藻類でスキー板?! 米・スタートアップ チェッカースポット社とDICがともに作る未来

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2020年4月13日

世界的な潮流として、企業がイノベーションを起こすため、スタートアップへの投資を行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)に注目が集まっています。
DICのCVCは、2016年に当時の新事業企画部内に設立。
現在は新事業統括本部事業企画部で推進し、サステナビリティ方針のもと、破壊的イノベーションを含むユニークな技術力・ビジネスモデルを有し、社会やDICグループに貢献するスタートアップを世界各地から見出し、協業支援、出資を行っています。
今回はその活動とDICとともにサステナブル社会を目指す「(米)バイオ系スタートアップ チェッカースポット社」を紹介します!

投資が本業ではない企業が、新事業創出や最先端情報の収集などを目的としてスタートアップ企業への投資活動や協業を行うための組織で、オープンイノベーション手法の一つです。CVCにより新市場の探索・新規参入に加え、外部からのビジネス破壊の回避、既存事業の拡大、地位向上などが期待できます。

CVCの活動では新事業創出や最先端情報の収集などを目的としたスタートアップ企業への投資活動を行います。 今後、新事業創出や先端技術へのアクセスを加速するには大学の研究機関などアカデミアとの産学官連携、事業会社とのアライアンス、事業買収、水平・垂直連携(同業者やユーザー、原料供給企業との連携)などとともに、CVCによるユニークな技術を有するスタートアップの発掘とその保有技術へのアクセスが欠かせない手法となります。このようなオープンイノベーションの重要な一角をなす活動を担います。

ベンチャーキャピタル(VC)との違い
こうしたスタートアップ企業への投資に金融機関が中心となって構成されるのがベンチャーキャピタル(VC)です。VCは出資後、スタートアップ企業の企業価値を向上させ、上場(IPO)や他社への売却(M&A)で投資回収(EXIT)をして資産の価格変動による利益(キャピタル・ゲイン)を得るのがビジネスモデルであるのに対して、CVCはスタートアップ企業にVCとともに事業会社が出資して経営に参画すると同時に販売やスケールアップなど、事業会社ならではの支援を行います。その結果、自社の事業や新規創出事業目標とのシナジーによるビジネス拡大により利益を得ます(ストラテジック投資)。また近年はCVCから始まる出資活動がM&Aにつながる例が増えています。

DICは2021年を目標にした中期経営計画「DIC111」の中で、新事業の創出、外部リソースの活用を推進する方針を打ち出しています。
新事業の創出では次世代ディスプレイなどエレクトロニクス分野、次世代電池材料などに照準をあてたオートモーティブ、サステナビリティに重きを置いた次世代パッケージング、機能食品などを軸としたヘルスケアの4つの領域で新たな柱となる事業の構築を目指しています。

主な探索分野はサステナブル材料&ソリューション、ナチュラルカラー&ニュートリション、高機能材料の3分野。
サステナブル材料&ソリューションではリサイクルシステム、バイオ由来材料、生分解性材料、パッケージソリューション、省エネ・省資源化に照準を当てています。
ナチュラルカラー&ニュートリションでは天然着色材料、機能性食品、化粧品および原材料、藻類技術が軸となります。
高機能材料としてはエンプラ、CFRP、液晶関連材料、機能性インク・接着剤、添加剤・コーティング、3Dプリンターシステムなどが探索の中心分野です。

DICが新事業企画部内にCVCを設立したのは2016年。拠点を米国、日本に置き、担当者は米国2名、日本は専任、兼任、サポート各1名、合計5名で活動を開始しました。スタートアップ企業探索の対象地域は北米、欧州、日本、イスラエル。新事業開発や協業によるビジネス構築を目標としたストラテジック投資を展開するにあたり、対象はアーリーステージのスタートアップ企業とし、株式保有率を高めないマイナー出資であることをポリシーとしています。設立から昨年までの3年間でスタートアップ、素材系ファンドそれぞれ2社に出資した実績を有しています。

1. ユニバーサル マテリアルズインキュベーター(UMI)
素材や化学産業分野で、事業ステージが製品開発から生産技術フェーズに入っているアカデミア発のスタートアップ企業や大企業からのカーブアウト企業(事業)、すでに事業を推進しているスタートアップ企業への出資を主な対象としています。これまでにライフサイエンス向け蛍光試薬やナビゲーションドラッグ※を得意とする五稜化薬やオンサイトアンモニア生産プロセス技術を有するつばめBHBなどに出資しています。
現在は日本での投資が中心ですが、海外での出資活動も進めています。
UMIにはDICのほか、旭硝子や住友化学、積水化学など大手化学企業が数多く参画しています。
※新しいがん検出技術

2. Emerald Technology Ventures
スイス・チューリヒとカナダ・トロントに拠点を置き、エネルギー、水、素材化学、IoT・ソフトウエア分野を中心に5年以内にEXITが見込めるベンチャー投資を主としています。これまでにバイオベース高性能蓄熱材のPhase Change Energy Solutionsや限外濾過モジュールのIngeなど約50社に出資、Ingeと燃料電池用高温膜のPEMEASはいずれもBASFが買収しています。DICのほかクラリアントHenkelなど欧州化学企業のほか、ミシュランやSABICも出資しています。エメラルド社からは毎年約1300件のスタートアップ情報がDICに共有されており、社内にはGoldfireを通じて公開しています。ここから共同研究に向けた検討や新規アイデア創出などにつながっています。

