海南nobinos(ノビノス) 伝統色とふれあう彩りと快適の図書館 <いろどり編>

2021.03.29 事業を通じた社会貢献
彩と快適の図書館 海南nobinos
彩と快適の図書館 海南nobinos

2020年6月、和歌山県海南市にオープンした「海南nobinos(ノビノス)」は図書館機能をはじめ、最大254人収容のホール、ボルダリングができる部屋、カフェ、広場などを擁するユニークな市民交流施設。この施設ではDICグループの多様な製品・サービスが採用されています。ライブラリーでは、グラフィック業界をはじめ、あらゆる分野で使われている色見本帳DICカラーガイドシリーズや世界に向けてアジアのトレンドを毎年発信している「アジアカラートレンドブック」を閲覧することができ、公共施設では貴重な機会となっています。また、施設の彩りに生かされている「海南の伝統色」は、DICカラーガイド「日本の伝統色®」から選ばれ、建築材料、不燃化粧板ユニバーサルデザインカラーの配色で使われています。

2020年6月、和歌山県海南市にオープンした「海南nobinos(ノビノス)」

今回は海南nobinosが誕生した背景やコンセプト、海南の伝統色などについて、施設整備を担当した宇尾崇俊さん(海南市教育委員会 生涯学習課 文化振興係)にお話をお伺いしました。
(聞き手DICグラフィックス株式会社 事業+α推進本部 企画開発グループ 浅利英里奈)

目指したのは海南のにぎわいを生み出す場

エントランスのある2階のライブラリー

エントランスのある2階のライブラリーでは自然光がたっぷりと入る窓際にはカフェが、その横には雑誌や絵本などが並ぶ、色とりどりの本棚が配されている。施設の最大蔵書数は約15万冊。

海南nobinosが開館する背景やきっかけなどを聞かせてください。

宇尾さん

大学時代はプロダクトデザインを学んでいたという、感性豊かな宇尾さん。開館時刻前に行列ができるほどの人気施設となった海南nobinosを作り上げた。

宇尾 この場所には海南市庁舎や児童図書館が建っていました。2015年に市庁舎が高台へ移転することが決定し、その跡地には市民が交流できる施設を作ることになりました。私は2016年に教育委員会に異動になり、この施設を作る担当になったわけですが、私に与えられたミッションは二つでした。一つは「図書館」を作ること。もう一つは「にぎわいを創出する施設」を作ることでした。人口5万人弱の海南市も少子高齢化に悩んでいまして、市も子育て支援や地域の活性化を図るために市民が交流をする場所を必要としていたのです。

2階のライブラリー

愛らしいカラーの本棚が並んでいる2階のライブラリーは絵本と雑誌が中心となっている。なお、海南nobinosの絵本は日本一の開架冊数を誇り、約5万冊が手に取れる。

フロアも色別でわかりやすく表示されている。1階のカラーに用いられたのは「石竹(せきちく)色」。海南市の名産「高津の桃」や和歌山県三大用水池の1つである亀池があり、約2000本の桜が圧巻の「亀池公園の桜」をこの色で表現している。

海南nobinosのコンセプトについて、そして開館にいたるまではいかがでしたか。

宇尾 nobinosには市民が「のびのび」と集ったり、「のびのびできる巣」という思いが込められています。ネーミングは公募し、その中から選んだものです。幅広い年代の方に快適に過ごしてもらうために、施設にあったらいいものやアイデアを海南市内の小中学校の子どもたちにも聞いてまわりました。また、にぎわいを創出するためのターゲットは子育て世代の人たち。彼らが気軽に子どもを連れてきて、図書館を利用し、さらにリピーターになってもらうには? ということを意識し、施設の計画を練っていきました。2016年に計画を開始し、設計、施工に4年を要しました。本来は2020年4月に開館する予定でしたが、コロナ禍の影響で6月1日に開館しました。

