防災用折りたたみヘルメットIZANO篇 DIC岡里帆研究室主任研究員 DIC岡 里帆 × 技術本部 第一技術部 技術二課 課長 山村浩之 / DICプラスチック株式会社 技術本部 第一技術部 部長 中村俊樹

イザという時のためのヘルメットは、イザという時だけ使うのではない。そんなコンセプトから生まれたヒット製品とは!?

DIC岡さん

みなさーん。DICは、実はヘルメットのメーカーでもあるんです。ご存じでしたか?初めてヘルメットを発売したのは1955年。それ以来、なんと65年以上もつくり続けている老舗なんですよ!
DICヘルメットの中でも、私が愛してやまないのが、こちらの折りたたみヘルメット「IZANO」です。今日は開発者の中村さんと山村さんにお話を伺えるということで、ワクワクしてやって来ました。

中村さん

DIC岡さんは、化学愛あふれる方だと聞いていましたが、ヘルメットにまで詳しいなんて驚きです。

DIC岡さん

DICが、化学のチカラで合成樹脂をつくり出し、その合成樹脂※からヘルメットをつくっているんですもの。“化学大好き”の私としては愛さずにはいられません。中でも「IZANO」は画期的で独創的、まさにDICらしいヘルメットですから、DIC岡研究室 主任研究員の私としては、愛おしくて。
※部品ごとの要求性能に合わせDICグループ内外から広く調達しています。

山村さん

DIC岡さんに「IZANO」を愛用していただいて、開発者としてうれしいです。

DIC岡さん

今でこそ、イザという時のヘルメットとして定番ともいえる「IZANO」ですが、DICとして初の折りたたみヘルメットだったと聞いています。そもそも、どうして開発することになったのですか?

中村さん

直接のきっかけは2011年の東日本大震災です。あの時から、防災用・備蓄用のヘルメットの需要が高まりました。私たちも、より備蓄・携帯しやすく、災害時に役立つヘルメットをつくろうと、折りたたみヘルメットを検討し始めたんです。

山村さん

すでに防災用・備蓄用の折りたたみヘルメットは世の中に存在していたので、私たちDICがつくる以上、新しい価値を提供できるものにしたい。そこで、既存の折りたたみヘルメットは本当に被災時のニーズに応えられているのか、どんな製品があれば本当に人々の役に立つのか、考えるところから始めました。

中村さん

それまで防災用・備蓄用のヘルメットは、“災害発生時の、その瞬間に役立てるもの”という認識があったと思うんです。もちろん、緊急時の避難用として役立つことも大切ですが、よく考えてみると、実際の災害とは、それ以降の長い復旧・復興期間も含むものなんです。被災者の方や応援に来た方が、避難先と現場を行き来したり、ガレキ撤去などの復旧作業をしたり、あるいは土木や建設に携わる方が来て復興作業をしたり……。

DIC岡さん

確かにそうですね。災害発生は1日でも、その後の復旧・復興には、何カ月も何年もかかることが多いですよね。

山村さん

そうした長い期間のさまざまな場面で、多くの人々が使いやすいヘルメットをつくりたい。そんな思いで開発を始めたのです。

中村さん

災害現場用に使用されるヘルメットには、「飛来落下物用」「墜落時保護用」という2つの国家検定があります。当時の既存の折りたたみ式ヘルメットは、災害発生時を想定した「飛来落下物用」だけに合格したものでした。でも私たちは、その後の復旧・復興作業を想定した「墜落時保護用」にも対応させ、2つの検定を両立したヘルメットにしよう、と。

写真(実験室での強度テストの様子)

実験室での強度テストの様子

DIC岡さん

“これまでにない折りたたみヘルメット”の開発は、そんなふうに始まったのですね。

中村さん

まったく新しいものをつくるためには、つくり方から新しくしなくては、と考え、社内でアイデアコンペをしたんです。ふだんは他のプラスチック製品をつくっている開発者にも参加してもらって、みんなでアイデアを出し合いました。そして出てきたのが、これらです。

写真(コンペ出品 手作り試作品)

コンペ出品 手作り試作品

DIC岡さん

うわあ。いろいろなカタチ!しかもこれ、アイデアスケッチだけではなく、試作品をつくったのですか。

山村さん

私たちの手作りですから、ゆがんでいるものもありますが(笑)。実際にカタチにしてみることで、初めてわかることが多いんです。

中村さん

このN-1が、「IZANO」の原型になった私の案です。ヘルメットを輪切りにして折りたためばいいのではないかと考えたんですね。実物のヘルメットを自分で切ってつなげて見本をつくりました。でも、これを平行に折りたたんだり伸ばしたりするには、複雑な機構が必要になりそうだと困っていたら、他のメンバーから「前部を固定にして、後部を折りたためるようにすればいいのでは?」とアイデアが出て「それだ!」と。

