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「一緒に働きたい」を、事業を動かす力へ。鹿島と蔚山の現場交流から始まった「One DIC」


DIC鹿島工場と、韓国のSun Chemical蔚山(ウルサン)工場は、2021年の顔料事業の買収により、同じグループとなりました。しかし、組織としてつながっても、現場で働く人同士がすぐにつながるわけではありません。同じ顔料をつくりながらも、鹿島と蔚山では、互いの設備や仕事、人についてほとんど知らない状態が続いていました。
その距離を縮めようと2024年に始まったのが人材交流プログラムです。当初は1週間単位の相互訪問だったのが、2025年には半年間の住み込み交換へと発展しました。
今回は、その第1号となった、DIC鹿島工場 カラーマテリアル生産部 顔料製造2課の宇野有美と、Sun Chemical蔚山工場で顔料の製造を担当するイ・ジョンウ マネジャーに話を聞きました。
同じ顔料をつくっているのに、互いの現場を知らなかった。海を越えた交流が始まった理由
──まず、お二人のお仕事から教えてください。
宇野有美(以下、宇野):私は鹿島工場で、顔料の品質管理を担当しています。あわせて、工場の稼働を支えるユーティリティー関連設備の合理化にも取り組んできました。

▲DIC鹿島工場の宇野有美。趣味はサーフィンで、赴任先の蔚山でも、ボードを借りて近郊の海水浴場でのサーフィンを楽しんだ
イ・ジョンウ(以下、イ):私は蔚山工場で、顔料の製造を担当するマネジャーをしています。2011年に入社して以降、15年間ずっとこの工場に勤めています。

▲Sun Chemical蔚山工場のイ・ジョンウ(JungWoo Lee) マネジャー。趣味はランニング。鹿島滞在中には、工場のメンバーと一緒に近隣のマラソン大会にも出場
宇野:同じグループの会社になっても、最初はお互いの工場のイメージってほとんどなかったですよね。
イ:本当に。一度も訪ねる機会がなかったので、どんな設備があって、どんな人が働いているのか、正直まったく想像がつかなかったです。
宇野:私の場合、文字だけのやりとりはあったんですよ。品質保証の部門から「こういう要望が海外から来ている」みたいな英語の文章を見ることはありました。でも、それだけだと相手の状況はわからなくて。文面上の問題の裏に何があって、どんな現場でどんな人が困っているのかまでは見えていませんでした。
──だからこそ、技術の共有よりもまず「お互いの現場を知る」ことから始まったのが、この交流プログラムだったんですね。最初に話を聞いたときは、どう思われましたか。
宇野:いまの語学力で、細かいニュアンスまで伝えられるか不安はありましたね。留学経験も豊富ではなかったので。でも、学びたいことは明確でした。品質をどう管理しているのか、どんな製品をどんなプロセスでつくっているのか、工場そのものをどう運営しているのか。イさんはどうでしたか?
イ:正直に言うと、単独での長期参加は少し悩みました。家族もいますし、英語もものすごく得意というわけではありません。日本語だとなおさらです。でも同時に、ワクワクもありましたね。鹿島には新しい製造ラインがあると聞いていたので、それをどうつくり上げてきたのか、この目で見てみたかったんです。
言葉より先に、ともに汗をかいた。「ものづくりの大変さは、万国共通」

──イさんが鹿島に来られたのが2025年8月、宇野さんが蔚山へ発たれたのが9月。最初の1か月は、お二人が同じ現場で過ごせるように、あえて重ねられていたと聞きました。製造現場の社員が海外の拠点で長期研修を行う機会は、まだ多くないそうですね。言葉の壁は、どうやって越えたのでしょうか。
イ:私は、マネジャーだけでなく現場の皆さんと近づきたくて、何度も現場に足を運びました。とはいえ蔚山でもそうですが、現場の技術者が必ずしも英語を話せるわけではありません。だから最初は、絵や図、身ぶり手ぶりも交えながら、翻訳機も使ってコミュニケーションしていました。
日本のスタッフと距離が縮まったと感じたのは、真夏のある日の現場作業です。想定外の事象が起きて、設備の部品交換が必要になったんですが、対応できる業者がすぐに見つからず、社内も人手不足で。結局、現場の方々と自分たちでその作業をやり切ったんです。かなりきつかったんですけど、あの瞬間、お互いに親しみを感じたように思います。
作業のあとは一緒に夕飯を食べて、お酒を飲んで。そこで初めて、蔚山ではどんな仕事をしているのか、みたいな話になったんですよね。あの日が、いろんな壁を取り払うきっかけになった気がします。
宇野:製品をつくる大変さって、万国共通ですもんね。ものづくりをするうえで、機械の不調や、急なトラブルへの対処は避けられませんし。
イ:顔料をつくる基本のプロセスは同じですしね。だから、語学力だけがすべてではなくて、現場に入り、同じものづくりに向き合えば、互いに理解できることも多いんです。
宇野:国籍ではなく、職能のほうが共通言語だった、ということですね。
イ:それから、日本の皆さんと「ノミカイ」には何度も行きました。オフィシャルなものだけで4、5回、それ以外も含めると回数は覚えていません(笑)。自分から食事に誘うことも多かったですね。もっと親しくなりたかったので。そうやって仕事以外の時間も一緒に過ごすなかで、日本の皆さんのあたたかいもてなしを、何度も感じましたね。

