身近な食品トレーだからこそリサイクル──未来を守る、ポリスチレン製造オペレーターの挑戦

2024.12.16 ピープル
DICの人的資本経営とキャリア自律~“想いを共に”自律する 宮城まり子先生 × 池田尚志社長 対談
DICの人的資本経営とキャリア自律~“想いを共に”自律する 宮城まり子先生 × 池田尚志社長 対談

「今の行動で未来を守る」と話す東七海。2021年にDICに入社し、四日市工場で食品トレーの原料のポリスチレン製造プラントのオペレーターを務めています。企画に自ら手を挙げるなど環境教育に積極的に携わる東が、次世代へ向けた環境教育活動のやりがいや醍醐味について語ります。”トレーからトレーへ”の水平リサイクルの本格稼働を開始した今こそできることとは。

DICと四日市市が、技術と教育で切り拓く脱炭素社会への道


▲製造プラントのオペレーターとして安定生産に努める東

プラスチックの一種であるポリスチレンの製造が行われているDICの四日市工場。その生産量は年間21.8万トン。1日あたり約プール1杯分のポリスチレンを生産していることになります。そこで働く東は、プラントオペレーターとして日々奮闘しています。

「ポリスチレン製造プラントは、四直3交代で昼夜問わず連続稼働しています。制御モニターで各工程の圧力や温度、流量などの変動を常時確認し、安定生産に努めています。各直の最初と最後にはプラント内やタンク周辺の巡回を行い、機械の異常や異音がないかを監視しています。

また、小グループ改善活動としてデジタル化の取り組みのリーダーも担当し、工場業務の自動化による効率化を進めているんです」

東たちが製造しているポリスチレンは、日常生活に深く浸透しています。

「ポリスチレンは、身近なところで使われているプラスチックです。例えば、食品包装容器、とくにスーパーなどで見かけるお肉用の食品トレーや高級食材の色柄付きトレーに使われています。また、コンビニの麺類の容器や、冷蔵庫の中にある透明な収納部材にも使用されているんですよ」

私たちの生活に欠かせない素材となっているポリスチレン。一方、プラスチック製造と環境問題は密接に関連しており、企業にとって重要な課題となっています。そこで、DICは地域と連携し、環境への取り組みを強化しています。

「当社と四日市市は、2023年に脱炭素社会の実現及び継続的な産業振興の両立に向けた取り組みの促進を目的に包括連携協定を締結しました。四日市市はもともと工業が盛んな土地柄。その中で、2050年までに脱炭素という形でCO₂の排出量ゼロを目指して動くという、環境に配慮したまちづくりを推進しているんです。

当社グループもサステナビリティを重視して2050年までにカーボンネットゼロを目指し、2030年には50%削減(2013年度比)を目標としています。ポリスチレンのリサイクルでお互いに目指す先が一緒ということで協定を結びました」

自らの行動も見直せるように──四日市市との連携で始まった環境教育


▲子ども科学セミナー「環境教育」の一場面

四日市市と共にCO₂を減らすために今できることを。環境教育に取り組み始めたDIC。

「DICはトレーからトレーへの水平リサイクルに取り組んでいます。四日市市から環境教育の依頼があり方向性が合致し、具体的な取り組みの1つとして四日市市の小学生を対象に『地球温暖化を防ぐために今できることを考える環境教育』を行いました。私が参加したのは、8月に行われた『四日市子ども科学セミナー』というイベントで、近隣の企業13社と共に小学生を対象とした環境教育イベントです。

工場内でプラントオペレーターとして働いているため、普段外部の人とほとんど関わる機会がありません。なので、こういう機会に少しでも新しいことをしてみたいと興味を持ち、会社内での募集に応じて自ら手を挙げて参加しました」

セミナーの準備には、各部署から1〜2名の計約10名のメンバーが参加。内容の検討や当日の対応について話し合い、事前のテストや実験も行う中で東も積極的に提案をしました。そうして企画されたのが、「プラバン作り体験」です。

「ポリスチレンに関連した体験ができ、お土産として持ち帰れるものとしてプラバン作りに決まりました。傘につけられる、アンブレラマーカーになる仕様にしました。

子どもたちにはあらかじめ絵がプリントされたプラバンを配布し、好きな色で塗ってもらったのですが、一人ひとり彩り豊かで個性があふれていて、この企画にして正解だったと思いました。私は子どもたちに声かけをしたり、実際にプラ板を焼きながらプラスチックが熱で縮む様子を説明したりしました。多くの子が驚きながらも楽しんで参加していました。

また、クイズでは、現在は小学校でも環境の授業があるからか子どもたちは地球温暖化などについて詳しく知っているようでした。中には答えを先に言ってしまう子もいて、子どもたちの環境問題に対する意識の高さに驚かされましたね」

東は、将来を担う子どもたちに環境問題の重要性を伝える良い機会になったと感じると共に、イベントを通じて自身のリサイクルへの取り組みを見直すきっかけにもなったと言います。

「人にリサイクルを勧める立場として、自分自身もしっかりとリサイクルを実践する必要性を感じました。具体的には、食品トレーをスーパーのリサイクル回収ボックスに入れるなど、以前は捨てていたものもリサイクルするよう心がけるようになりました。工場でリサイクルを行うためにも、リサイクルの原料となる資源を適切な状態で提供しなければいけないとあらためて認識しました。

