DIC エステート業務サポート部 部長
古田昌作さん
DIC グループで最も多様な個性が輝く DIC エステート。「スモールステップ」」と「マッチング」をキーワードに採用活動や人財育成、業務の拡大を進め、コロナのピンチでさえチャンスに変えてきた。今回は、旗振り役としてダイバーシティ&インクルージョンを推進する業務サポート部の古田昌作部長への取材を通して、今 DIC グループが取り組んでいる「多様性のある人財を活かした職場づくり」について紹介します。
学びと共にDIC らしい職場づくりへの挑戦
「人財の多様性の確保と活躍推進」をサステナビリティ活動の重要テーマの一つに位置づけているDICグループ。女性社員の活躍推進、外国籍社員の採用拡大とともに注力しているのが障がい者雇用の促進だ。
DICグループで採用も担当するDICエステート 業務サポート部の古田昌作部長は「DICエステートでは、会社の重要な戦力として活躍してもらうためにも、社員の個性や特性を活かした働きやすい職場づくりに力を入れています。というのも、以前は採用から入社後の指導体制まで職場全体として障がいという個性への理解が不足していたことから、早期に退職する社員が相次ぐ状況でした。その頃、私はDICエステートに異動してきたのですが、こうした状況に強い危機感を感じ、職場環境の再構築に着手することにしたのです」
それまで20年以上DICで営業活動に従事し、まさにゼロから出発だったという古田さん。障がいへの理解を深めるため、片っ端から本を読み漁るとともに、職場の同僚と外部のセミナーや講習会に参加。さらにはセミナー会場で名刺交換した企業の担当者にお願いして他社の取組みを見学し、学びを重ねた。
「見学先の企業はどこもオープンにノウハウを公開してくれたのは有り難かったですね。障がいを持つ社員の働きやすさという共通のテーマの下、ライバルである同業種の企業とも情報共有ができるなんて、以前の営業マン時代には想像もつかない出来事でした」
現在 DIC エステート業務サポート部では、「個人の成長と組織拡大~ コロナのピンチをチャンスに変える~」を方針とし、3つの行動指針のもと活動している。行動指針:①自分の仕事に誇りを持って、いつも元気笑顔で挨拶します。②高い品質を提供し、DIC グループ社員から頼りにされるサポーターになります。③より良い職場環境を目指し、一人一人が自ら努力し共に成長し続けます。
職場の大型ホワイトボードの上には、各業務内容が記されたカラフルなマグネットシートを配置し、全員のシフト状況を“見える化”。このことによって、各社員は当日の業務の流れを一目で把握できるとともに、全体の予定を見ながら自ら考えて動けるようにしている。また、集配用のメールボックスの棚をフロアごとに色分けするなど、DICらしさを加えたノウハウが蓄積されてきている。
実習を通したマッチングでお互いを知る
現在、DICエステート業務サポート部には20名の障がいを持つ社員が在籍。本社ビル内のメール室を拠点に、社内便・宅配便の集配、ラベル貼り・書類発送などの受託事務作業、給茶器保全、本社内カフェの運用など業務は多岐にわたる。今日のような体制をつくるうえで原点となったのが、2017年から採用した障がいをもつ若き学生たちとの出会いだったと古田さんは振り返る。
「彼らを見ていて気づいたのは、とにかく真面目で手を抜かないだけでなく、長時間集中して一つの作業に取り組んでいました。しかも、通常なら見逃すような違いや変化を発見できるといった優れた特性や能力を有していることでした」。
このような優秀な人財をもっと採用したいと考えて、古田さんたちは東京・日本橋まで1時間程度で通える1都3県にある15カ所の特別支援学校を訪問。生徒の特性を配慮し、5日間にわたる実習の受け入れ体制を整え、インターンシップを本格的に開始した。
古田さんは「実習では、指導担当に付いて集配、宅配業務などを行ってもらうのですが、理解しやすいように作業の手順を細かく分類しています。指導担当が丁寧に教えていき、一つひとつのステップをしっかり習得したうえで次のステップに進む「スモールステップ方式」を採用し、最終的には一人で業務を完遂できるように進めています。実習の最終日には保護者が見学に来られることもあるのですが、『家では、まだ幼いと思っていた子が、職場で責任を持って活き活きと働く姿に驚きました』と涙ぐむお母さんもいらっしゃいました」と話す。
実習では、業務とのマッチング、コミュニケーション力、自ら努力をして成長する意思があるかなどを見ることができるため、採用する側は、職場が求める人財を事前に見極める事ができる。一方で、実習生側も会社の仕事や職場の雰囲気が自分に合っているのか、事前に実体験できる。このように採用する側と、採用される側のマッチングを事前に図る事は、会社に入ってからのミスマッチが少なくなるメリットがある。こうしたDICエステートの実習への印象や実際に参加した生徒から聞いた感想などについて、東京都立志村学園 進路指導部の久田美由紀先生は次のように語っている。
「当校で進路指導、キャリア教育において大切にしていることは、生徒の「この会社で働きたい!」という意欲を引き出し、働き続けるための力につなげる「自分で決める」を育むことと、難しいところ(弱み)は周囲に伝えて支援をもらいつつ、自分の強みを発揮し、仕事に貢献できるようになるための「自己理解」を深めること、そして就職を決めることだけでなく、楽しむことや学び続ける自分を作り、社会に出てからも「自分らしく生きる」よう導くことです。
