特 集 食品紙器 内面用 耐水・耐油性
コーティング剤(水性ニス)ハイドレクト
13 気候変動に具体的な対策を 14 海の豊かさを守ろう

食品紙器のリサイクル性を高めごみ発生量を減らして環境保全に貢献

DICの価値創造 包装材料を通じて、社会やくらしに「安全・安心」を提供

ハンバーガーの包み紙、ピザやドーナツなどの持ち帰り用パッケージなど、食品包装の紙器の内側には、油や水が浸み出して汚れないよう薄いプラスチックフィルム(ポリエチレン)が貼り合わせてあります。しかし、これらを使用後に薬品で溶かしてリサイクルする際にポリエチレンが溶けないため、沈殿させて取り除く必要があり、古紙リサイクル適性※でBランクに分類され、限られた用途にしか利用できません。
一方、使用済み製品の不適切な廃棄などで陸から河川を通じて海洋に流出するプラスチックごみは、世界人口の増加に伴って急増し、特に波や紫外線によって細かい破片となる“ マイクロプラスチック”は、海洋生物の食物連鎖を通じて人や生態系に悪影響を与える懸念が指摘されています。そのため、2015年に採択された国連「持続可能な開発目標(SDGs)」のターゲットとして「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」という目標が掲げられ、サミット(主要国首脳会議)でも取り組み強化が合意されるなど世界的な重要テーマとなっています。
DICでは、こうした動向を化学業界における喫緊の課題と位置づけ、容器包装・材料のリサイクル性を高めることで使用済み容器のごみ発生量を削減し、海洋プラスチック問題に貢献できる製品開発に着手しました。その第一弾として、紙に塗工することで耐水・耐油・耐熱性を発揮し、高いリサイクル性を備えたコーティング剤(水性ニス)「ハイドレクト」を2018年10月に発表しました。また、2019年2月に公表した中期経営計画「DIC111」(2019~21年)でも、地球環境のサステナビリティに貢献するパッケージソリューションの提供を打ち出しています。

  • 日本印刷産業連合会が規定する「リサイクル対応型印刷物製作ガイドライン」によるランク。
出典:プラスチックを取り巻く国内外の状況 環境省 資料集より

出典:プラスチックを取り巻く国内外の状況 環境省 資料集より

DICならでは 耐水・耐油・耐熱性とともにリサイクル性が高く、FDA基準に準拠した水性ニス「ハイドレクト」を開発

製品開発のきっかけは、2017年にグループ会社であるDICグラフィックス社のお客様から寄せられたご要望でした。「2020年の東京オリンピックを目前にして、使用済みプラスチック製品の不適切な廃棄がクローズアップされている。ついては食品紙器にラミネートされているプラスチックフィルムを環境負荷の少ないコーティング剤に代替できないか?」。それは持続可能な包装材を望む世界の潮流を象徴する問いかけでもありました。
DICの開発部門が課題解決の方法を調べてみると、グループ会社のサンケミカル社が開発したコーティング剤が耐水・耐油性に優れ、フレキソ印刷・グラビア印刷のどちらにも対応でき、再生紙にリサイクルする工程でも適合できる可能性があることが分かりました。ただ、この製品には難点がありました。サンケミカル社のコーティング剤には、日本の化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)に抵触する物質が含まれていたため、これに代わる物質を見つけ出し、成分の配合を再調整する必要があったのです。こうして幾種類もの候補物質を選び出し、配合・試作・性能検証のトライ&エラーを繰り返し、2018年秋、製品化にこぎつけました。
このコーティング剤を塗工した紙器は、画期的な性能を発揮しました。耐水・耐油性だけでなく、耐熱性も備えているためオーブンや電子レンジでの使用も可能で、従来型の水性ニスより優れた耐油・耐熱性を発揮します。配合成分は食品衛生法およびFDA(米国食品医薬品局)基準に準拠し、コーティングの工程でVOC(揮発性有機化合物)が発生する心配もありません。そして、何よりも使用済み紙器をリサイクルする際、水酸化ナトリウム液で紙とともに溶解するため、紙にも板紙にも再生できるAランクの古紙材料となるのです。

