お客様とDIC ~新しい価値の創造 8 働きがいも経済成長も 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 11 住み続けられるまちづくりを

主な取り組みの目標と実績

2022年の目標

新たな事業の柱の創出

2022年度 目標 社会課題、社会変革と当社のコンピタンスとの交点を重点領域と定め、社会課題解決に貢献する次世代事業の構築に取り組む
2022年度 実績 重点領域である次世代二次電池材料や機能性無機フィラーでは量産化と製品上市に向けた取り組みを加速し、ヘルスケア領域ではサクラン®の量産技術を確立し、化粧品事業立ち上げに取り組んだ
評価 ★★★
2023年度 目標 社会課題、社会変革と当社のコンピタンスとの交点を重点領域と定め、社会的利益と経済的利益を両立可能な次世代事業の構築に取り組む
2022年度 目標 オープンイノベーション(CVC、アカデミア、企業連携等)の活用や戦略投資を実施することで、技術プラットフォームを拡充し、新事業・新製品の創出につなげる
2022年度 実績 米国のバイオスタートアップBYAS社への戦略投資や、産業総合研究所の産学連携冠ラボを活用することで、既存アセットで不足する組織能力を強化し、新事業創出を推進した
評価 ★★★
2023年度 目標 グリーン、デジタル、QOLの領域にて、オープンイノベーションの活用や戦略投資を実施することで、新製品・サービスの早期開発へつなげる
  • 「評価」は、進捗度に関する自己評価によるものです。
    [ 評価マークについて ] ★★★…非常に良好 ★★…順調 ★…要努力

新しい価値の創造

DICグループは、新『経営ビジョン』で、人々の暮らしや地球環境を含めた私たちの未来をより良いものにすることを宣言しており、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、株主利益を包摂する社会的利益の追求を基本方針とし、社会とDICグループ双方の持続的発展を追い求めることが使命であると考えています。
この使命を具現化すべく、「DIC Vision 2030」では、貢献する社会を、“グリーン”、“デジタル”、“Quality of Life (QOL)”として、企業価値を向上すべく、2030年にサステナブル製品の売上高比率60%を目標に、成長市場における事業拡大と新事業創出により、事業ポートフォリオの構築を推進してゆきます。

事業ポートフォリオの変革

コロナ禍によるデジタル化の加速や消費者行動の変化、2050年のカーボンネットゼロに向けた世界的な企業行動の変容など、大きなパラダイムシフトが起こっています。DICは、これまで培ってきた強みと、社会課題・社会要請とが重なり合う、サステナブルエネルギー領域、ヘルスケア領域、スマートリビング領域、カラーサイエンス領域、サステナブルパッケージ領域の5領域を設定しています。
新事業統括本部は、次世代・成長事業の領域における事業化を担当し、R&D統括本部は、新規事業の創出で不可欠である無機材料設計、バイオ材料設計の基盤技術の確立を担い、両統括本部がシームレスな連携体制をとって新事業の早期樹立を推進し、ポートフォリオ変革を先導してゆきます。
次世代・成長事業の領域は競争領域で変化の速い分野です。このような領域での事業化に際しては、社内連携も強化し自社の強みを徹底的に活用するとともに、CVCや各種業界でのネットワークをハブにして、スタートアップ、アカデミアの活用、企業連携など外部リソースを有効に活用することで、イノベーションの連続を実現してゆきます。

01赤色天然由来色素の新合成法に関する共同研究開発の進展

食品や化粧品などの分野では、石油由来の合成色素から安全な天然由来の色素への代替ニーズが急増しています。しかし植物などの天然物に含まれる色素成分は含有率が少なく抽出後に大量の廃棄物がでることや、栽培に多くの土地や水を必要とすることといった環境面での課題があります。当社は米国Debut Biotechnology社(以下「Debut社」)と、天然由来色素の新合成法に関する共同研究開発を実施しています。Debut社は、卓越した酵素探索・デザイン技術と、その酵素を用いたバイオ製造プラットフォーム(精密発酵、セルフリー合成)を有しております。本共同研究開発は、植物原料を出発物質とし、高純度、無臭といった特徴を持ち、環境面・品質面・供給面での課題を解消した天然由来色素の早期製品化を目的としております。公知の方法と比べ1,000倍高い生産効率を達成した共同研究開発の第一フェーズに続き、2022年7月より開始した第二フェーズでは色素製造プロセス全体の開発・スケールアップを目指します。