▲懇親会の様子
「業務」だけでは築けない信頼がある。蔚山で目の当たりにした、同世代の向上心
宇野:私の場合も、一緒に食事をとることが、関係を深めるきっかけになりましたね。 社員食堂1つとっても日本とまったく異なるスタイルなので、食べ方を教えてもらったり。そういう些細なやり取りの積み重ねが、少しずつ距離を縮めてくれた気がします。

▲蔚山工場の社員食堂。料理を自分で選んで盛り付けるスタイルで、最初は取り方から教えてもらったそう
そこから何気ない世間話をしたり、プライベートでお茶したり、遊びに行ったり。「業務」だけでは築けない信頼関係って、やっぱりあるんだなと実感しました。
イ:仕事以外の交流から得た学びもありましたか?
宇野:教育プログラムの担当ではなかった、私と年齢の近いスタッフです。お互いのデスクが近く、何気ない会話を交わすうちに親しくなりました。仕事について話すなかで、その方の真剣な姿勢に触れ、私も大きな刺激を受けました。異なる環境で働く同世代の仕事に対する向上心を間近で見られたのも大きかったです。
イ:それは、「業務」からだけでは得られない大きな刺激ですね。
宇野:あとやはり、蔚山工場の方々は、グローバルな環境でのプロ意識が本当に強いと感じました。それは語学力への意識に加えて、組織全体で「蔚山の代表はあなた」という意識を育てているんですよね。
誰もがグローバルな会議に出席して、「アジア全体で、蔚山の担当者としてどうすべきか」を考えて動いている。だから意思決定も早いんです。何かを決めるときは、基本的にその場にいる人で方向性を決める。「誰々がいないからあとで決める」ということがほぼなくて、持ち帰りの少なさが印象的でした。
この経験は、帰任してからの私自身の仕事のスタンスにも影響しています。何か聞かれたら自分の言葉で答える、なるべくその場で判断する。そうした姿勢の一つひとつが、拠点を越えた「真の協働」につながっていくのだと思います。
相手の顔がわかると、仕事が変わる。最優秀賞が評価した「協働」

──帰任後、ほかに何か変化はありましたか。
宇野:鹿島工場で、いちばん蔚山工場のことがわかるのが私になったので、何かあるとまず声をかけてもらえるようになりました。以前は海外拠点への問い合わせって、少し身構えるところがあったと思うんですが、いまは「とりあえず宇野に聞いてみよう」というくらい、心理的なハードルが下がった気がします。頼ってもらえるのは、素直にうれしいですし、自信にもなっていますね。
また、鹿島では改善活動を英語で説明して、質問も英語で受けるようになったんです。交流の成果を少しずつ実感しています。蔚山ではどうですか?
イ:鹿島工場は技術力も素晴らしいし、工程自体は同じでも、自動化・生産技術の知見を結集した設備を入れている。そうしたシステムの運用方法を実際に見られたのは大きかったです。品質保全のための組織構造や運用方法も、本当によく組み立てられていて、学ぶべき点がとても多かったですね。
そこで、今回の交流で得た学びを若い世代にも広げたいと考え、3か月に1回、若手メンバーを中心とした発表会を行うことを提案しました。私以外の鹿島を訪れた蔚山工場のメンバーも、そうした学びを取り入れたいと考えています。
宇野:実際、この交流をきっかけに、両工場のあいだで技術や営業に関するやり取りも増えていますね。
イ:現場主体のグローバルなコミュニケーションが生まれ、鹿島と蔚山それぞれのやり方を共有できたことで、どちらの方法がうまくいくのかを見極められるようになりました。
──そしてこの取り組みは、2026年2月、The DIC Wayの5つの行動指針に基づく優れた行動を表彰する「The DIC Way 行動指針アワード」*において、「協働」最優秀賞を受賞しました。
宇野:顔料の事業は、もともとSun Chemicalと共同で進めるものが多いんです。ただ、これまで製造現場が起点になった交流はありませんでした。今回、現場の人間が中心になって協働が始まったことが、評価されたポイントだと感じています。
イ:世界中のDICグループから応募が集まるなかでの受賞ということもあり、とても誇らしいですね。
「一緒に働きたい」と思える人間でいること。国や組織を超えて広がる「真の協働」

