2020年6月に和歌山県海南市にオープンした「海南nobinos(ノビノス)」。前回は「いろどり編」として施設が誕生した背景やコンセプト、DICカラーガイド「日本の伝統色®」から選ばれた海南の伝統色を取り入れたことを紹介しました。
今回は快適で居心地の良い空間作りのアイデアについて、前回に引き続き、宇尾崇俊さん(海南市教育委員会 生涯学習課 文化振興係 ※取材当時)にお話を伺いました。
(聞き手DICグラフィックス株式会社 事業+α推進本部 企画開発グループ 浅利英里奈)
自然音に包まれる窓辺のラウンジ
自然光が気持ちの良い窓辺の閲覧席は前後がゆったりした設計がなされている。鳥の鳴き声と水の流れる音に包まれる癒しの空間でもある。
4階の閲覧ラウンジはじっくりと本に親しめる空間ですね。
宇尾 このラウンジにはある仕掛けをしています。それは自然音のBGM。鳥の声を頭の上から、足元からは水の流れる音を流しています。この席に座っていると、いつのまにか自然の中に身を置いているような気分に浸れる…そんなことを狙っています。ちなみに鳥の鳴き声は夜になるとフクロウに変わるんですよ(笑)。
海南nobinosを作るにあたり、宇尾さんは計画段階でどんなことを心掛けましたか。
宇尾 まずは、何百人もの市民の方に「海南にどんな図書館(施設)が欲しいですか」「どんな場所だったら行きたいですか」と2カ月かけてリサーチしました。ある女子大生からは公共図書館には常に統一感のない貼り紙がしてある、「公共施設はダサい」と言われました。彼女の目には、そんな場所に通うという行為自体がダサく映っていたのかもしれません。また、小学生の男の子は、「図書館に入るときは、静かに! といつも大人に注意される」とつまらなそうに言いました。同じく「小学生の女の子からは「海南の図書館におしゃれなカフェが欲しい」と言われました。ちなみに、その子はコーヒーが飲めないらしいのですが、海南にはなかったおしゃれなカフェに憧れがあったのかもしれませんね。こうした市民の皆さんとの対話から、「本のある空間に親しんでもらう」という考えに導かれました。
今では、図書館入口に併設したカフェでの給仕音が、子どもの笑い声や赤ちゃんの泣き声とも調和して、この図書館らしい雰囲気を出すのに一役も二役も買ってくれています。
今日はどの席に座ろう? お気に入りの席を見つける楽しみも
海南nobinosには子どもも大人も楽しめる空間を感じます。
宇尾 4階の「メインライブラリー」は、さまざまな色にあふれた2階や3階とはグッと雰囲気を変え、シックなトーンでまとめ、本に集中できるよう落ち着いた空間を作りました。頭上にレトロな照明がともる丸テーブル、吹き抜けに挟まれていろいろなチェアが並ぶ長い学習席、自然音のBGMに包まれる閲覧ラウンジなど、来館者がその日の気分でお気に入りの席を選べるよう、バラエティーに富んだ空間を作ったつもりです。椅子の座り心地にもこだわりました。また、図書館機能のほかにも、ボルダリングや卓球ができる部屋やバンドの練習ができる防音設備のある音楽室もあるんですよ。
本の検索機は、既存のアイコンを入れ替えたnobinos仕様。こんな細かなところにもこだわった。「最近では、和歌山市内に通学する有田の高校生が海南nobinosに来るため、JR海南駅でわざわざ途中下車するようになったそうです」(宇尾さん)。
2階の「マガジンライブラリー」では、書棚に並ぶ雑誌の種類に圧倒されます。
宇尾 実は国内で刊行される雑誌の最新号を100種以上そろえています。バイクや音楽、パソコンなど専門性の高い、ある意味マニアックな雑誌もたくさん置いていることもあり、特に男性の来館者たちからは「若い頃、愛読していた雑誌がまだ続いていたことを知り、また読み始めるきっかけになりました」など、好評のようです。ぜひ、雑誌を読みに来ていただきたいですね。
マガジンライブラリーの脇には美しいビジュアルの大型本が並んでいる。大人にも子どもにも好評だ。