化学にワクワクし、自由に研究を楽しむ若き化学者を応援。サステナブルな未来をかたちにする

2024.02.26 事業を通じた社会貢献
化学にワクワクし、自由に研究を楽しむ若き化学者を応援。サステナブルな未来をかたちにする
化学にワクワクし、自由に研究を楽しむ若き化学者を応援。サステナブルな未来をかたちにする

包装材料や表示材料、高機能材料などの製品を通して「彩り」と「快適」を提供するDIC株式会社(以下DIC)。当社では、自由な発想で研究する高校生を応援しようと、「高校化学グランドコンテスト」に協賛しました。審査員を務めたR&D統括本部の宮脇 敦久が、そこで受けた刺激やビジョンを語ります。

コンセプトに共感し、「高校化学グランドコンテスト」に特別協賛

コンセプトに共感し、「高校化学グランドコンテスト」に特別協賛
高校化学グランドコンテスト 表彰式 愛媛県立西条高校 科学部の皆さん

「高校化学グランドコンテスト」とは、全国の高校生および高等専門学校の3年生以下が行っている「学習研究活動」を支援し、自主的な探究活動を通じて科学的な創造力を育むこと。また、生徒たちが楽しみながら学ぶことを奨励し、将来化学分野で活躍できる人を育成することを念頭に行っている教育支援プログラムです。

2023年10月に芝浦工業大学主催で開催されたこのコンテストに、DICは初めて特別協賛企業として参加。そこで、企業賞審査員を務めたのがR&D統括本部のマネジャーである宮脇です。

「DICが、高校化学グランドコンテストに特別協賛企業として名を連ねたのは、このコンテストのコンセプトがDICの経営ビジョンである『彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに-Color & Comfort-』と一致するからです。コンテストに協賛することで、DICが同じ目標を共有していることを伝える絶好の機会になるとも考えています。

加えて、若い世代にDICの存在を広く知っていただきたいという想いもあり、総務人事部やR&D統括本部、経営企画部が密に連携し、実行しました」

社会課題を化学の力で解決しようとする熱意と、研究を楽しむ高校生の姿が刺激に

社会課題を化学の力で解決しようとする熱意と、研究を楽しむ高校生の姿が刺激に
愛媛県立西条高校 科学部の皆さん ポスター発表前で

特別協賛企業として、DICでは企業賞を用意。DICのブランドスローガン「Color & Comfort」にちなんで、「DIC -Color and Comfort- 賞」と名付けました。

「DICの研究員たちも、以前は化学、もしくは広い意味での科学好きの高校生だったはずです。化学にワクワクして、自由な発想で研究を楽しみ、探求し続ける高校生を応援したいという想いを賞に込めました」

DICの企業賞を受賞した愛媛県立西条高校の生徒からは、こんな声をもらいました。

「この研究は先輩方から受け継ぎ、長い期間取り組んできたものです。試行錯誤しながらたくさん実験してきたことの成果が評価され、すごく嬉しいです。これからも頑張って実験に取り組んでいきたいと思います」(愛媛県立西条高校の生徒)

宮脇自身もまた、かつて「化学にワクワクする高校生」のひとりだったと言います。

「化学の授業の中で、『重曹』と呼ばれる炭酸水素ナトリウムが、胃薬に含まれていることを教わりました。その瞬間、教科書の中の化学と自分の日常が重なったような感覚があり、大きな衝撃を受けたのを覚えています。

それ以来、化学の世界にのめり込み、授業で何か新しいことを習うたびに『これは日常のどんなところに使われているか?』と考えるようになりました」

若き日に化学と日常の接点を見出したことが転機となった宮脇。企業賞受賞の西条高等学校 科学部の「おむつ灰由来のセスキ炭酸ナトリウム合成~おむつゴミの洗剤への再資源化を目指して~」の発表の中にも、自身の過去の経験との共通点を見ていました。