▲鹿島工場で一緒に働いた仲間たちと
──最後に、半年間の交流を終えて、率直な感想を聞かせてください。
イ:自分のキャリアにとって、とてもいい機会でした。15年間ずっと蔚山にいた私が、新しいプロセスや設備に触れ、視野が広がりました。ただ、いちばんの成果は、設備でも知識でもなく、鹿島と蔚山のあいだに友情が生まれたことだと思います。
宇野:言葉も文化も、会社の成り立ちも違うのに、共通して感じる「DICらしさ」ってありますよね。私が思うのは、鹿島も蔚山もみんな勤勉で、有言実行、誠実なところ。パートナーとして一緒に働きたいと思える、頼れる方々ばかりです。
イ:私も同じ印象です。「The DIC Way」の行動指針にも「誠実」がありますが、まさにそれを感じました。とてもオープンで、どんな情報も隠さず共有してくれる。私はBASF時代から蔚山工場で働き、その後、同工場がDICグループのSun Chemicalの一員となる変化も経験してきました。それでも、安全、品質、お客さまの満足という、大事にすることは変わっていない。だから鹿島に来たときも、戸惑いが少なかったんだと思います。
宇野:社名が変わっても、根っこにあるものは受け継がれていたんですね。イさんは、今回の経験を通じて、国や組織を超えて協働していくために、何がいちばん大切だと思われましたか?
イ:宇野さんがおっしゃったように、「一緒に働きたい」と思える人間でいることじゃないでしょうか。お互いを理解して、情報を共有し合う。そこから生まれる協働で、もっといいものをつくっていく。今回のプログラムも、その一つのかたちです。
以前、東京にある本社に滞在したとき、製品戦略や生産戦略の方々と話す機会がありました。そこで感じたのは、私たちの顔料事業は、日本でも、韓国でも、ヨーロッパでも、お客さまへ安定して供給できるグローバルな体制にこそ大きな強みがあるということ。鹿島と蔚山の交流も、その価値を支える取り組みの一つだと思っています。
だからこそ、この気づきを自分だけのものにせず、チームでいい取り組みを共有し合う会を定期的に開きたいと思っています。そこでお互いの仕事のやり方を知り、若い人や新しい同僚にもこの経験を広げていく。そうすれば、グループ全体のつながりがより強固になっていくはずです。
宇野:私は今回築いた関係を、単なる人材交流で終わらせたくないと思っています。鹿島と蔚山には、それぞれ異なる設備や技術、仕事の進め方があります。それらをもっと積極的に共有し、品質向上や生産性の改善、コスト競争力の強化など、具体的な成果につなげていきたいですね。顔料の製造という枠組みだけでなく、技術や生産、営業などにも協働の輪を広げることで、DICとSun Chemicalがより一体となって新しい価値を生み出せると思っています。
イ:私も、今回の交流はゴールではなく、スタートだと思っています。半年前はお互いの顔も名前も知らなかったのに、いまでは何かあればすぐに相談できる関係になりました。このつながりを活かして、お互いの優れた技術や改善事例を共有し、それぞれの工場だけでは解決できなかった課題にも一緒に取り組んでいきたいです。「一緒に働きたい」と思える人が国や拠点を越えて増え、そのつながりから具体的な改善や新しいビジネス価値が生まれていく。そこまで実現して初めて、DICとSun Chemicalを含めたグループ全体の「真の協働」になるのではないかと思います。
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