CFOメッセージ

ROIC 経営の推進により
キャッシュの創出と最適配分を徹底します

グループ CFO
取締役 専務執行役員 財務経理部門長
最高財務責任者
浅井 あさい たけし

資本収益性の改善が重要課題

これまでのDICの経営課題として、2024年の長期経営計画「DIC Vision 2030」Phase1見直しの前に大型投資が集中したこと、また欧州など海外の需要低迷により、ROEおよびROICが低下し、PBRの低迷が続いてきました。そこで、企業価値向上のためには資本収益性の改善が重要な経営課題であるとの認識のもとで、選択と集中を含めた事業再編を行ってきました。

結果、2025年度(2025年12月期)は、物価高や景気先行き懸念などを背景にパッケージ用インキ、塗料用顔料などボリュームゾーンの製品の出荷数量が減少し、売上高は前年度比1.8%減の1兆522億円となったものの、収益性においては営業利益は同17.2%増の522億円、当期純利益は同51.8%増の324億円、ROEは同1.8ポイント増の7.4%と改善が見られました。引き続き、企業価値向上に向けた資本効率の改善に取り組んでまいります。

価格対応と事業再編で収益力を回復

インキを中心とするパッケージング&グラフィックでは、原材料価格が比較的安定していた一方で、価格下落圧力が高まるという課題に直面しました。そこで、自社の製品機能などの価値や安定したサービスを訴求することで価格維持に努めるといった「適切な価格対応」政策を推進しました。以前から進めてきた出版インキの構造改革効果も加わり、営業利益率で見ると2022年度の3.8%を底に、2025年度は5.7%にまで回復しました。

カラー&ディスプレイでは、2021年にドイツBASF社から顔料事業を買収したものの、2022年以降、主要市場である欧州での景気低迷や米国の物価高騰などによって顔料の需要が減少し、業績が悪化しました。そこで2023年度からの3年間で100億円を超える構造改革費用を計上し、欧州中心に生産拠点の統廃合と人員合理化などの大がかりな再編・構造改革を進めたことで、2025年度に海外事業の黒字転換に至りました。とはいえ、十分な収益性に達したとは認識しておらず、後述するように今後も事業の構造転換を継続します。

ファンクショナルプロダクツでは、グループ会社の星光PMC、住設材料や建材塗料などの事業売却といったノンコア・不採算領域からの撤退を進めました。同時に当社が「ケミトロニクス」と呼ぶ、半導体材料を中心とした機能性素材が生成AIサーバーやモバイル関連などの需要拡大に支えられて成長しました。2023年度に5.0%に下がった営業利益率は、2025年度には7.9%にまで上昇しました。

2017〜2026年度 ROIC、ROEの推移
経営指標 2030年度目標値

「DIC Vision 2030」Phase2のコミットメント

2026年度に始まった長期経営計画「DIC Vision 2030」Phase2では、最終年度の2030年度に売上高1兆2,400億円以上、営業利益800億円以上、ROIC6.0%以上、ROE10.0%以上、D/Eレシオは0.8倍以下を掲げました。このうち営業利益とROEに加え、総還元性向40%以上および1株当たり年間配当の下限120円については「コミットメント」としました。そこで、まずはコミットしたことの財務的な背景を説明します。

「DIC Vision 2030」 Phase2のコミットメント

中核事業と成長事業で堅実性と成長性の両立狙う

Phase2では3つの事業セグメントとは異なる切り口として、「中核事業」と「成長事業」を設けました。中核事業とは、インキや顔料、ポリマといったグローバルで一定のポジションを確立しており、キャッシュを安定的に創出する当社の基盤となる事業です。2030年度に売上高1兆1,200億円以上、営業利益690億円以上を目標としています。

次に成長事業とは、当社が定義した「AI融合社会」において自社の経営資源を活かせる半導体、バッテリー、フィジカルAI向けの素材・ソリューションで構成されており、大きな成長が期待される領域です。2030年度の目標は売上高1,200億円以上、営業利益170億円以上と、利益率も比較的高い水準を見込んでいます。

コミットメントの一つである営業利益800億円以上は、安定収益基盤の「中核事業」によってかなりの部分が達成されます。その上で、成長事業に含まれる半導体材料などがAI市場の成長に伴って大きく成長すれば、営業利益800億円以上は最低限達成すべき水準であるととらえています。なお、M&Aを含めたインオーガニックな成長投資による成長は、コミットメント達成の前提に含めてはいませんが、実行した場合には「+α」の要因となり、ROEおよび株主還元の上乗せも見込めます。

収益の柱である3つの中核事業の質的転換とともに、当社が成長を見込む領域を成長事業として育成
  • 中核事業と成長事業の各金額は共通費用等を含まないため、全社合計の目標金額とは異なる

事業セグメント別ROICを重視

DICはかねてより事業セグメント別ROICを重要な経営指標としており、マネジメント層の評価項目にもROICを取り入れてきました。2024年度に事業セグメント別ROICを社外にも公表したところ、投資家などとの対話に活かされています。例えば、インキなどで構成するパッケージング&グラフィックセグメントのROICは7~8%と安定しており、同事業セグメントが経営基盤として重要な位置づけであることをより明確に対外発信できたと思っています(P21に事業セグメント別ROICのグラフあり)。新たな長期経営計画「DIC Vision 2030」Phase2では、さらに情報開示を充実すべく、事業セグメント別ROICの最終年度目標も参考値として開示しました。