当社は色材を通じて、社会や暮らしに「彩り」を提供することをビジョンとして掲げています。今回、Debut社との共同研究開発の進展により、地球環境にやさしく、より安全な製品を社会に提供することで、ブランドスローガン“Color & Comfort” につながる世界の実現を目指します。

赤色天然由来色素の新合成法に関する共同研究開発の進展

02感性に基づいた製品・サービスの社会実装拠点「DIC五感と感性の研究所」を新設

経済が進展した現代社会において、人々の意識は、これまでの物質的な豊かさから、心の豊かさを重視する方向に変化しています。当社は株式会社リバネスとの共同運営のもと、ヒトの感性を理論的に数値化し、感性に基づいた製品・サービスの社会実装とビジネス創出を目指す「DIC五感と感性の研究所」を立ち上げました。本研究所では、刺激を感知するための感覚機能である「五感」と、習慣や経験、環境要因などのバックグラウンドに裏打ちされる「感性」について科学的に解き明かし、理論的に数値化することで、製品やサービス開発に活用できる「感性テクノロジープラットフォーム」を構築することを目指します。また、具体的な開発テーマの一つとして、電気通信大学発ベンチャーである感性AI株式会社と共同で、素材の触感や質感がもたらす感性価値を数値化して客観的に提示する定量化技術を用いた、新素材開発システムの構築を目指します。
当社は1968年に日本で初めて印刷の指標となる色見本帳「DICカラーガイド」を完成し、主観や感覚と強く連動する「色」に対して共通の基準を作り、イメージを共有するための数値化を実現しました。これからも、未来の社会の”彩りと快適”を体現する「感性材料」に着目し、感性ニーズを発現させる素材の研究開発と事業開発を継続的に進めていくことで、人と地球の調和のとれたサステナブルな社会の実現に貢献します。

03藍藻類スイゼンジノリの屋内での大量培養技術の確立に成功

二酸化炭素を吸収して光合成により有用物を産生することができる藍藻類の活用は、サステナブルな観点だけでなく、健康、医療、食品など多くの産業分野においてますます注目が高まっています。江戸時代から高級食材として知られる日本固有の淡水藍藻類であるスイゼンジノリは、超高分子量多糖体「サクラン®」を分泌する特徴を有しており、サクラン®は高い保湿性に加え、バリア性、抗炎症効果にも優ることから、化粧品用途で広く利用されています。一方、環境変化の影響により、天然に自生するスイゼンジノリは減少し、現在では、福岡県黄金川でのみ生息する希少な生物となっています。
当社とグリーンサイエンス・マテリアル株式会社(以下「GSM社」)は、2021年3月より資本業務提携を開始し、40年以上続く食用藍藻類スピルリナ事業で培った当社の藻類培養技術とGSM社でのスイゼンジノリ培養の基礎研究成果を融合することで、世界で初めて、スイゼンジノリの屋内での大量培養技術の確立に成功しました。量産が可能となり供給不安が払拭されたことから熊本発のスキンケア素材としてグローバルに展開していきます。また、スイゼンジノリやサクラン®の機能性探索を進めていき、メディカル、サプリメント、パーソナルケア、衣料品など様々な分野へ用途拡大を目指します。
当社は藻類から得られる機能性素材サクラン®を活用することで、ヘルスケア領域におけるビジネス拡大を推進し、長期経営計画「DIC Vision 2030」で掲げた”Quality of Life(QOL)社会”の実現を目指していきます。

※サクラン®は、グリーンサイエンス・マテリアル社の登録商標です。

TOPIC

肌と気持ちに寄り添う“感性スキンケア”ブランド『fillwith(フィルウィズ)』が新登場!