4階のメインライブラリーから見下ろした2階のライブラリー

4階のメインライブラリーから見下ろした2階のライブラリー。2フロア分の吹き抜けが開放的な空間を作っている。2階の人たちの穏やかなざわめきが4階に心地よく響く。

海南の文化や伝統を色で表現!
DICの「日本の伝統色®」から選定された海南の伝統色

館内のサイン

施設の中で特に目を引くのがDICの「日本の伝統色®」から選ばれた「海南の伝統色」を紹介するコーナー。伝統色サインをはじめとする館内のサインはグラフィックデザイナー・廣村正彰さんが手掛けた。

こちらの施設にはDICの「日本の伝統色®」の中から選ばれた「海南の伝統色」がふんだんに使われています。この伝統色を取り入れるきっかけについて教えていただけますか。

宇尾 「海南らしい、いままでにないような居心地のいい図書館を作りたい」という思いが常にありました。それには海南という土地の伝統や風習を含んだ「魅力」を伝えるストーリーが必要でした。和歌山県には国宝建造物が7つあり、そのうち4つが海南にあります。加えて、工芸品では紀州漆器、豊かな自然にも恵まれお菓子のルーツといわれる「橘(たちばな)」もあるし、「しらす」もある。

意外に思われるかもしれませんが、たわしに使われる「棕櫚(しゅろ)」も海南の名産です。しかし、地域の魅力を地元の人は案外気が付かないものです。海南の魅力をどういった手法で伝えるか…そこで、施設のサインデザインをお願いした廣村正彰さんに相談に乗っていただき、色を用いて海南の名産や土地柄を表現することになりました。そこで「兵庫五国の伝統色」などの事例がある、DICグラフィックスさんにご協力いただくことになったのです。

ギャラリーの近くにある2階から3階へ続く階段には海南の伝統色を用い、海南市の伝統や文化を学べる仕掛けがなされている。

色の由来を解説するテキストはDICが提供。海南の伝統色コーナーに使用されている素材はウレタンで、ソフトな感触。色の解説文の下には伝統色が使われている物産や文化財などをピクトグラムで表している。

貸し出す本を運搬するカートにも伝統色の解説を配している。さりげなく海南の伝統色を市民に浸透させる演出だ。

シンプルでわかりやすくデザインされた海南nobinosのフロアマップ。

私が「海南の伝統色」をご提案に伺った際、宇尾さんが想定されていた色とほぼリンクしていたことに感動しました。

宇尾 そうでしたね。海南の伝統色はDICカラーガイド「日本の伝統色®」の中から17色を選びました。みかんの原種で、お菓子の起源といわれる橘は『柑子(こうじ)色』といった具合に伝統色を選んでいったんですよ。来館者には伝統色を通じて海南の魅力を知ってほしいという思いがあります。中には伝統色や色彩全般について知りたい人もいると思うので、4階のメインライブラリーにはDICのカラーガイドをはじめ、色について調べられるコーナーを設けました。顔料、染料、自然素材などに見られる多種多様な色について興味のある人は、ここでページをめくっています。いつか海南から世界に羽ばたくデザイナーが生まれたらうれしいですね。

DICのカラーガイドも貸し出しOK!

2階のライブラリーにはオブジェのような、ユニークなデザインの本棚がズラリ勢ぞろい。この本棚の間を歩くだけで楽しい気分になる。

4階メインライブラリーの「色・デザインの本」コーナーでは『日本の伝統色』『中国の伝統色』など、DICのカラーガイドが置かれ、自由に閲覧・貸し出しができる。メインライブラリーを占める小説や漫画、ライトノベルとは趣が異なる、重量感のある色の見本帳を好奇心からめくる子どもの姿も。

カラーガイドの横には豊富なビジュアルとマテリアルのサンプルを貼り付けたDICカラーデザイン株式会社が刊行する『アジアカラートレンドブック』が自由に閲覧できる。公共図書館で所蔵されるのは初めてのこと。

【所在地】
〒642-0002 和歌山県海南市日方1525-6
【TEL】
073-483-8739
【オフィシャルウェブサイト】
https://kainan-nobinos.jp

※最新情報や詳細はオフィシャルウェブサイトでご確認ください

海南nobinos