質的転換によって中核事業の資本収益性を向上

ここからは事業セグメント別の方針の説明となります。最初に説明するのは、先ほど紹介した中核事業と成長事業のうち中核事業になります。

インキを中心とするパッケージング&グラフィックでは、当社の売上高全体の50%超を占める事業セグメントであることから、会社全体の収益に及ぼす影響は大きくなります。先述の価格対応政策や、継続して資産効率の改善を行うことで2030年度には当事業でROIC8.0%超を目標としています。

こうした資本効率向上に加え、成熟領域から成長領域へと製品の転換を進めていきます。代表例として、インキは出版や新聞の印刷に使われるだけでなく、デジタル印刷向けのジェットインキや、偽造防止用途などに使用されるセキュリティインキといった成長領域にも数多くの製品が存在しています。食品用パッケージなど、生活に密接しており、おおよそ世界のGDP成長率に沿って安定成長が見込める領域もあります。食品向け領域は業績のボラティリティが低く、資本コストの観点からも収益基盤として重要です。また、地域で見ても、インドを含むASEANや中南米などで市場の成長余地が残されています。

顔料を中心とするカラー&ディスプレイでは、ROICの改善が喫緊の課題です。まず、ROICの分母である投下資本(資産)については、ここ数年で生産拠点の統廃合を進めてきたものの、地政学的な要因を考慮しながらも、引き続き拠点の最適化を進めます。次に分子である利益の向上について、顔料が提供する価値に従来の「色」だけでなく「機能」も付与する形で収益性向上を図ります。例えば、自動車外装向けに意匠性に優れ、かつ自動運転用LiDAR(ライダー)が検知しやすく、遮熱性も高い「遠赤外線コントロール黒顔料」のような機能性顔料が該当します。

こうした製品ポートフォリオの転換に際しては、現存設備の改良・転用が中心となり、投資額を抑えられることから、ROICの分母の増加を抑えつつ、分子の収益性を向上させていき、なるべく早期に当事業セグメントにおけるROICを最低でもWACC水準以上へと引き上げる所存です。

ファンクショナルプロダクツについては、Phase1期間中にインドおよび中国で自動車・工業用の環境対応型コーティング用樹脂に先行投資しました。今後、両国およびアジア一帯で環境への意識向上と規制強化によって環境対応製品の需要が拡大していくことを見込んでいます。こうして投資の刈り取り、ROICの向上を図っていきます。

以上のような中核事業の「質的転換」を図ることで、資産を肥大化させることなく、着実に利益面の成長を図っていきます。

事業セグメント別ROICの計画(参考値)

成長事業も資本効率を意識

一方で、ファンクショナルプロダクツセグメントには「成長事業」が含まれています。成長事業への投資については、その多くが売上高・規模よりも高い収益性を追求する領域であることから、巨額の先行投資を想定していません。また今後、成長事業の全製品において自前で設備と人を抱えるのではなく、他社との戦略的提携や外部生産委託の活用を検討していく必要があります。とりわけ先端領域における技術的トレンドの移り変わりの速さを考慮すると、投資のリターンを回収できないリスクの低減も図られることになります。

こうした投資戦略のもとで、ファンクショナルプロダクツ全体のROICは、2025年度の7.9%から2030年度に11.0%以上と大きく向上する見通しです。

戦略投資は5年間で900億円「+α」

「DIC Vision 2030」Phase2におけるキャッシュアロケーションについて説明します。まず、キャッシュインについては2030年度までの5年間の累計営業キャッシュフロー4,090億円に、資産売却などによるキャッシュインが加算される見込みです。なお、営業キャッシュフローについては、売上規模の拡大に伴う運転資本の増加が見込まれるものの、キャッシュコンバージョンサイクルの改善に取り組むことで運転資本の増加幅を極力抑える前提です。

次に、キャッシュアウトのうち、投資については、設備保全などを軸とする通常投資に2,400億円を充て、M&Aを含む戦略投資+CVC(スタートアップ企業などのファンドへの投資)に900億円「+α」を充てる計画です。基本方針としては、過去に当社が行った顔料事業買収のような大型投資は現時点では想定しておらず、成長事業を中心に戦略的な投資を積み上げていくことを前提としています。

なお、事業セグメント別ROICを開示した背景には、損益計算書だけでは補足できないキャッシュフローへの意識を強めるという狙いもあります。DICが成長投資をしていくにあたり、リターンが資本コストを超えることはもちろん、その原資となるキャッシュインについても、運転資本の圧縮や資産売却も含めて創出していく。そのような視点や姿勢をこれまで以上に事業の現場が意識していく必要があります。こうして営業キャッシュフローが計画よりも上振れした際には、機動的な戦略投資または追加株主還元に充てることを念頭に入れています。

フリーキャッシュフローについては可能な限り、投資と資産売却の双方を同年度に実施したいと考えています。キャッシュフローの流出入を相殺してフリーキャッシュフローの振れ幅を抑え、安定した財務ポジションを堅持することを基本方針としています。

下限を設け、安定的な株主還元

「DIC Vision 2030」Phase2の5年間における株主還元の方針については、まず、安定的な株主還元を重視し、1株当たりの年間配当額の下限を120円に設定しました。その上で、利益成長に合わせて還元水準を向上すべく、「総還元性向40%以上」をコミットメントに掲げました。加えて、業績やキャッシュフローを含む財務状況次第では、機動的な追加株主還元などを通じて株主価値の向上に努めます。

グローバル経営に向けたCFO機能の強化

2026年度から私の肩書は「グループCFO」となっています。日本やアジア、中国、欧米といった地域をまたいだ一つの組織として一体化することで、グローバルでのキャッシュアロケーション最適化をより迅速に行っていきます。また、グループCFOを含めたキーポジションのサクセッションプランにおいても、グローバルで最もふさわしい人材を見極めていく予定です。

2026年7月8日