当社は、新しくスキンケアブランド 『fillwith』 を立ち上げました。『fillwith』は、「“心地よさ”の本質を追求する“感性スキンケア”ブランド」です。肌をうるおすと同時に、見て、触れて、香りを感じる。肌が包み込まれる心地よさとともに、あらゆる感覚に響くことで、感性が研ぎ澄まされる。『fillwith』が肌と気持ちに寄り添い、満たされるスキンケアのひとときを彩ります。自然の移ろいや時の流れとともに、抗わず変化を楽しむあなたに寄り添うスキンケアブランドです。
『fillwith』の主要成分には、植物や藻類の生命力と恵みを活かし、香りを含めアイテムごとにこだわりの自然由来成分を配合しました。中でも、「スイゼンジノリ細胞外多糖体」は、ヒアルロン酸の約10倍の保湿力を持つ天然由来の保湿成分で、新ブランドを象徴する成分です。2023年2月より公式オンラインショップにて発売を開始しております。
発売中の4アイテムには各々のカラーストーリーが込められ、スキンケア機能とともにそのデザイン性はお客様に親しまれています。

※: 北陸先端科学技術大学院大学 改良ティーバック法による試験

fillwith(フィルウィズ)

肌と気持ちに寄り添う“感性スキンケア”ブランド『fillwith(フィルウィズ)』

公式ブランドサイト

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バイオベンチャーへの出資・協業を起点とした新事業の創出

DICグループでは2016年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、破壊的イノベーションを含むユニークな技術力・ビジネスモデルを有し、社会やDICグループに貢献するスタートアップを世界各地から見出し、協業や出資を行っています。中でもサステナブルなビジネスの潮流の中で成長するバイオ分野のスタートアップに注目しています。2018年に出資した米国バイオベンチャー、チェッカースポット社をはじめ、2021年にはイスラエルのバクサ・テクノロジーズ社(以下「Vaxa社」)への出資を行いました。Vaxa社は、LEDを用いた独自のフォトバイオリアクター設備と藻類培養技術を有し、他社にないクリーンで付加価値の高い藻類製品を開発、商用化しています。さらに米国デビュー・バイオテクノロジー社(以下「Debut社」)と天然由来色素の新合成法に関する共同研究開発を開始しました。Debut 社は酵素反応に対し高い知見およびプロセスデザイン力を有しており、当社のカラーマテリアル分野の技術基盤と組み合わせることで、従来にないサステナブルで高付加価値な天然由来色素の開発・製品化が期待されます。当社はCVCなどのオープンイノベーションを積極的に活用することで、ともにサステナブルな社会を目指すパートナーシップを構築し、社会課題を解決する新事業創出を推進していきます。

TOPIC

サステナビリティを軸にスタートアップとともに作る未来

DICグループでは2016年にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、破壊的イノベーションを含むユニークな技術力・ビジネスモデルを有し、社会やDICグループに貢献するスタートアップを世界各地から見出し、協業支援や出資を行っています。中でもサステナブルなビジネスの潮流の中で成長するスタートアップに注目しています。例えば、 2018年に出資した米国バイオベンチャー、チェッカースポット社は、微細藻類より材料を作り、これまでの石油由来材料を代替し、より持続可能な高性能製品の材料を生み出す技術を保有する会社です。同社のビジネスモデルは、製品が作られて廃棄されるまでを考慮して製品設計し、ソーシャルメディア活用で消費者のエコロジー、環境、サステナビリティへの共感反応を追跡する革新的なものです。当社はCVCなどのオープンイノベーションを積極的に活用することで、DICとともにサステナブルな社会を目指すパートナーシップを構築し、社会課題を解決する新事業創出 “New Pillar Creation”を推進していきます。

藻類ポリオールを使用したスキー板

藻類ポリオールを使用したスキー板

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体外式膜型人工肺(ECMO)に用いられる中空糸膜の提供

DICは、新型コロナウイルス感染者のうち重症者の治療に用いられる体外式膜型人工肺(以下、「ECMO」)において、血液に酸素を供給する役割を担う中空糸膜を生産し供給しています。
人工肺は静脈血を灌流させ酸素を添加することで、血液を酸素化して体に戻すという本来生体内での肺の役割を担っています。中空糸膜は、中空糸を束ねたもので中空糸の外側に血液を流し、内側に酸素を流すことによって血液を酸素化します。当社の中空糸膜は、血栓塞栓症などを引き起こすリスクを効果的に抑制できる特殊なポリオレフィン樹脂を素材としており、1990年に人工肺用のガス分離膜として採用され て以来30年にわたり高い信頼性を得ています。
世界的に新型コロナウイルスによる重症呼吸不全の患者が増大している状況を鑑み、当社は医療現場に欠かせない医療機器の安定供給に貢献していきます。

  • 体外式膜型人工肺(ECMO)とは、ExtraCorporeal Membrane Oxygenationの略で、重症呼吸不全の患者に対して、ポンプと人工肺を組み込んだ体外循環装置を用いて、呼吸や循環の補助を行う方法。
ECMO に用いられる中空糸膜

