サステナブルエネルギービジネスユニットでマネジャーを務める飯田 正紀。マネジメントをするチームでは、学会発表を通じて認知を広げる活動を行い、その活動は社内でも評価されました。いったいどんな取り組みをしたのか。そのチームを支えた飯田の想いとは。飯田がこれまでの活動を振り返ります。
無機材料での新領域の開拓を担うプロジェクト。多様な背景を持つメンバーが活躍
有機材料系の事業を柱としているDICでは無機酸化物フィラーは未開拓の領域です。そのDICが独自の合成技術を用いて開発した、アルミナフィラー「CeramNex(セラネクス)™」は、DICの無機材料領域での認知・信頼を広げるブランディング活動の一環を担う製品です。
現状では板状アルミナ、多面体アルミナといった粉末製品が中心ですが、無機フィラー分野における事業・製品の多角化を目指し、飯田のチームでは新たな製品の事業化を推進しています。
「お客さまの要望に応じて、粉末製品にとどまらず応用製品を作る必要が出てきました。現在は例えば、コンパウンド製品と呼ばれるプラスチック系の材料、中間加工製品など、さまざまな製品の開発を進めています。
中でもわれわれが注力しているのがエレクトロニクス領域、そしてその領域において重宝される電子デバイスの熱を高効率で逃がす絶縁材料です。デバイスの熱による暴走、故障、劣化を防ぐために不可欠な材料で、電子デバイスの小型化、高性能化、電力の大容量化に伴い需要が増しています。熱伝導性と絶縁性を強みとし、お客さまの高いニーズに応える製品を開発しています。」
飯田は技術の分野を取りまとめる役割。その中でチームを俯瞰しながらさまざまな活動をバックアップしてきました。
「これまでわれわれが重視していたのは人材の強化でした。もともとR&Dの分野出身のメンバーが多く技術的に強みがある一方で、ビジネス的な観点に課題がありました。
そこで、まず顧客と同じ評価のできる人材、未開拓領域を開拓できるマーケティング人材、開発においてエレクトロニクス分野に強いメンバーなどを採用し、層を厚くしていきました。今ではチーム内にさまざまなバックグラウンドを持ち突破力のあるメンバーが集まっています」
いままで取り組んできた学会での社外発表などを通じた認知向上活動「無機材料の事業化におけるブランディング活動」が評価され、社内表彰制度「The DIC Way行動指針アワード」で銀賞を受賞することができました。
「『The DIC Way行動指針アワード』は、経営ビジョンを目指した現場でのグループ社員の挑戦や優れた行動をその仲間が推薦するグローバルでの表彰制度です。グループ全体での協働の輪を広げていくことを目的に2022年から始まりました。
仲間の頑張りを知る自分だからこそ推薦できると考えて応募しました。国内外問わずさまざまな拠点からの推薦の中から、ありがたいことに、銀賞を受賞することができました」
学会発表の機会を増やし、社外への発信を徹底。若手メンバーの活躍が光る
社内で表彰されたブランディングの取り組みとは、一体どんなものだったのでしょうか。飯田のチームにおける無機材料事業化の認知を広げる活動は、3年ほど前からスタートしました。
「以前から学会発表や業界誌への投稿など、われわれの製品認知を拡大する取り組みは行ってきましたが、狭い分野で単発的なものであったため、結果として認知度が上がっていない状態でした。そこにチームリーダーの山本 広志が課題意識を強く持ち、『やりましょう!』と提案をしてくれたことが、この活動の始まりです」
チームリーダーとして山本がメンバー6名を率い、開発する高熱伝導性コンパウンド製品のブランディングや無機フィラーのマーケティング領域で、業界への認知を広めることに貢献してくれたと話す飯田。山本を中心に若手メンバーと共に発信を続けたことこそ、大切なことだったと振り返ります。
「開発業務などの従来業務がある中で、時間を作り、年度目標を立て、『特殊形状アルミナの開発とそれを用いた熱伝導シートへの応用』についての学会発表や業界誌への寄稿などを継続的に行いました。特に学会発表は、それまで年に一度参加する程度だったのを、この活動を決めてからは年4回以上機会を設けました。時には、6回以上参加するような年もありました。
また、合成樹脂工業協会などいくつか学会賞などを受賞した発表も。数をこなしただけでなく、内容も充実させ、発信としての意義も両立させたことも大事にしていたことの一つです」
こうした活動の効果は、製品認知拡大への貢献だけにとどまりません。チームリーダーを中心とした若手の育成にもメリットがある取り組みだったと言います。
「学会での発表はすべて、若手のメンバーが担当していました。発表の準備や流れはチームリーダーが指導。最初は準備に2カ月かかっていたのが、場数を踏むごとに短くなり、1カ月ほどで準備ができるようになっていました。
