特 集
ケミカルリサイクルで食品容器を
持続可能な完全循環型再生へ
DICの価値創造 ポリスチレンの完全循環で、資源・エネルギー消費と廃棄物の抑制を
深刻化する廃プラスチック問題、資源循環の体制強化が喫緊の課題
ポリスチレンの食品容器は、①軽量で運びやすい ②加工や着色が容易 ③水分を通しにくく食品を効果的に保護できることから広く普及しています。使用済み容器は市町村が分別回収し、事業者が樹脂原料などにリサイクルしていますが、相当量が一般ごみとして廃棄され、焼却・埋立処分されています。
一方で、不法に投棄された廃プラスチックが川や海に流れ込み、生態系を含む海洋環境、船舶の航行、観光・漁業、沿岸に悪影響を及ぼしています。中でも5ミリ以下のマイクロプラスチックやより微細なナノプラスチックは、海洋生物はもとより食物連鎖によって人間に及ぼす健康影響も懸念されています。
また、各国が廃プラスチックの輸入規制を強化していることから、これを再生原料として輸出していた日本では、廃プラスチックの一部が行き場を失い、国内での資源循環の再整備が喫緊の課題となっています。
こうした課題を克服するには、プラスチック容器のワンウェイ(一方通行)の在り方を見直し、資源循環の新たな技術開発や仕組みづくりを進め、石油資源やエネルギー消費の抑制、廃棄物の排出削減を図らねばなりません。
2社が協働でポリスチレン食品容器の完全循環型モデルを構築
DICは日本で初めて多分岐ポリスチレン「ハイブランチ」の開発・量産化に成功し、現在ではポリスチレンの約8割を食品容器向けに生産販売しています。同時に、プラスチックの高度資源循環に向けて、産官学による廃プラスチックの材料再生プロセス開発に参画するとともに、ポリスチレン、フィルム、インキ、接着剤などがリサイクルに及ぼす影響を研究し、環境負荷の少ない製品開発に努めています。
一方、DICの主要納入先である食品容器メーカー最大手の(株)エフピコ(本社:広島県福山市)では、全国に9,600ヶ所の回収拠点と3ヶ所のリサイクル工場を整備し、使用済みの発泡ポリスチレン容器をマテリアルリサイクルによって再生利用する取り組みを推進しています。このうち「白色容器」は粉砕・溶融した上でエコトレーとして再生し(トレーtoトレー)、「色柄付き容器」はハンガーなど日用雑貨に再生しています。
こうした中で2020年11月、DICとエフピコはより高度な資源循環を目指し、両社の技術と回収・リサイクル体制を最大限に活用する新たなモデル構想を発表しました。この取り組みによって、食品容器に再生できなかった「色柄付き容器」もケミカルリサイクル技術で原料に還元し、ポリスチレン製品の完全循環を実現する計画です。
DICならでは モノマー還元によるケミカルリサイクルでポリスチレン完全循環へ
外部機関の技術を導入して2022年の実証プラント稼働へ
色柄付き容器には、ポリスチレンの他インキや接着剤が含まれています。そのため使用済み容器を丸ごと粉砕・溶融して製品を成形する「マテリアルリサイクル」では黒色ペレットとなり、物性も低下することから再生品の商品価値は著しく低下します。また、食品接触面への使用もできません。
しかし、ポリスチレンは少ないエネルギーで容易に熱分解でき、ポリスチレンの原料であるスチレンモノマーに戻る(還元)性質があるため「ケミカルリサイクル」に適しています。この還元工程によって得た原料で生産するポリスチレンは、石油原料で生産されるものと同等の性能・安全性を有し、用途が限定されず幅広い利用が可能です。
そこでDICは、外部機関のモノマー還元技術・設備を新たに導入し、ポリスチレン生産の主力工場である四日市工場(三重県)に実証プラントを建設して、2022年内に稼働を開始する計画です。そして、数千トンレベルで還元効率・エネルギー使用量・コストなどを評価しながら反応制御技術をレベルアップさせ、より収率性の高い技術の確立を目指します。