「使用済みおむつを廃棄する際に得られる『おむつ灰』の中から、洗剤の原料となるセスキ炭酸ナトリウムを取り出し、それが洗剤として機能するかを検証した発表内容でした。必要なリソースを得るために、外部に相談することを研究サイクルに取り入れていたのも評価ポイントです。

西条市が抱えるごみの課題に目を向け、自分たちの化学の知識を駆使してその解決に向けて取り組んだこと。そして、何より楽しそうに発表を行う姿に強い熱意を感じ、企業賞に選ばせていただきました」

熱心にテーマと向き合いながら自信を持って研究発表する高校生の姿を目の当たりにし、宮脇は大きな刺激を受けたと言います。

「学校周辺にあるイチョウの木から落下した銀杏のニオイ問題を、学校から出される廃棄物から抽出した物質で解決しようとした発表もありました。身近なテーマに化学の力で挑み、協力者を巻き込みながら取り組む姿勢は、規模感こそ違えど企業の活動と同じです。

私はR&Dの一員として開発に取り組み、チームで課題解決をめざしてきましたが、これからは他部署の協力や専門知識を持つ研究機関の力も借りることで、課題解決のプロセスをよりいっそう加速させたいと考えるようになりました」

高校化学グランドコンテストとその後の懇親会には、宮脇以外のDICメンバーも参加しています。メンバーからは以下のような感想がありました。

「研究テーマに熱心に向き合う姿勢はもちろん、懇親会でもディスカッションが盛り上がる様子を見て、高校生のうちから意見交換ができる場に身を置けるのは素晴らしい機会だと思いました」(総務人事部 高原)

「企業賞を通して、皆さんの今後の活躍を少しでも後押しできたのかと思うと、DICのひとりとして喜ばしく感じました」(経営企画部 尾崎)

協賛参加は、DICメンバーにとっても貴重な経験となっています。

大切なのは「周囲との協働」──DICのカルチャーを活かした、チーム一丸での材料開発


高校化学グランドコンテストに参加した社員

R&D部門で活躍する宮脇。サステナブル社会の実現に向けた、新規材料の開発や施策立案がミッションです。

「プラスチック材料を天然由来に置き換える技術、水素を新しいエネルギーとして活用できるような材料を開発しています。用途は自動車向け材料・食品パッケージ向け材料とフィールドは幅広く、新規材料が社会に出る過程のハードルはありますが、お客様のニーズにマッチした提供できる新しい材料開発に日々取り組んでいます。

DICの長期ビジョンの中で掲げられている『2030年度にCO₂ 50%の削減(2013年度比)、2050年度にカーボンネットゼロの実現』に向けて取り組んでいて、化学メーカーとしてどのような取り組みを進めるべきかを考え施策を立案し、パートナー企業と共にプロジェクトを進めているところです」

そんな宮脇がDICに入社したのは2009年のこと。理学研究科博士課程での研究生活を経て社会人となり、周囲との連携の大切さを強く実感してきたと振り返ります。

「プロジェクトをチームで進める機会が増え、『もっと周りとコミュニケーションを取っていれば開発スピードを早められたかもしれない』と思うことが多くなりました。海外のグループ会社と連携した開発を経験する中でその考えをさらに強め、海外で違うものの見方や考え方を学びたいと考えるようになっていきました」

そして、2014年から約1年間。海外トレーニー制度を活用してアメリカのグループ会社のSun Chemical社に駐在する好機を得た宮脇。文化的背景の異なるメンバーと関わる中で、大きな気づきがあったと言います。

「海外のメンバーには、とくに『まずは自分の力で何とか成し遂げよう』という強い意志があるのを感じました。一方で、DICには『皆で協力しながら共に成し遂げよう』というカルチャーが根づいていることに気づいたんです。この文化的特性は、どんどん活かしていくべきだと感じました」