ECMO に用いられる中空糸膜

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DICの製品、知見をタイの交通安全に

WHO(世界保健機関)の統計(2015年)によると、タイの10万人当たりの交通事故死者数は36.2人で世界第2位、日本の約8倍にもおよびます。日本では、道路の安全対策の一つとして、ドライバーの視認性を高めるカラー舗装が多く用いられ、交通事故低減に効果を発揮しています。タイでも空港周辺や観光地周辺はカラー舗装が見られるようになりましたが、特に雨天時には対スリップ性が十分でないとの報告があります。そこでサイアムケミカル社(タイ)は、日系フォーミュレーターと共同で、カラー舗装の中でも日本で実績のある2つの機能を両立した「遮熱滑り止め舗装」を検証し、タイ政府機関への紹介を開始しました。2つの機能とは、1.スリップ抑制効果がある滑り止め機能、2.ヒートアイランド対策や道路の耐久性向上が期待できる遮熱機能です。
サイアムケミカル社(タイ)は、日本で培った技術をタイに展開する事により、タイにおける交通事故低減、さらにはヒートアイランド対策に貢献していきます。

遮熱滑り止め舗装

遮熱滑り止め舗装

サイアムケミカル社(タイ) 橋上施工部(空撮)

サイアムケミカル社(タイ) 橋上施工部(空撮)

遮熱滑り止め舗装の構成図

お客様とのつながり

DICグループは、長期経営計画“DIC Vision 2030”の基本方針に沿った取り組みと活動についてご理解いただくことを第一に、お客様とのコミュニケーションを重視・強化しています。主なコミュニケーションの場として、展示会やイベント、取引先向けの後援、ワークショップ、ウェブサイトやソーシャルメデイアなどの運営を行っています。

展示会

2022年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の流行下にある状況を踏まえ、一部の展示会、説明会などでオンライン化、ハイブリッド化を進めました。

国内

  • 国際的な展示会である東京国際包装展TOKYO PACK2022(10月)の開催に合わせ、DICグループオンライン展示会を実施し、リアルとネットの融合展を開催
  • 海洋プラスチック問題の解決、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を目的に開催されたサステナブルマテリアル展(4月、12月)では本展示会の出展に合わせ、当社ウェブサイトで特設ページを設置し、オンラインでも展示内容を公開
  • 次世代化学素材展ファインケミカルジャパン 2022(4月)では、省エネルギーや軽量化につながる新機能素材を出展し、国内外の化学メーカーに新事業の創出をアピール

海外

  • 欧州・米州地域の事業を統括する米国Sun Chemical社がフランス・パリで開催されたIn-Cosmetics 2022(3月)に化粧品用顔料を出展し、天然素材を用いたサステナブルなソリューションを披露
  • アジアにおいてはDIC Asia Pacific社とDIC South Asia社がインド最大級の塗料関連材料展示会PAINT INDIA2022(5月)に共同出展し、様々な用途に対応した高品質な塗料用樹脂製品を紹介

ウェブサイト

お客様との大事な接点であるウェブサイトに関しては、①グローバル、②中国、③アジアパシフィック地域のサイトの拡充を実施しました。世界中のお客様に、DICが配信すべき情報が適切に伝わるように改善を図りました。また、DICグループのメンバーであるSun Chemical社のウェブサイトとも、グローバルで販売する製品に関する情報リンクの強化、問い合わせ対応の連携を図り、グローバルでのお客様満足度の向上を図りました。
さらにウェブサイトへのお客様の誘導を目的に、Twitter、LinkedIn、Instagram 等のソーシャルメデイアも活用しました。

デジタルマーケティング

DICグループではデジタルマーケティングの活用を拡大しています。2022年度はウェブサイト上の製品情報拡充の他、サステナブルソリューション・要素技術・パッケージ領域など、多様な切り口での情報発信を図りました。また、私設オンラインサイトや外部メディアの活用など、発信手段の多様化も図り、国内外の顧客とのコミュニケーションが活発化しています。
2023年度は、引き続き顧客価値を基点としたデジタルコンテンツの拡充を図り、多様な手段での情報発信により顧客アプローチを強化していきます。併せて、デジタルツールの活用でDICグループ内営業連携の活性化を図ってまいります。

関連リンク