「ハイドレクト」でコーティングしたパッケージ「ハイドレクト」のリサイクル性
ラミネート加工からハイドレクと塗工への切り替えでリサイクル適性はAランクへ

新たに誕生した紙器内面コーティング剤は「ハイドレクト」と命名し、同年10月に開催された東京国際包装展(TOKYO PACK 2018)に出品しました。DICブースでは、試作パッケージにドーナツや餃子を入れてプレゼンテーションを行い、電子レンジで加熱して性能を実演すると、多くの来場者がパッケージを手に取り、スタッフは矢継ぎ早の質問への回答に追われました。そして、パッケージ関連の事業者はもとより製紙メーカーやコンビニエンスストアと取引のある商社などからも引き合いがあり、使用済みプラスチック問題への関心の高さと「ハイドレクト」の潜在需要の大きさを実感する結果となりました。
現在、紙器に関連する多種多様なメーカーや加工事業者が「ハイドレクト」の採用を検討しています。

東京国際包装展(TOKYO PACK 2018)

KEY PERSON of DIC

今後もポリエチレンを代替できる領域を拡大していきます

分散第一技術本部 分散技術3グループ マネジャー 菊池 浩

「ハイドレクト」を発表以来、私たちが想定していなかった用途での打診が多いことに驚いています。この製品の最大の利点は「ポリエチレンの代替」にありますが、容器の形状によって対応できない場合もあり、継続的に改良を進めています。それだけに対応力の向上を図るほど用途は拡大し、紙器だけでなく幅広い材料のコーティング剤として活用できる可能性を秘めています。
2018年4月、DIC東京工場内に、お客様とともに新たなパッケージを創るための場「DICパッケージソリューションセンター」が開設されました。運用にあたるDICグラフィックス社とも密に連携し、センターを訪れるお客様の声をヒントに「ハイドレクト」をはじめ次世代の包装材料の開発にチャレンジしていきます。

分散第一技術本部 分散技術3グループ マネジャー 菊池 浩

「ハイドレクト」はDICのグループ力を象徴する製品です

DICグラフィックス株式会社 東京リキッドカラー 第一営業グループ 営業五課 課長 内藤 淳

紙とポリエチレンのラミネート加工を水性ニス塗工に置き替えるという製品開発を短期間で成し遂げた要因には、サンケミカル社の技術協力が大きかったと思います。サンケミカル社は欧米を中心とする市場で多彩なパッケージソリューションを提供し、DICは日本、中国、アジア・パシフィック地域を中心に同様の事業を展開しています。今回のような製品開発のコラボレーションや販売協力の事例を積み重ねることで、グローバルに事業を展開するお客様に、課題解決への豊富な選択肢を提供できると考えます。今後も「ハイドレクト」のようにDICならではのグループ力を発揮できるチャンスがますます増えてくるものとワクワクしています。

DICグラフィックス株式会社 東京リキッドカラー 第一営業グループ 営業五課 課長 内藤 淳

2020年の東京オリンピックを機に新たな需要を掘り起こしたい

DICグラフィックス株式会社 インキ機材営業本部 第三営業グループ 営業二課 主任 山崎 隆史

「ハイドレクト」発表以降の反響を目のあたりにして“、サステナブルな包装材料”に対するお客様の期待の大きさを実感しています。その背景にあるのは、世界中の人々が訪れる2020年の東京オリンピックです。そこでは多種多様なパッケージや包装材料が提供され、自社製品がいかにサステナブルかをアピールする絶好の機会となります。もちろんDICも例外ではありません。「ハイドレクト」は中期経営計画「DIC111」に掲げられた「地球環境のサステナビリティに貢献する、パッケージソリューションを提供する」という命題を具現化した新製品です。それだけに時流のど真ん中を走る包装材料として、新たな需要を掘り起こし、紙器の世界にブランドを浸透させたいと考えています。

DICグラフィックス株式会社 インキ機材営業本部 第三営業グループ 営業二課 主任 山崎 隆史

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グラビア並みの高精細印刷に対応し、VOCとCO₂を大幅削減

3 すべての人に健康と福祉を 12 つくる責任 つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を
食品紙器 内面用 耐水・耐油性コーティング剤(水性ニス)ハイドレクト

食品紙器 内面用 耐水・耐油性コーティング剤(水性ニス)ハイドレクト

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