大きな可能性を秘めた「ケミカルリサイクル」へのチャレンジ
日本におけるプラスチックのリサイクル手法は、マテリアルリサイクルが主流で、化学反応を利用して再資源化するケミカルリサイクルによる実績はごくわずかです。しかし、世界が目指す高度な循環型社会を実現するには、マテリアルリサイクルだけでは限界があり、ケミカルリサイクルの進展・拡大が不可欠といわれています。
DICとエフピコグループが打ち出した「ポリスチレン完全循環型モデル」は、今後のケミカルリサイクルの可能性を社会に示す試金石と言えるでしょう。DICのプロジェクトチームは、ポリスチレンをスチレンに戻す「モノマー還元技術」を確立することで、バイオマスインキや接着剤など他素材への展開拡大も期待でき、早期の実用化に向けて果敢にチャレンジする決意です。
KEY PERSON of DIC
ビジネスパートナーとして共有する危機意識が取り組みの発端でした
当社とエフピコ様は、永年のお取引を通じて様々な課題を共有しています。今回のプロジェクトが発足したのも「資源循 環が大きな潮流となる中で、食品容器のワンウェイからの転換をさらに進めなければ、将来のビジネスが成り立たなくなる」 という強い危機意識があるからです。ポリスチレンの完全循環を実現するにはモノマー還元がカギを握るだけに、その完成 度いかんで化学メーカーとしての真価が問われます。それだけにより優れた要素技術の選定や組み合わせによって最適解 を導き出し、廃棄物やCO₂排出量の大幅削減に貢献する「ケミカルリサイクル」モデルを構築したいと考えています。
パッケージマテリアル製品本部 ポリスチレン営業グループ マネジャー 新谷 健介
整備された回収・リサイクルのインフラを最大限に活用して早期実用化を
現在、ポリスチレンのケミカルリサイクルは、数社の化学メーカーが取り組みを始めています。そうした中で、私たちが取り組む完全循環型モデルは、1990年にエフピコ様が構築した使用済み容器を回収してマテリアルリサイクルする「エフピコ方式」というインフラを最大限に活用するものです。いわば完成された資源循環システムにケミカルリサイクルを加え、さらなる高度化を図るものです。「色柄付き容器」をモノマー還元して効率的に資源回収するという命題は決して容易ではありませんが、DICの知見を総動員して早期に実用化し、プラスチックの環境問題の解決に貢献したいです。
パッケージマテリアル製品本部 ポリスチレン営業グループ マネジャー 水口 良
ステークホルダーの視点
COMMENT
温室効果ガス削減と経済性が両立するケミカルリサイクル技術の早期確立を
現在の「エフピコ方式リサイクル」は、市場回収した白い発泡PS容器を食品容器に再生する一方で、色柄付き発泡PS容器は食品容器以外の製品に再利用しています。この色柄付き発泡PS容器も食品容器に再活用したいとの強い思いがケミカルリサイクル研究の発端でした。
ケミカルリサイクル技術の課題は、温暖化効果ガス排出削減に貢献し、しかも経済合理性が実現される技術でなければ、サステナビリティがないという点です。その課題をクリアする最善かつ早急な技術の確立をDIC様に期待しています。
現在、食品容器にリサイクルされていないPS系素材の食品容器は、色柄付き発泡PS 容器以外にも市場に存在します。これらも視野に投入原料の幅を広げ、PSがリサイクルしやすく、環境に優しいプラスチックであることを消費者の方々に理解していただき、市場がさらに広がることを期待しています。
2021年度の特集
ケミカルリサイクルで食品容器を持続可能な完全循環型再生へ
化学メーカーの「DIC」と食品容器メーカーの「エフピコ」が協働してケミカルリサイクルによる「ポリスチレンの完全循環」に取り組みます。
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