化学対談#03 スピルリナ篇 DIC岡里帆研究室主任研究員 DIC岡 里帆 × DICライフテック マーケティング部マネジャー(管理栄養士)宮里 美保子

液体から気体を取り出す技術が、とても重要だって、ご存知でした?その分野で、世界的に広く認められているスグレモノが、DICのSEPAREL(セパレル)です。

DIC岡

みなさん、“脱気”ってご存知ですか!?  “脱気”は、液体から気体を取り出すこと。実は、私たちの暮らしに役立つモノをつくるために欠かせません。今日は、液体から酸素や二酸化炭素などの気体を取り出すことのできるDICの中空糸膜モジュール『SEPAREL(セパレル) 』について、研究開発担当の山本さんと、営業担当の平藤さんに、たっぷりお話しを伺っちゃいます。

山本さん

『SEPAREL』をご存知だなんて、さすが“化学大好き”DIC岡さん!

DIC岡

もちろん知っていますとも! 『SEPAREL』は、“脱気”上手として、DIC岡里帆研究室では有名ですよ。でも、そもそもどうして、液体から気体を取り出す必要があるのですか?

山本さん

はい。液体には普通、気体が溶け込んでいます。たとえば水道水をコップに注ぐと白っぽく見えるのは、気体がたくさん溶け込んでいるからです。でも、液体を何かの用途に使おうとするとき、溶存した気体がジャマをすることがあるので、取り出す=脱気する必要があります。

DIC岡

スマートフォンやパソコンなど電子機器の心臓部である半導体をつくるのにも、脱気が欠かせないと聞いたことがあります。

山本さん

そうです。半導体をつくるには、不純物がほとんど含まれていない“超純水”が必要。半導体は、ナノメートル(1ナノ=0.000001ミリ)レベルの、すごく細かな回路を加工してつくります。だから半導体をつくるときに使う水に、少しでも不純物があるとたいへん。たとえば酸素が残っていると、半導体がサビたりして不良品になってしまうんです。だから、不純物のない“超純水”でなければ。

DIC岡

純水を超えた超純水。カッコいいですね! “超”っていったいどれくらいなんですか?

山本さん

はい、通常は8000ppb程度含まれている溶存酸素(水に溶けて残っている酸素)を10ppb以下にすることが要求されます。ppbは10億分の1です。10億分の1というのは、たとえば、50mプール一杯分の水の中に、ひとつまみの塩や砂糖を入れるくらいの量ですね。

DIC岡

たったそれだけしか含まれていないなんて、本当に“超純水”なんですね!

山本さん

超純水といえば、「スーパーカミオカンデ」でも『SEPAREL』の脱気によって、超純水がつくられていますよ。

DIC岡

え!?「スーパーカミオカンデ」って、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章先生がノーベル物理学賞受賞の研究をした施設ですよね?

山本さん

はい。ニュートリノという、宇宙から飛んでくるとても小さな粒子を測定するための施設です。ニュートリノが水にぶつかったときに発生する光を捉えて観測するために、スーパーカミオカンデには、5万トンもの超純水の貯められたプールがあります。正確な測定をするために高レベルの超純水が求められるのですが、特にラドンという気体を脱気することが難しく、どうにかできないかと私たちDICにお声がけをいただいたのがキッカケでした。今では、超純水の製造装置の一部として、DICの脱気モジュールが使われています。

写真提供 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

DIC岡

すごい。『SEPAREL』ったら、そんな最先端の研究のお役にも立っているんですね。

山本さん

DIC岡さん、もっと身近なところでは、インクジェットプリンターのインクも脱気されているんですよ。インクジェットプリンターは、インクをすごく細いノズルから噴射して吹き付けることで、文字や写真をあんなに精細にプリントしています。ノズルの先は約1/100ミリ。インクの中に気体が含まれていると、そこからインクがうまく飛び出してこないので、キレイにプリントできないんです。

DIC岡

水だけではなく、インクからも脱気できるのですか!?

平藤さん

インクジェットプリンターの中に『SEPAREL』が入っていて、使うたびにインクの中から、不要な気体を脱気しています。

山本さん

水以外の液体からも脱気できるのが『SEPAREL』の長所。『SEPAREL』の中空糸膜は、DICが独自に開発したもので、他社のものとは構造が異なります。外側はスキン層に覆われていて、内側に穴が開いた多孔質層がある。その2層構造によって、液モレがしにくく、水以外の液体を流すことができ、耐久性も高いんです。

DIC岡

だから、インクからも脱気できるのですね! インクジェットプリンターの高精細化に貢献しているなんて、さすが『SEPAREL』、脱気上手!

山本さん

医療機器では、ECMO(エクモ)と呼ばれる人工肺にも、『SEPAREL』が使われています。ECMOは、患者さまの肺の代わりに、血液から二酸化炭素を取り出し、酸素を溶け込ませる役割を担っています。

DIC岡

血液から二酸化炭素を取り出す……。まさに脱気ですね。『SEPAREL』は医療でもお役に立っているんですね。

平藤さん

はい。今後は血液検査など生化学分析装置の分野でも、『SEPAREL』がお役に立てると考えています。

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DIC岡

山本さんは、今はどんな研究開発をしているのですか?

山本さん

半導体の世界は日進月歩ですので、当然、脱気モジュールにも進歩が求められています。私は今、次世代の半導体工場のための超純水づくりに参加しています。そこでは、さらにレベルの高い課題が山積み。たとえば、もっと効率的に半導体を洗浄するために、多くの超純水を短時間に供給する必要があります。そうした要望に応えるモジュールをつくろうと、がんばって研究開発を進めているところです。

DIC岡

課題が難しければ難しいほど燃える研究者魂を感じます! ステキですね!

平藤さん

私は『SEPAREL』を新しい用途に使うことに取り組んでいます。私のいる営業部には、毎日、新しい案件のお問い合わせをいただくんです。「こんな脱気をしたいんだけど、DICさんの中空糸膜でできるかな」とか。お問い合わせの半分は海外からなんですよ。

DIC岡

すごい。『SEPAREL』は、世界中でひっぱりだこなんですね。

平藤さん

『SEPAREL』には、まだまだ新しい用途があるのではないかと考えています。たとえば、ワインや日本酒を脱気して酸素を抜いておけば、酸化による劣化が防げるのではないか。そんな用途も検討中です。

山本さん

私の方では、ある用途のために、海水から脱気する大型プロジェクトの研究を進めています。

DIC岡

『SEPAREL』の可能性はホントにいろいろな分野に広がっているんですね。将来はきっと、誰も想像できないような用途に使われているのでしょうね。山本さんや平藤さんのお仕事は、難しそうだけれど、やりがいがありそうですね。『SEPAREL』の未来が楽しみです。今日はありがとうございました!

山本さん

私は、世界で通用するような研究開発をしたいと思ってDICに入社したので、今はまさにやりたいことができている状態。新しい用途に挑戦するのは、難しいことばかりですが、おもしろくてたまりません。

平藤さん

私も、もともと国際的な仕事がしたいと思ってDICに入ったので、『SEPAREL』を通じて世界と関われるのには、やりがいを感じています。今後は、技術的な英語を使える力もつけて、世界で『SEPAREL』の新しい用途を拓けるように、がんばります。

山本さんの、"次なる目標"は?

平藤さんの、"次なる目標"は?

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