3. Checkerspot Inc.
チェッカースポット社は、天然では低濃度でしか存在せず、化学合成など他の方法では量産化が難しい物質をバイオテクノロジーで量産する技術をコア技術としています。
DICはチェッカースポット社に2018年4月に出資、6月に先端機能材料に関する共同開発契約を結び、さまざまな協業を進めています。本年1月24日には、Charles Dimmler CEOとScott FranklinCSOが来日。設立したアウトドアブランドWNDR Alpine https://wndr-alpine.com/で昨年10月より販売を開始した、藻類由来ポリオールを使用したスキー板を髙野聖史役員へ贈呈しました。
DICとのパートナーシップは、接着剤やコーティング剤、印刷インキ、潤滑油分野における新たな製品や改良品および処方設計の創造を重点に推進中です。具体的には、微細藻由来のポリオールをポリマー技術第一本部・接着剤技術本部と共同開発しており、インキバインダーやパッケージ接着剤への展開が期待されています。

4. Green Earth Institute(GEI)
再生可能資源であるバイオマスを原料に化学品やバイオ燃料などを製造する技術を有する出資先の一社であり、UMIからの紹介によりDICの直接出資および同社との共同研究につながりました。

Interview Report "DIC Investment Spot light"

ブランド価値としてのサステナビリティとは
チェッカースポット社の熱い思いとビジネス戦略

DICは、2018年に分子レベルで材料を設計するバイオベンチャー、チェッカースポット社に出資しました。米国カリフォルニア州バークレーにある同社は、微細藻類より材料を作り、これまでの石油由来材料を代替し、より持続可能な高性能製品の材料を生み出す技術を保有する会社です。
同社のビジネスモデルは、製品が作られて廃棄されるまでを考慮して製品設計し、ソーシャルメディア活用で消費者のエコロジー、環境、サステナビリティへの共感反応を追跡する革新的なものです。
さらに同社は、バックカントリー(ゲレンデ外)スキー4FRNT Skisの創設者マット・スターベンツさんと、チームを組み、WNDR Alpineを立ち上げました。
1月24日、DIC本社で、同社の共同設立者であるチャールズ・ダイムラーさんと、スコット・フランクリンさんが、DICコーポレートコミュニケーション部のクレイグ ダンドリッジさんを司会として、彼らのビジョン、およびサステナビリティの重要性について意見交換しました。

チェッカースポット社について


2人は、2016年6月にチェッカースポット社を共同設立しました。CEOのチャールズさんは、バイオテクノロジー事業で10年以上の経験があり、新製品開発とマーケティング、M&Aの分野で顕著な功績があります。一方、最高技術責任者のスコットさんは、微細藻類の革新的研究に数十年の経験を持ちます。
彼らは、藻類や植物の生産するオイル(トリグリセリド)に注目。その遺伝子組み換えを行うことで、今まで大量に生産することが難しかったこのオイル成分を、発酵プロセスを通じて容易に生産できることを見いだしました。

ブランド価値としてのサステナビリティ


チェッカースポットの名称の由来は、気候変動の悪影響が出ているシエラネバダ山脈に住む蝶の名前から来ています。彼らは、高性能製品をのみ追求するのではなく、サステナビリティを追求することで、社会への価値提供を行っています。同社の戦略のひとつは、製品を消費者が使用するモノとして世の中に出して、その製品のサステナブルな価値を理解してもらうことにあります。
彼らは、特にサステナビリティの3つの側面に注目しています。①原料の調達方法②マテリアルの市場への影響・貢献(例えば安全性。材料と成分の安全性は切っても切り離せない関係です)。③製品の廃棄時を考慮すること(材料は埋め立てられるか、再利用されるのか)。20世紀に確立された材料の大量生産消費のビジネスモデルが21世紀も継続することは、困難であると考えています。
現在同社は、立ち上げた消費者向けアウトドアブランドであるWNDR Alpineを研究ラボの一部とみなし、アルピニストにギアを浸透させることを行っています。
「その理由は、①アルピニストは可能性の限界に挑戦する欲求を持っていること。②アルピニストは、母なる自然に対する深い愛情を持っていること。さらに、③アルピニストは、生死を分けることがあるため、ギアの性能を重視しているからです。同社のイノベーションや事業と、これらは多くの共通点があり、顧客との共感の接点を常に追い続けることが大切です」とチャールズさんは語りました。

藻類ポリオールを使用したスキー板を髙野役員へ贈呈
(左から)Scott Franklin CSO(Checkerspot)、髙野聖史統括本部長、Charles Dimmler CEO(Checkerspot)、田中一義PM、後藤直孝マネジャー

