世界がときめいたINTENZA® Hanaの美しい色。新しい化粧品顔料開発の舞台裏

2025.5.22 ピープル
世界がときめいたINTENZA<sup>®</sup> Hanaの美しい色。新しい化粧品顔料開発の舞台裏
世界がときめいたINTENZA<sup>®</sup> Hanaの美しい色。新しい化粧品顔料開発の舞台裏

2024年に発表された化粧品新顔料「INTENZA® Hana」。FDA認証取得の有機顔料とパール顔料を独自技術で複合化し、鮮やかさと輝きを高いレベルで両立させました。世界の注目を集めた化粧品新顔料の開発に携わった田中 雅晃が、開発への姿勢と色に込めた想いを語ります。

鮮やかさと輝きを高いレベルで実現。DIC初の国産化粧品顔料に込めた開発者の想い


▲2024年に上市したINTENZA® Hanaシリーズ(3品番Aqua Sky, Rose Gold, Solar Ruby)

DICグループのグローバルな総合力を結集した化粧品新顔料「INTENZA® Hana」が2024年4月に発表されました。これは有機顔料とパール顔料を新しい方法でコーティングした新製品。開発を担当した鹿島工場 カラー技術1グループのマネジャーである田中は、その特長についてこう説明します。

「有機顔料とパール顔料を組み合わせた製品は以前から存在していましたが、今回の開発では複合化技術に新しい方法を採用しました。これによって、従来のパール顔料や有機顔料の組み合わせでは見られなかったような革新的な意匠性を示す製品となっています」

INTENZA® Hanaの最大の特長は、色の鮮明さとパール顔料の輝きをこれまでにない高いレベルで両立させた点です。

「従来、パール顔料と有機顔料を単純に粉末として混ぜてしまうと、それぞれの良さが失われてしまうようなことがありましたが、今回の新しい複合化技術は、それらの特長を失わずに発現することができています」

また今回発表した赤、ピンク、青の3色のパール顔料には天然マイカ(雲母)を使用。DICグループの米国の自社鉱山から調達することで、化粧品ユーザーが関心を持つ、安心・安全と透明性のあるサプライチェーンに対応しています。

「INTENZA® Hanaは、DICグループとして初めて化粧品顔料を日本国内で生産する製品となるため、日本らしいネーミングにしようと、鮮やかさや美しさを体現するような言葉として『花』、『華』という言葉を用いました」

この製品には、「化粧品製造プロセスにおける使いやすさ」という特長もあります。

「特別な機械を使う必要がなく、顔料と水や溶剤を混ぜるだけで簡単に混ざり合う特性もあります。従来品では水との混ざりが悪かったり、有機溶剤との相性が悪かったりする課題がありましたが、有機顔料や無機顔料、パール顔料などさまざまな顔料との相性が良好です」

粉末に宿った美しさ。ワクワクして評価が待ちきれなかった開発者たちの胸の内


▲チームメンバーと化粧品を作製して顔料を評価

2019年、DICは化粧品顔料の開発という新たな挑戦を始めました。これまで印刷インキやデジタル印刷、ディスプレイ用など、工業用途の顔料開発を手がけてきた当社にとって、化粧品顔料の開発は未知の領域。開発には、DICと米国子会社のSun Chemical社(※1)が連携して進めました。

「化粧品のトレンドは変化が大きく、サプライヤーとしては常に数年先をみて、従来とは異なる革新的な意匠性や、市場に大きなインパクトを与える顔料を提供していく必要があります」

DICグループの複合化技術と、保有する有機顔料・パール顔料の組み合わせにより、新しい優位性を持つ製品開発に着手。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

「有機顔料とパール顔料の複合化における条件設定には本当に苦労しました。条件によっては単純な粉末の組み合わせのような品質になってしまったり、緻密な複合化ができなかったり……」

生産設備の大きさを変更する際にも、既存設備と同じ条件では同じものができないという課題に直面。何度も試行錯誤を重ねながら、理論と経験をもとに品質制御条件を見出し、実機で安定した生産ができるようになりました。

「科学的な視点から成功と失敗の要因を分析しました。そして、顔料の種類や結晶性、粒子形状、表面の状態などがパール顔料とうまくマッチするときに期待以上の効果が現れることを発見したのです」

材料選定や要求品質達成のためのアイデアを出し合い、時間をかけて製品化にこぎつけました。

「複合化がうまくいった時は、粉末の状態でも従来品との違いが一目でわかりました。一般的な有機顔料と比べて非常にきらびやか。良い結果が得られた時は、少しでも早く評価したくてワクワクしながら取り組みましたね」

チームで開発を進める中、2022年から2024年にかけて、徐々に手応えを感じ始めます。

「チームのみんなが同じように苦労して開発に取り組んでいましたので、良いものができた時の喜びはSun Chemicalの化粧品担当者を含め全員で分かち合うことができました」

(※1) DICグループの一員であるSun Chemical社は、パッケージングやグラフィックソリューション、カラー・ディスプレイ技術、機能性製品、電子材料、自動車産業やヘルスケア産業向け製品などの大手製造会社

初披露で「美しい」「かわいい」の声が続々。世界が評価した色のインパクト


▲フランスで開催された化粧品原料の展示会の様子

2024年4月、フランスで開催された国際的な化粧品原料の展示会で初めて赤、ピンク、青の3色が公開されたINTENZA® Hana。発表後、市場からは大きな反響が寄せられています。