知的障がいのある生徒は、実際に職場で働いてみる体験を通じて、『自分が働くとしたら、どうか?』という具体的な理解を深めます。そのために必要な実習の場の提供は大変ありがたいですね。また、生徒たちの強みについて認めて励ます一方で、丁寧な振り返りをしていただけるので、実習後の達成感や向上心の高まりにつながっていると感じています。社会人として仕事を続けるうえでは、必ずしも順調な時 ばかりではなく、悩んだり、体調面・精神面の不調を感じたりすることもあります。そんな時でもDICエステートさんでは細やかかつ温かく配慮してくれる職場環境となっていて、本校とも連携を図ってくださるので、卒業生たちもさまざまな壁を乗り越え、成長できているのではないかと思います」
社員全員のやりがい・働き甲斐の創出を図る
障がい者雇用を推進するうえで重要なキーワードとなっているのが「ダイバーシティ&インクルージョン」だ。今、ダイバーシティ(多様性)を経営に取り入れたいと表明する企業は多いが、多様性だけでは、法定雇用率の達成がゴールとなってしまう。就労環境やその個性や能力を活かす仕組みを整えておかないと「受容・活用」を意味するインクルージョンには届かない。そこで、DICエステートでは、こうした「ダイバーシティ&インクルージョン」を組織マネジメントの基本理念と位置づけ、社員の職域の拡大と職責の向上を図り、成長を促す仕組みをつくり上げている。
コロナのピンチをチャンスに変えた!2つの新たなサービス
2020年春の新型コロナ感染症拡大時に新たな転機が訪れた。政府の外出自粛要請を受けて社員の出社率が従来の2〜3割になったことから郵便や宅配便の量が減少し、業務拡大どころでない事態となった。そんなピンチをチャンスに変えた新たな業務が「Irodori Café」と「テレワークサポートサービス」だった。
「以前のIrodori Caféは、社員食堂を運営していた外部の業者が併設した店舗でしたが、コロナ禍で利用者が激減し、2020年に閉鎖されました。以降、感染者数の増減に応じて弾力的な対応が続く中、出社する社員からは、外のコンビニまでコーヒーを買いに行くのはちょっと大変だねという声が聞こえてきました。そこで、DICエステートで業務を請け負わせてもらえないかと相談したところ、社内のさまざまな方の協力を得て、実現することができました。カフェ運営に関しては特別支援学校で学んでいた社員もいたことから、切り出したかった業務でもあったのです」
立ち上げにあたり、メニューを2種類に絞り、支払いでは現金を取り扱わず、社員証と交通系ICカードの2方式というシンプルな仕組みに再設計し、2021年3月にリニューアルオープンした。
「今では2人の社員が一日200人以上のお客様をこなせる日もあり、メニューも5種類に増やせました」と古田さんは微笑む。
また、テレワークサポートサービスは、コロナ禍で在宅勤務が増えた本社勤務の社員がわざわざ出社して行なっていた業務を、毎日出社しているDICエステートの社員でサポートできないかという発想から生まれた。
「本社に届いた郵送物をDICエステートの社員が代わりに開封し、電子化後に担当者へメールで送るサービスをご利用いただいているほか、パソコン入力などの事務的な作業も増えています。データ入力など丸1日かかるような作業って結構あると思うのですが、こうした長時間集中して行う仕事こそ当社の社員の得意分野なのです」
このサービスを開始してから1年ぐらい経ったが、48件の相談があり、すでに39件の業務を実施した実績が出来ているという。
社員の成長したいという“輝き”を信じて
現在、古田さんは働く人の特性に合わせた制度で運営できる「特例子会社」の立ち上げを目指すべきではと検討を進めている。
「今、DICエステートでは障がいを持った社員たちだけで、業務を回せる体制が出来上がっています。また、頻繁に業務改善ミーティングを開くなど自分たちの職場は自らつくっていくという意識も高まっていると感じています。こういった状況を一歩進めて、個々の社員の特性にもっと合わせた柔軟な雇用制度を作りやすい特例子会社を設立できれば、今以上に働きがいを感じてもらえるのではないかと考えています」
毎朝の集配業務時やIrodori Caféで、元気に挨拶をするDICエステートの社員に「いつもありがとう」と声をかける社員が増える中で、DICの社内の雰囲気が明るくなり、多様性への理解やコラボレーションも広がっている。DICグループは、これからさまざまな個性や特性、そして「協働」でユニークな価値を社内外で創出していくだろう。
Café 運営の先輩としていいチームをつくっていきたい
現在は、Café 運営を中心に給茶機保全も担当しています。最初はレジ打ちの操作、ドリンクの提供手順、しぐさ・言葉遣いなどを覚えたり、細かい気配りをしたりするのが大変でしたが、徐々に慣れて自分らしく振る舞えるようになりました。お客様に「ありがとう、いいお店ですね」と言われた時が一番うれしいですね。今後の目標としては、Café 運営の先輩として、新入社員や実習生など新しいメンバーが入ってきても声がけし合いながら改善や工夫をしていけるいいチームをつくっていきたいと思います。
どの業務にも精通したオールラウンダーになりたい
現在は、Café 運営を中心に宅配業務も担っています。自分がDIC エステートで実習した時は、フォローしてくれる指導役の社員の方に付いてもらい、「挨拶が元気でいいね」「作業がうまいね」など常に声がけをしてもらえたことが自信につながりました。そこで今就業体験に来ている高校生に対しても、まず一人の仲間として受け入れることを大切に、分からないことがあったら丁寧に教えてあげるようにしています。今後の目標としては、どの業務にも精通し、指導役もこなせるオールラウンダーになりたいです。