ヒト小腸・肝臓オルガノイドを用いてスピルリナ由来フィコシアニンの脂質代謝改善メカニズムを解明 ―ヒトオルガノイド評価技術を活用したヘルスケア素材開発への応用に期待―
- 研究開発
DIC株式会社(本社:東京都中央区、社長執行役員:池田尚志、以下「DIC」)は、東京大学大学院農学生命科学研究科との共同研究により、スピルリナ由来成分「フィコシアニン(Phycocyanin:PC)」による脂質代謝改善のメカニズムを、ヒト生体に近い環境を再現したオルガノイド評価技術*1を用いて解析しました。本研究では、ヒト小腸・肝臓オルガノイドを活用することで、フィコシアニンが小腸における脂質吸収と肝臓における脂質分泌の双方に作用することを明らかにしました。本研究成果は、2026年7月16日付でElsevier社の国際学術誌「Current Research in Food Science」に掲載されました。
研究の背景
生活習慣の変化に伴い、脂質異常症や肥満などの代謝性疾患は世界的な健康課題となっています。そのため、食品由来の天然成分を活用した健康維持・増進への関心が高まっています。DICは長年にわたりスピルリナ由来素材の研究開発を進めており、その主要成分であるフィコシアニンには、抗酸化作用や皮膚保湿作用、脂質代謝改善作用などが報告されています。一方で、フィコシアニンが体内のどこで、どのような仕組みで脂質代謝に作用するのかについては、十分には解明されていませんでした。
そこで本研究では、東京大学が開発したヒト小腸・肝臓オルガノイド技術を活用し、ヒトに近い環境でフィコシアニンの作用メカニズムを解析しました。
研究成果のポイント
・ スピルリナ由来フィコシアニンが、小腸での脂質吸収を抑制する可能性を見出しました。
・ フィコシアニンの消化によって生成するペプチドが、脂質代謝に関与することを明らかにしました。
・ 消化後フィコシアニン、および消化により生成されたペプチドは、小腸での脂質吸収だけでなく、肝臓での脂質分泌にも作用する可能性が示されました。
・ ヒト小腸・肝臓オルガノイドを組み合わせることで、臓器間をまたいで食品成分の働きをヒト生体に近い環境で評価できることを実証しました。
・ 本評価技術は、食品、ヘルスケア、インナービューティー、化粧品素材などの研究開発への応用が期待されます。
研究内容
フィコシアニンを脂肪酸負荷したヒト小腸オルガノイドで評価した結果、食事由来脂質を運搬するカイロミクロン*2の分泌が抑制されることを明らかにしました。さらに、フィコシアニンを模擬消化した後の成分を解析した結果、複数のペプチドが生成され、そのうちMKTPL配列を有するペプチドが脂質輸送に関与することが示されました。また、ヒト肝臓オルガノイドを用いた評価では、消化後フィコシアニンおよびMKTPLペプチドが、肝臓から分泌されるVLDL(超低密度リポタンパク質)*3の分泌を抑制することを見出しました。これらの結果から、フィコシアニンは小腸から肝臓に至る一連の脂質代謝のプロセスに作用することが示されました。
図 本研究の概要
模擬消化後のフィコシアニンは、網羅的なペプチド同定を行えるペプチドーム解析を行い、MKTPLペプチドを含む複数のペプチドを同定した。フィコシアニンおよび消化後フィコシアニンはヒト小腸オルガノイドにおいてカイロミクロン分泌を抑制し、模擬消化後に生じるMKTPLペプチドも同様の作用を示した。さらに、消化後フィコシアニンおよびMKTPLペプチドはヒト肝臓オルガノイドにおいてVLDL分泌を抑制した。これらの結果から、フィコシアニンは小腸と肝臓の双方に作用して脂質代謝を改善する可能性が示された。MTPは脂質輸送に関与するタンパク質、ApoB-48およびApoB-100はリポタンパク質を構成するアポリポタンパク質を示す。
本研究の意義
本研究の成果は、フィコシアニンの脂質代謝改善メカニズムを明らかにしただけではありません。ヒト小腸・肝臓オルガノイドを活用することでヒト生体に近い評価が可能となるため、天然由来素材や機能性素材の評価は、従来の培養細胞と比較してより高精度に実施可能となることが期待されます。さらにこれらのオルガノイドを組み合わせることで、食品成分が小腸で吸収された後、肝臓に与える影響までを一貫して評価できる新たな研究基盤の有効性を示しました。
今後の展望
DICでは、スピルリナやスイゼンジノリ多糖体(SACRANEX™)をはじめとする天然由来素材の研究開発に加え、次世代評価技術の構築を進めています。今後は、本研究で構築したヒトオルガノイド評価方法を、DICが保有するさまざまな天然由来素材や機能性素材へ展開し、食品・ヘルスケア・化粧品分野における新たな価値創出を目指します。DICは今後も、ヒト生体により近い評価技術を活用した研究開発を推進し、健康で豊かな暮らしに貢献する製品・サービスの創出を目指します。
<掲載概要>
掲載雑誌:Current Research in Food Science
論文タイトル:Mechanistic Insights into the Lipid-Lowering Effects of Phycocyanin through Human Intestinal and Liver Organoids
論文URL:https://doi.org/10.1016/j.crfs.2026.101502
以上
*1 オルガノイド:臓器特異的な幹細胞および幹細胞から分化した細胞群を含む臓器様モデルであり、高度に生理的な性質を有する。小腸や肝臓以外にも、脳、腎臓、膵臓など、全身の様々なオルガノイドがこれまでに樹立されている。特にヒトオルガノイドは優れた動物実験代替モデルになることが期待されている。
*2 カイロミクロン:小腸上皮細胞で合成される、食事由来脂質を運搬するリポタンパク質の一種。リンパ管から血液中を介して全身に脂質を供給する役割を果たす。
*3 VLDL (Very low-density lipoprotein):肝細胞で合成されるリポタンパク質の一種であり、超低密度リポタンパク質と呼ばれる。カイロミクロンが食事由来の脂質から合成されるのに対し、VLDLは肝細胞で合成された脂質から合成される。カイロミクロンと同様に、血液を介して全身に脂質を供給する役割を果たす。
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