今回の環境教育では主にサポート側の役割を担当しましたが、今後はより主体的に参加したいと考えています。今後も継続的な取り組みを通じて環境問題への理解を深め、次世代に向けた教育活動を展開していく予定です」

子どもから家庭へ広がるリサイクルの輪。未来を守るための「今」の行動とは


▲ゴミの分別から始まるリサイクル意識

環境教育を通じて、東は子どもたちに環境問題へ関心を持ってもらえるように考えています。

「できれば、子どもたちから家庭にリサイクルの知識を広めてほしいですね。大人の方は今までやってきたことと違うことをするのはハードルが高い部分もあると思うので。子どもたちから『これリサイクルできるんだよ』と伝えられたら、親御さんもリサイクルを意識するようになるのではないでしょうか」

東自身は、幼少期から身近に見ていた親の仕事を通じて、環境問題への意識が高まったと言います。

「親の職業が漁師なんです。魚が獲れなくなっているなど、海洋生物、そして一次産業への影響がどんどん出ていて、環境の変化を強く感じています。

私は、『今の行動で未来を守る、思い立ったら即行動』という自身の信念を大切にしています。今リサイクルしたからといってすぐに自分の生活が変わるわけでもないし、もしかしたら自分が生きている間にはそんなに影響はないかもしれません。でも、このまま企業が何も対策をせずどんどん開発を進めていくと、いずれ環境は悪化していくと思うんです。

実際に今、気温が夏だと40度を超えたりすることもありますが、私が幼少のころはそこまで暑くなかったように思います。これ以上暑くなると自分たち自身もしんどいですし、他の生き物にもさまざまな影響が出てきます。なので、個人や企業それぞれの視点で環境悪化の流れに歯止めをかけられるよう、今この時から行動していきたいです」

そして、自身も含め私たちに身近なところから始められる環境保護活動を提案します。

「一番身近な取り組みとしては、ゴミの分別が挙げられます。加えて、レジ袋の使用を控え、エコバッグを活用することも取り入れやすいのではないでしょうか」

「リサイクルをもっと身近に!」四日市工場が描く環境教育の新しいカタチ


▲DIC四日市工場の環境学習教室“manaboni(マナボニ)”

東は、環境教育に対して積極的な姿勢を示しています。

「市と連携して例えば中学3年生向けには、プラスチック樹脂の比重分別の実験を含む環境教育を実施しています。現在はまだ実際に授業を行う機会が少ないものの、今後そういった機会が増えていくと思うので積極的に参加していきたいと思っています。

また、四日市工場内に環境学習教室”manaboni(マナボニ)”を設置中で、一般の方や小学生を対象に環境教育を継続していく予定です。工場内での授業では、リサイクルポリスチレンに再生する最新設備の工場見学に加えて製作工程の小さな模型を使用した体験学習なども検討しています。

子どもたちがワイワイ喋りながら学べるような、より楽しみながら参加できる授業を目指したいと思います。その中で講師として参加する機会があれば嬉しいです。工場見学と合わせて会社の取り組みを理解してもらい、子どもたちのリサイクル意識の向上につなげたいですね」

一方で東は、四日市市全体のリサイクル意識向上にも目を向けます。

「スーパー以外にも、気軽にペットボトルや食品トレーを捨てられるリサイクル回収ボックスが増えればよいなと思います。というのも、私の地元では、近所に食品トレーや瓶、ペットボトルといったリサイクル資源、資源ごみを回収する場所があり、手軽にリサイクルに取り組むことができました。同じように四日市市全体に回収拠点が増えれば、もっとリサイクルの輪が広がるのではないかと考えています」

最後に、東はDICとしての環境改善促進に関する計画について説明します。

「直近では、マテリアルリサイクルという循環型リサイクルの確立に取り組んでいきます。例えば、もともと色柄付きの食品トレーは食品用途に適さない黒色ペレットになることから、ハンガーなど別の製品に変わっていたんですが、食品トレーから食品トレーへと生まれ変わることが可能になるというリサイクルへの取り組みです。今年11月には溶解分離リサイクル設備を竣工し、PS完全循環型リサイクルの取り組みで協業する株式会社エフピコと共に、業界で初めてマテリアルリサイクルによる色柄付き食品トレーの水平リサイクルに取り組みます。

ニュースリリース: 溶解分離リサイクル技術(Dic法)設備を本格稼働開始

そして、さらにケミカルリサイクルという、製品になっているポリスチレンを原料であるスチレンモノマーへと戻すようなリサイクル方法にも力を入れ、当社の2本柱としてリサイクルを促進していきます。

環境意識の高まりから世界的に見てもプラスチック削減の流れがある中で、当社がリサイクルをできることは強みになるのではないかと思います」


▲四日市子ども科学セミナーの参加メンバー

東の「今の行動で未来を守る」という信念のように、DICの四日市工場では、環境教育の充実とリサイクルポリスチレン生産技術の革新に取り組み、持続可能な社会の実現を推進していきます。

※ 記載内容は2024年11月時点のものです

プロフィール
東 七海 (ひがし ななみ)

2021年から四日市工場ポリスチレン製造 プラントオペレーター。
趣味は、踊り(よさこいチームで活動中)

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