世の中の“知”を愛でる


画期的なアイデアは、多くの人が関わって生まれます。知識の社内から社外へ拡散と、社外の知識の活用は、イノベーションを生み出しやすい環境をつくり、開発の生産性を飛躍的に向上させます。
「チェッカースポットのビジョンは、“扉(トビラ)を越えて他者に力を与えること”です」と、チャールズさんとスコットさんは言葉に力をこめます。彼らは、彼らのテクノロジーが世の中の他の組織にも影響することを強く望んでいます。
多くの変化をベンチャーが生み出しています。業界のトップ企業に、“彼らの意思と時代”に合わせて変化したツール、テクノロジー、材料を委ねることで、効果的にサステナブルなイノベーションを広範囲に起こすことができます。これを、同社はDICとのパートナーシップで成し遂げたいと考えています。

常に追求するコミュニケーションの透明性の精神


彼らは、明確な目標の設定、投資、行動を決める際には、透明性が高いコミュニケーションを常に行います。それは、イノベーションには、高い透明性が不可欠と考えているからです。
一方、社外の専門家や消費者だけでなく、外部パートナーに対しても、透明性を求めています。彼らは、外部の関係者が、異なるビジネスモデルを創出することに貢献することも常に念頭に置いています。この新しいモデルが人々を豊かにすれば、それがチェッカースポットの社会貢献になると考えています。

DICとのパートナーシップ


直近2年の間に、チェッカースポットの技術チームは、DICと非常に密接に働き、さまざまな共同研究を進めています。また、一定のマイルストーンを達成し、商業化へとさらに関係を深めているところです。
DICのメンバーや企業文化は、協力的で、好奇心が高く、エネルギッシュだと、彼らは言います。また、DICのビジョンへも非常に感銘を受けており、サステナビリティに対する感度の低い世界的大手企業がある中で、これを最重要課題として取り組んでいるDICとパートナーを組むことで、同社は新たな可能性を見いだしたいと話しました。

チェッカースポット社のサステナビリティとは


チェッカースポットは、サステナブルなビジネスの潮流の中で成長すべきであると自らを位置付けています。
「2003年から2005年に起こったデジタル革命と同様に、現在は、企業が経済的価値の提供だけでなく、社会的価値の提供を考えなければならない時代です。これはイノベーションの観点から見て、サステナブルな高機能素材の創出の良い機会と捉えています。
テクノロジーの融合は、元々無関係な技術が、開発および進歩の段階で、より密接に結合され、さらには統合されることを意味します。このテクノロジーの融合を積極的に図ることで、より大きな社会問題を解決することができるはずです。今は、社会に大きく貢献できる非常にエキサイティングな時代だと思います」とチャールズさんは語りました。

素材企業と社会をつなげるブランディングとその評価方法


チェッカースポットはなんと、ウィンタースポーツのニュースのない真夏にスキーの広告を始めました。発売から6カ月後、WNDR Alpineに対する市場の反応は非常に良く、その結果、いくつかのメデイア、雑誌に、ギアのレビューが取り上げられ、これが期待を超えるブランド効果を生みました。
同社は、Facebook、Instagramなどのソーシャルメディアを積極的にブランディングに活用しています。定量的指標では、サイト訪問、ソーシャルメディアの印象、投稿している人数などを計測。定性的指標には、ギアのレビュー担当者のストーリーや、製品パフォーマンスを評価する専門家の意見などを挙げ、これらを分析しています。「この結果を見ることで、顧客の製品性能に対する評価が分かります」と、チャールズさん。
さらに、同社は、PRとして著名なプロスキーヤー、山岳ガイドを活用しており、このプロ集団は、インフルエンサーに対する影響力が強く、ブランドの拡散、消費者からの多くのフィードバックと、開発の方向修正に役立てられました。
彼らは、素材企業と社会をつなげる方法として、ブランドを立ち上げることに手応えを感じています。今後も彼らの材料を使って、アウトドアブランド以外の他の分野でもブランドを立ち上げることを視野に入れています。

チェッカースポット流の製品開発と未来 スキーが廃棄される時に何が起こるか


チェッカースポットは製品が廃棄される時を意識した開発を行っています。スキーを廃棄しやすいように分解できる樹脂システムを開発中など、同社はサプライチェーンの最後を見つめてたくさんの課題に取り組んでいます。
何故、最初に自動車のようなボリュームが大きな市場を選ばず、スキーを選んだかの理由は、廃棄を考えると比較的取り扱いやすい市場ではないかと考えたからです。
「製品化から廃棄までのサステナブル製品ライフを設計する中で、新たなビジネス機会を見いだし、チェッカースポットとして取り組むビジネスモデルの創出を常に考えています。その中で、DICとパートナーを組めたことは私たちの喜びです」とチャールズさんは微笑みました。

チェッカースポット社について
商  号  Checkerspot Inc.
所 在 地   Berkeley, CA, USA
設  立  2016年事業内容遺伝子組換を含めた微生物有用成分の高率化、生産技術の開発・ライセンスおよび化学品、消費者製品の開発・製造・販売
従業員数  27名
事業状況  藻類由来オイルを撥水機能付与剤用途に販売中。アウトドアブランドWNDR Alpine設立(19年8月)。藻類由来ポリオールを使用したバックカントリー用スキー板を販売開始(19年10月)。

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