「私たちが想定していた通り、お客さまから高い評価をいただいています。とくに国や世代によって好みが分かれるのが興味深く、たとえば海外では『青色が美しい』と評価される一方、国内の若いフォーミュレーター(※2)からは『ピンクがかわいい』という声もあって。お客さまの世代、国や地域によって評価の内容も異なることがわかりました」

革新的な意匠性だけでなく、顔料としての特性も高い評価を得ています。

「INTENZA® Hanaの特長として、水・有機溶剤に対する溶出性の低さ、皮膚への色素沈着が少ないといった点についても、お客さまから高い評価をいただいています」

技術的な視点だけでは見えてこない課題も明らかになってきました。

「開発チームが良いと考えて出した製品でも、お客さまからは改善点の指摘を受けることがあります。実際に市場に出して、消費者の視点での評価を得ることの重要性を実感しています。

パール顔料は単なる真珠の光沢だけでなく、粒子サイズによってギラギラとした輝きや、粉末は白色でも塗布すると赤や青、金などさまざまな色を発色します。変化の激しいニーズにどう対応していくかが課題で、その先のニーズを探りながら、この無限な可能性を絞り込んでいくところが開発の方向性の一つになっています」

重要なのは、膨大な処方の可能性から、どの組み合わせが顧客や市場ニーズに最も適しているかを見極めること。そのため化粧品分野で豊富な実績を持つSun Chemical社が開発プロセスの役割を担っています。

「私たちは顔料の開発だけでなく、その応用評価を通じて、顧客ニーズに精度高く応える提案を行っています。グローバルのマーケティングチームに加え、化粧品メーカーで処方技術の経験を持つエキスパートが、このプロセスを支えており、無限の処方の可能性を最大限に活かした革新的な製品の提案が可能です。

こうした提案を通じて、私たちの顧客である化粧品メーカーが新たなコンセプトを創出し、トレンドをリードする製品の開発へとつなげることができます。」

(※2) フォーミュレーター:化粧品メーカーにおいて、化粧品原料の選定・配合、試作評価、安全性、規制遵守、市場調査・トレンド分析等を行う

見えない“感性”をサイエンスで読み解く。新たな色づくりの挑戦


▲展示会ブースにて

現在、INTENZA® Hanaの技術をさらに発展させる取り組みが進んでいます。DICでは新しいコンセプトに基づく製品開発を行っており、とりわけ色調や意匠性に注目した次世代の製品開発に力を入れています。

「化粧品は感覚や感性が非常に重視されます。色彩の美しさだけでなく、使用時の喜びや楽しさといった要素も大切です。当社の経営ビジョンでは『Color』と『Comfort』という二つの要素を重視しており、これまではどちらかというと視覚的な部分が中心でしたが、これからはその先の快適さを目指していく必要があります。

感覚や感性の捉え方には個人差があります。光沢一つをとっても、キラキラやギラギラなど、いろいろな表現ができます。使い心地の良さや快適さについても、人によって異なる解釈があって。これが課題だと考えています」

この課題に対して、DICグループは独自のアプローチを試みています。

「DICグループが持つ豊富なサイエンスの知見を活かし、感覚や感性を物理的・科学的な特性値に読み換えていきたいと考えています。これにより、顧客の潜在的な課題に対して、当社独自の新たな価値提供を行っていけると確信しています」

2025年5月には、日本での化粧品原料展示会「CITE JAPAN2025」(5/14~16 パシフィコ横浜)へ出展します。

「これは日本では初めての発表の機会となります。DICとしては代理店のブースの中にコーナーを設け、INTENZA® Hanaを含む新製品を積極的に紹介します。またWEB展示会も開催しています


▲CITE Japan展示会ブースにて 田中と顔料営業コスメティックチーム

近年、DICグループ日米欧の顔料チームは「- Beyond Color Materials -」というスローガンを掲げ、色材がもたらす彩りと機能を追求し、多彩でサステナブルな社会への貢献を目指しています。

「例えば近年上市した近赤外線コントロール黒顔料は、可視光線だけでなく、紫外線や赤外線といった人の目には見えない光を活用し、従来の黒顔料であるカーボンブラックでは難しかった遮熱塗装やLiDAR(ライダー)などへの応用が期待されています。」

最後に当社に興味を持っている方に向けて、色に携わる仕事の魅力を田中はこう語ります。

「私が当社に就職した時、色という視覚的な要素に愉しみを感じていました。しかし、お客さまが要望する色・機能の提供は簡単ではないことを知り、現在ではこれらを実現していくことに新たな愉しみを感じています。

私と同じように色に興味がある方にだけでなく、困難な課題への挑戦が好きな方にも、DICの仕事はとても楽しいと思います。日本だけでなく、グローバルに展開しているため、世界中の文化を反映したような製品開発ができますし、これまでにない色材を作り出した瞬間は本当に感動します。

アイデアがあれば提案を受け入れてくれる企業風土があるため、新しいチャレンジに興味がある方には、とくに働きがいのある会社だと思います。ぜひ挑戦してみてください」

※ 記載内容は2025年4月時点のものです

プロフィール
田中 雅晃 (たなか まさあき)
カラー技術1グループ マネジャー

大学で光化学の専攻をきっかけに色彩に興味を持つ。DICに入社後、赤・黄・橙の顔料を専門にインキ・トナー・インクジェット・カラーフィルターなど様々な用途向けの開発を経験。その後、化粧品用途の新規材料開発に携わり、現在は化粧品担当チームのリーダーを担う。週末は3人のかしまし娘と遊具を求めて公園巡り。

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