補修材料においてバイオマスマーク取得製品を開発した ★★
2025 サステナビリティに貢献する製品の開発促進
  • 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
    [ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力

持続的成長に向けて

DICグループは、経営ビジョン「彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに - Color & Comfort -」の実現に向けて、色彩・光学、有機材料設計、高分子設計、分散など既存基盤技術の深耕に加え、新たな基盤技術として無機材料およびバイオ材料設計の確立、MI (Materials Informatics)などAI技術の活用とAI分野のスペシャリスト育成に取り組んでいます。
グループ全体の技術リソースの融合により、また産官学連携やCVC活用などオープンイノベーションも積極的に活用し、持続的成長につながる次世代製品・新技術の開発を目指しています。

従来の基盤技術

具体的な取り組み

DICグループでは、DIC製品をご使用いただく各種の場面において、より環境に配慮した製品を具現化するための様々な素材、部材の開発に取り組んでおり、私たちの製品が用いられることで地球環境問題の解決に貢献していくことを目指しています。なお、国内DICグループでは、技術リソースの約51%を環境負荷の低減に関わる研究テーマへ投入しています。具体的な取り組みは以下のとおりです。

パッケージング&グラフィック領域

印刷インキ分野では、油性インキとUVOP(Over Print)ニスを組み合わせた次世代型紙器用インキを開発し、「TOKYO PACK2024 ―2024東京国際包装展―」で発表しました。また、PFAS(有機フッ素化合物)フリーでありながら耐油性、耐水性に優れた食品接触可能な水性コーティング剤が、フィルムを使用しない紙製フードケースに採用されました。その他、カラーマネジメント技術を活用し、オフセット、グラビア、フレキソ、インクジェットそれぞれの印刷方式で出力したい色彩情報を正確かつ瞬時に再現できるサブスクリプションタイプのデジタルサービスのリリースも行いました。
パッケージ材料では、ポリスチレンの溶解分離リサイクル設備の稼働を開始し、業界で初めてマテリアルリサイクルによる色柄つき発泡食品トレーのトレーからトレーへの水平リサイクルを進めています。
海外では、サステナビリティ戦略の一環として、高密度ポリエチレン容器ラベルのリサイクル性基準を満たす脱墨可能な水性インキや、高温食品包装用のバイオ再生可能低マイグレーションインキを開発しました。

カラー&ディスプレイ領域

ディスプレイのカラーフィルタ用の顔料の新製品開発を進めている他、化粧品用ではユニークな色調とサステナビリティをコンセプトとしたエフェクト顔料の新製品を市場に投入しました。またインクジェットインキ用では食品包装、塩ビ壁紙、ラベルなど非吸収メディアに対応した水性顔料分散体の市場展開を開始しました。
海外では、日光による発熱を抑え、機能性、デザイン性に優れる黒色顔料の製品群を拡充し、また自動車塗装に高彩度の色と輝きを提供するエフェクト顔料を市場に投入しました。

ファンクショナルプロダクツ領域

合成樹脂分野では、次世代通信規格5G、6G向けの電子回路基板用低誘電樹脂の量産を開始しました。また、易解体性をコンセプトにしたエポキシ樹脂や、200℃以上の耐熱性とリサイクル性を備えたエポキシ樹脂硬化剤の開発も進めています。さらに、ひび割れ補修材、滑り止め舗装用バインダー、排水性舗装用トップコートなど各種インフラ補修材料にバイオマスマーク取得製品を開発しました。界面活性剤では、PFASフリーで高い消泡性、熱安定性、優れた耐久性を実現した自動車(EV)向け潤滑油用消泡剤を開発し、PFASフリー製品のラインアップ拡充を進めています。めっきメーカーと共同開発したPPSコンパウンドは、既存のプラスチックめっき設備で金属めっき処理が可能となり、電動化が進む自動車の電子機器筐体などの金属部品を樹脂化し、周波数帯に合わせた電磁シールド特性を付与することができます。工業用テープでは、スマートデバイス向けに超薄型粘着テープのノントル型グレードのラインアップ拡充と増産を行いました。

グローバルな研究開発体制で新製品開発を推進

国内DICグループの研究組織は、事業に直結した製品の開発・改良を担う技術統括本部とDICグラフィックス株式会社の技術本部、基盤技術の深耕と創生を担うR&D統括本部、戦略的な新事業創出と事業部門の次世代製品群の事業化を担う新事業統括本部から構成されています。海外DICグループでは、SunChemical社の研究所(米国、英国およびドイツ)、青島迪愛生創新科技有限公司(中国)、主に中国、アジアパシフィック地域における技術開発活動の拠点となる印刷インキ技術センター、ポリマ技術センター、藻類研究センター、ソリッドコンパウンド技術センター、顔料技術センター、テープ技術センター、3Dプリンティング材料研究室などがあります。これらの組織が一体となって、グローバルに製品・技術の開発を行っています。