さらに、その後サステナブルなプラスチックづくりに必要な知見を得る目的で、宮脇は2022〜2023年にかけてマサチューセッツ工科大学(MIT)に駐在して共同研究に従事。プロジェクトマネージャーとして組織横断の連携を主導しました。

「MITには化学、バイオ、データサイエンスなど、各専門分野の優秀な研究者が世界中から集まっています。そこで、私が架け橋となって専門分野をつなぐ役割を果たそうと努めました。

議論を重ねる中で意識したのは、私自身の熱意を伝えることです。『皆さんの得意領域を組み合わせて、より良いプラスチック材料をつくり、世の中を変えよう』とメッセージを伝え続けました」

社会課題解決のための輪は、化学の枠を超えて

社会課題解決のための輪は、化学の枠を超えて

2023年で入社15年目を迎える宮脇。DICの組織の魅力についてこう述べます。

「チャレンジする風土があることが最大の魅力です。根拠や具体的なプランと共に想いを伝えることができれば、挑戦の機会が与えられます。

もうひとつおもしろいのが、アイデアをかたちにしていく過程で、賛同者や支援者がどんどん現れることです。私は考えに行き詰まると、周りに『これどう思う?』と聞くことにしていますが、『おもしろいじゃん』『こうしたらどう?』と意見をくれるメンバーがたくさんいます。

通りがかったメンバーに声をかけ、そこからさらに議論が広がることも社内では日常茶飯事。積極的に意見交換ができる雰囲気があります」

そう話す宮脇が目指すのは、社会課題の解決とサステナブル社会の実現です。

「化石燃料の枯渇問題など、DICとしても向き合うべき課題がたくさんあります。その上でポイントになるのは、化学の枠にとらわれず連携を進めていくこと。

たとえば、水素社会の実現を目指そうとすれば、水素をつくる人、貯蔵や流通に携わる人、そして水素を使う人が必要であり、これらの役割を結び付ける必要があります。水素社会という同じ絵を共有することで、各役割の接合点で何が課題であるかが見えてきます。

サプライチェーン全体で協力して社会課題を解決できるような体制づくりを進めていきたいです」

そうした社会課題を解決する上での鍵になると宮脇が考えるのが、主体性ある人材育成です。

「社会課題に対して自分の意見を持ち、提案できる姿勢がとても重要だと思っています。それは、まさに高校化学グランドコンテストに出場した高校生たちが持っていたもの。

これから社会課題がますます複雑化していく中で、主体性ある人材が活躍できる場面はさらに広がると思っています」

高校化学グランドコンテストへの参加を通して、高校生らの姿勢に大いに刺激を受けた宮脇。先輩社会人の立場から、未来の科学者にこんな言葉を送ります。

「簡単には成し遂げられない、長期の目標をぜひ持ってみてください。でも、それだけをモチベーションに努力し続けるのは大変です。目の前のことにしっかり向き合いつつ、日常生活や社会動向などから、長期的視野で自分が成し遂げたいことにつながる糸口を見つけてほしいと思います。

楽しいと思えることであればどんなことでも構いません。熱中していれば良い仲間がおのずと見つかるものです。ただ、私が言う『仲間』には、実際に共同作業するメンバーだけでなく、 背後で支えてくれる支援者や賛同者、そしてライバルや時に批判的な意見をくれる人も含まれます。そうしたかけがえのない仲間と切磋琢磨しながら、夢の実現をめざしてください」

化学にワクワクする気持ちを、持ち続けながら。宮脇はこれからも、サステナブルな未来をかたちにする役割を果たしていくつもりです。

プロフィール
宮脇 敦久 (みやわき あつひさ)
R&D統括本部 マネジャー

高校生のときに化学に興味を持ち、企業での材料開発を目指す。大学院では研究成果について多くの意見や深く協議する場を求め学会発表や留学を経験した。入社後は開発業務一筋。開発だけでなく、協業の前提となる契約の締結や連携先スタッフのマネジメントを経験し、現在に至る。週末は地域の少年野球のコーチをしています。