当初は、通常業務と並行した準備や、大勢の前での発表など慣れない部分も多くありましたが、業務整理などにも着手。結果的に、学会発表や専門誌寄稿はこれまでに計15件、技術開発力が認められ学会協会賞の受賞2件にもつながりました。
目標を達成できたことから自信も生まれ、現在では、自分たちの開発にも、発表にも自信を持って取り組めており、成長を感じています。他の業務との調整や準備の工夫、そして何事も前向きにチャレンジできる姿勢が習慣化しているように思いますね」
多様性と自主性が混在するチームへ。メンバーがイキイキと働ける環境づくりへの想い
メンバーが積極的に活動を進める中で飯田がまとめ役として意識したことは、自主性を尊重することだと語ります。
「何かをこちらから指示するのではなく、メンバーがやりたいことを重んじる。何か相談ごとがあれば、話しかけやすい雰囲気を作る。そうした意識は心掛けていました。
また、何かにつまずいても失敗しても、『次のステップへの過程だ』という考えを伝えることも大事にしていたことの一つ。本人への責任追及だけをしていては、萎縮してしまいます。担当者の責任ではなく、次にどう活かすのか、原因は何かをしっかり対話し、心理的な安全性が感じられる風土を築くことを心がけていました」
メンバーが働きやすいような環境づくりに力を注ぐ飯田。そこには自らの想いもあります。
「チームのマネジメントの立場として常に念頭に置いているのが、さまざまな個性が活かせる環境をつくること。仕事において、人には良い側面と、そうではない側面があります。得てして後者は目につきやすいものです。
そうした傾向があるからこそ、私自身は人の得意なところを認めることが大事だと思っています。自分の得意を尊重してくれる環境であれば、不得意な領域を本人も伝えやすいですし、周囲からそれらをカバーしようという雰囲気も生まれてくるはずです。
職場にはさまざまな性格、特徴を持った人が集まっていますから、多様性を含んだチームとしての強さが大事になってくると考えています」
飯田の支える組織の中で、いままでの取り組みはアワード銀賞という結果に。アワードの受賞が決まった時は、喜びと同時に困惑もあったと語ります。
「グローバルでの社内表彰なので、私たちが受賞していいのかという感情もあったのではないでしょうか。他部署も素晴らしい取り組みを行っているので、この受賞をきっかけにお互いに見習い、刺激し合える関係性になれればうれしいですね。それから、この場をお借りして、これまでに私たちの活動を支えてくださった多くの方に感謝の気持ちをお伝えしたいです」
若手メンバーへの期待。無機材料を深く、広く、製品を知ってもらうチャンスを見据える
アワードの受賞は、メンバーはもちろん、飯田のモチベーションにも影響を与えています。飯田は、これからの活動がより重要になっていくと気を引き締めています。
「受賞発表会に参加しましたが、受賞された他の社員が自分の仕事を誇りにもち、情熱を注いでいる姿を見ることができました。私たちも開発により情熱をこめて、もっと優れた製品を生み出していきたい。そう感じることができた体験でした」
現在は、新事業統括本部で、事業化の難しさを感じつつ、新事業の立ち上げを担当する飯田。若手メンバーの更なる成長を期待します。
「若手メンバーはまだまだ伸び代があると思っています。今はまだチームリーダーに引っ張られながら業務を行っている状態が近いと感じていますが、より主体的にチームをリードできる可能性を秘めているメンバーばかりです。
それぞれの個性を活かしながら、新しい開発手法の活用、よりお客さまと直接対話する機会や製造・品質保証の現場での業務を増やし、成長を促せる環境を作っていきたいと考えています。諦めるまでは失敗ではないという考えをもって、成功するまで粘り強く継続してほしいですね」
一方で、認知を広げる活動は、次のステージを見据えます。
「新事業立ち上げプロセスの要素の一つとして、引き続き学会発表や雑誌への寄稿は維持するとともに、展示会への出展を増やしていって認知を広げる活動の幅を広げていきたいですね。
また今後は、圧電、誘電など新開発の高性能無機フィラーをラインナップに加え、お客さまへの直接提案とヒアリングを一気に増やし、開発へのフィードバックと改良による検証サイクルを速めることで、社会的価値の高い製品をタイムリーに生み出し、活動の早期実績化につなげていきたいと考えています」
プロフィール
飯田 正紀 (いいだ まさき)
サステナブルエネルギービジネスユニット マネジャー
規則性と多様性の組み合わせによる自然や文化の美しさや特別な効果に関心があります。仕事では、個性の異なるメンバーが、それぞれの強みを生かし、協力して1つのことを成し遂げることをサポートできたときに最も充実感を覚えます。