プロダクト・スチュワードシップ

DICグループは、プロダクト・スチュワードシップに配慮した事業活動を推進しています。印刷インキや接着剤などグローバルに展開する食品包材向け製品では、プロダクト・スチュワードシップの活動チームを編成しています。各地域の規制に関する情報やトピックの共有・周知、教育を実施し、自社製品の製品設計への活用、グローバル顧客の求めるサプライチェーンでの証明書の発行に反映しています。
また、世界各国の法規制や環境対策の動向を把握して各国の化学物質の規制に適合する製品の設計と、環境アセスメントの実施を継続していきます。

知的財産戦略

基本方針

DICグループではDIC Vision 2030の実現のため、“構造改革と効率性の追求”および“注力領域における新事業の立ち上げ”を中心とする重要施策において、知的財産のグローバル事業戦略との一体的活動を推進しています。
注力領域であるスマートリビング領域における新事業の立ち上げに向けては、“Technology Intelligence機能”をより一層活用することで“競争優位な知財ポートフォリオ構築戦略”を進める一方、“知財リスクマネジメント体制”をさらに充実させ、ステークホルダーから信頼される無形資産活用体制を構築していきます。

Technology Intelligence(TI)活用による事業戦略策定

Technology Intelligenceとは知財情報や各種技術情報を分析し、必要に応じて他のビジネス情報を組み合わせ、最良の意思決定につながる価値を付加した情報です。TIを活用し、事業を推進する機能を知財センターに設置したことで、成功確率の高い施策への絞り込みを円滑に進めメリハリのある経営資源配分に寄与しています。具体的には、新規事業や技術開発テーマの初期段階として、Basic-IPLと定義した競合、顧客、リスクなどのコンパクトなコア情報を提供し、成功確度の高いテーマ選定に貢献しています。また、技術開発、上市、量産化の各ステージにおいては、TIにより得られた情報に基づき事業が適切に推進されているか確認するプロセスを設置し、新たな事業創出の仕組みであるDirect to Societyの活動を支援しています。

図1: Technology Intelligence機能

競争優位な知財ポートフォリオ構築戦略

新事業の早期立ち上げに向けて、すべてのタイムフレームのテーマにおいて事業部門・技術部門・知財部門が一体となって知財活動に取り組んでいます。図2に示すように、知財権としての活用は当然ながら、テーマの取捨選択、テーマ提案・選定の場面においてもTIを戦略情報として活用し、三者間の合意形成に役立てています。

図2: 全タイムフレームTIと知財戦略

注力テーマ選定の具体的取り組みの一例として、図3に示すように知財情報から市場要求技術等の外部環境と、自社保有技術等の内部環境を比較・解析し、これらの親和性を評価する手法を構築しています。この手法により、競合にないユニークな技術領域でのテーマ選定や、開発初期からの競争優位な特許ポートフォリオ構築を推進しています。このような活動を通じ、ケミトロニクスをはじめとする注力領域において、早期に有効な知財ポートフォリオを構築し、当該分野におけるグローバルな競争優位性を確保していきます。

図3: 注力テーマ選定の取り組み例

当社のポートフォリオ戦略は、株式会社パテント・リザルトが公表する化学業界ランキングおよびLexisNexis社によるグローバルでの特許価値成長ランキングにおいて高く評価されています。

知財リスクマネジメント体制

DICグループは、コンプライアンス遵守の基本方針に基づき、新市場・新技術領域の特許調査の徹底、契約マネジメント・機密情報管理の徹底、模倣品・侵害品・類似商標の排除活動を行っています。当社は、サステナビリティ委員会にリスクマネジメント部会を設置し、グローバルにおけるリスクを管理する中で知財リスクについても最小化を図っています。リスク排除の実務においては、知的財産センターの担当者が中心となって対策に取り組んでいます。また、“Patent Classification”などAIを用いた新しいツールも積極的に導入することで特許調査の効率化と網羅性の両立を図っています。
さらに、当社では知財ポートフォリオと事業の整合を図る知財判定会議や、技術開発のインセンティブ向上のための特許報奨を審議する特許審議会を重要会議と位置づけています。そして、経営層による実効的な監督により、変化の速い事業環境に柔軟に対応した知財活動を推進するとともに、知的財産への投資等に関する適切な開示を行うことでステークホルダーから信頼される無形資産活用体制を構築しています。

VOICE

インフラの長寿命化に資するサステナブルなメタクリル樹脂を開発

近年、カーボンニュートラルの推進に伴い、土木インフラ分野では脱炭素に向けた材料や工法の技術開発が急速に進んでいます。当グループは、業界に先駆けてバイオマス原料を活用した、インフラ補修用および舗装用の製品を3種類開発しました。
これらの製品は、従来品と同様に高い耐久性を維持しつつ、温室効果ガス(GHG)排出量の削減に貢献します。また、サステナブルな製品として高い訴求力を持つバイオマスマークを取得し、市場でのシェア拡大を目指しています。
今後も、人々の暮らしを支え続ける製品の開発に努めていきます。

DIC 株式会社 機能性材料技術本部 機能性材料技術4グループ 荒瀬 瑞月