食品トレーの資源循環に
新たな扉を開いたリサイクル法
日々、大量に生産・消費される食品トレー。
その原料であるポリスチレンを独自の技術で再び食品トレーに。
この取り組みに挑むDICならではの視点や技術を明かします。
パッケージ技術本部
内田・岸
取り組み
の経緯ポリマーのままリサイクルできないか
インキに精通するDICが考えたこと
このプロジェクトがスタートする以前から、DICは食品トレーの最大手メーカーであるエフピコ様と協働で「ポリスチレンの完全循環型リサイクル」構想を打ち出し、使用済み食品トレーのポリマーを原料であるモノマーに還元して食品トレーに再生する「ケミカルリサイクル」に取り組んできました。
ケミカルリサイクルは素晴らしい技術だと思いますが、私たちはモノマーに戻すのではなく、ポリマーのままリサイクルできないのかと考えたのです。
具体的な手法を探る中で、これを実現するには色・柄付きの食品トレーに着色されたインキの分離が難しく、それがポリマーのままリサイクルするうえで最大のネックであることが分かりました。それでも、この課題を克服できれば、新しいリサイクルの道が開けます。
DICにはインキに精通している技術者が数多くいて、話を聞くと「食品トレーに使われるインキに含まれる顔料は、水や油に溶けない性質を持つ」ということが分かりました。そこでポリスチレンを特定の溶剤に溶けるように設計し、顔料を不溶分とすれば、液体中に分散している固体を液体から分ける『固液分離』で除去できると考えたのです。
開発の
ポイント高いハードルを乗り越えて
DICならではの溶解分離技術を確立
開発テーマのキーポイントは、溶剤に溶けた回収ポリスチレン中の固体を分離(脱墨)することで、ラボスケールでは固液分離(濾過、遠心分離)で実現できました。
しかし、既存のポリスチレン生産工程に濾過や遠心分離は含まれないため、固液分離技術をプラントに展開するスケールアップ段階では難航しました。
そこで、エンジニアリング部の紹介や産業装置の業界団体名簿を取り寄せるなどして、可能性がありそうな装置を一つ一つチェックして候補を絞り込んでいきました。
『濾過』と聞くと単純な工程と考える人が多く、進捗が行き詰っていた時には「なぜ、そのような単純なことができないのか」とお叱りも受けたこともあります。
ただ、スケールアップを進めるうちに、濾過機メーカーの担当スタッフに私たちの熱意が伝わり、厳しいスケジュールの中で、必要な実験を粘り強く行っていただき、プラント展開の目途が立ちました。
同時に、パイロットプラントを構築する四日市工場の全面協力も得て、滞りなく進めることができ、製造現場との強い連帯感も生まれました。
溶解分離リサイクルは、総合化学メーカーであるDICならではの技術です。脱墨には顔料やインキの知見が不可欠ですが、DICにはこの分野に精通したスペシャリストが多数いるからこそ実現できました。まさにDICの基盤技術を組み合わせた手法です。(内田)
プロジェクトを通じて、DICは自分たちの製品を売りっぱなしにせず、責任を持って回収プロセス(環境対応策)を確立できる会社だと思いました。共に開発する仲間たちとそうした意識を共有できたからこそ、ここまで辿り着いたと感じています。(岸)
これから
の課題消費者様にポリスチレンリサイクルの
存在・実情・課題を知っていただきたい
リサイクルは消費者様のご協力があって初めて成り立つものです。私たちがどれほど高度なリサイクルシステムを構築しても、消費者様のご協力がなければリサイクルするべき使用済みプラスチックを集めることができず適正な資源循環を行えません。
現在、スーパーマーケットなどに回収ボックスを設置して収集する方式のため、手間がかかると感じる消費者様も少なくないでしょう。将来はペットボトルのようにゴミ出しの日に回収できるようになれば社会と一体となったプラスチックリサイクルを推進できると思います。
そのためにも、今回開発した溶解分離リサイクルの取り組みをきっかけに、ポリスチレンのリサイクルが社会に認知され、よりいっそう消費者様のご協力を得ることにつながれば幸いです。
クリーンでエコな社会をごいっしょに築きませんか?
リサイクルはDIC単独ではとうてい推進できません。消費者様、食品容器メーカー様、そしてDICが同じ目標に向かって突き進むことで初めてリサイクルは成り立ちます。みんなが一丸となって環境問題に立ち向かい、クリーンでエコな社会をごいっしょに築きませんか?