写真(N-1試作2の折りたたみ)

N-1試作2の折りたたみ

山村さん

みんながアイデアを出し合って、どんどんカタチができていったんです。参加していて楽しかったですね。

DIC岡さん

そして、現在の「IZANO」の“カチ・カチ・カチ”と3段で折りたたんだり伸ばしたりするしくみができあがったのですね。感動です!
そして、私が好きなのが、このカタチや色。防災用ヘルメットというと、ちょっと無骨なイメージがありますけど、これはシュッとしたスマートなカタチだし、色も鮮やかでキレイですよね。

中村さん

長い期間にわたって、さまざまな場面で使っていただくことを想定したんです。そうなると、やっぱりカッコいいほうがいいじゃないですか。カバンや引き出しへの出し入れのしやすさも考えて、ほぼA4サイズに収まるようにデザインしました。

中村さん

色は、被災地で少しでも明るい気分になってもらおうとビタミンカラーに。もちろん現場での識別のしやすさも考慮しました。

DIC岡さん

そして、初代の「IZANO」は2013年に発売され、2014年にはグッドデザイン賞を受賞したんですね。あらためて、おめでとうございました!

中村さん

ありがとうございます。これまでにないコンセプト、カタチの製品だったので、その価値に気づいてもらえるまでに少し時間がかかったのですが、しばらくして、どんどん販売が伸びていったときには、“わかってもらえたんだ”とうれしかったですね。

DIC岡さん

そして、100万個を販売するベストセラー製品になったわけですね。さらに最近、「IZANO 2」が販売されました。初代「IZANO」は中村さんが開発リーダーを務められたのですが、「IZANO 2」は山村さんが中心になられたそうですね。

IZANO 2 製品情報
山村さん

はい。初代を多くの方に使っていただく中から、“もっとこうだったらいいね”という声が集まってきていたんです。それらに応えたい、と取り組みました。

DIC岡さん

こちらが「IZANO 2」、パッと見ただけでは、あまり違いがわかりませんが……。

山村さん

折りたたんだ時に、より薄くなっています。初代の8.2cmから6.3cmにまで薄くできました。また、サイズの調節機能を高めたので、頭の小さな子どもさんから大人までピッタリとかぶることができるようになりました。そして、内装の部品を取り外して洗ったり交換したりできるようにもなりました。

写真(IZANO 2をかぶる女の子) 折りたたんだ時のサイズが従来品の8.2cmから6.3cmまで薄くなりました。厚さ23%DOWN

内装取外し方法 : https://www.dic-plas.co.jp/products/helmet/izano2/inner.html

DIC岡さん

本当だ、薄くなっている! “8.2cmから6.3cmに”って簡単におっしゃいますけど、ほぼ3/4ですよね。さぞたいへんだったでしょう。他にも、さまざまな使い勝手を考えて、よくなっているんですね。

山村さん

特徴はまだありますよ、DIC岡さん。ほら、組立ててみてください。

DIC岡さん

おおーっ。“カチ・カチ・カチ”って組み立てる感触が、より気持ちよくなった気がします。それに、折りたたむときの感触もスムーズ。

山村さん

1秒のワンアクションで組み立てられるのは変わらないのですが、より滑らかに、よりしっかりした感触で、組み立て・折りたたみができるようにしたのです。そのために、部品や機構をやり直しました。

山村さん

そして国家検定の「飛来落下物用」「墜落時保護用」の試験はもちろん、それ以外の試験も自主的に加えて行っています。たとえば、長い期間使っているうちにはヘルメットを落としてしまうこともあるだろうと、1.5mの高さからあらゆる角度で何度も落としてみて、どこも壊れないか、という試験もしています。

山村さん

そうしたことをすべてクリアすると、実は当初、初代よりも10g重くなってしまったんです。すると、販売を担当する営業担当のメンバーから、それではダメだ、と。

DIC岡さん

えー。そんなに苦労して開発しているのに。きびしい……。

山村さん

なんとか機能や安全性を犠牲にせずに、その10gを削って、初代と同じ重さに収めました。450gですから、500ccのペットボトルよりも少し軽いですね。

中村さん

山村は、妥協しないで、最後まで何度も設計変更をしていましたよ。

山村さん

営業担当のメンバーからもいろいろな意見をもらいましたし、自宅でも家族に一般ユーザーとしての意見を聞いたりしながら、細かなところを詰めていきました。

DIC岡さん

ユーザー目線といえば、この収納袋、いいですよね。イザという時に目立つ色でありながら、ふだん身近に置いたり、カバンにいれたりするときにも抵抗がなさそう。もしかすると、ここにもユーザー目線のご意見が?

山村さん

はい、多くの社員や家族からもらった厳しい意見もカタチにしました。

DIC岡さん

だからこそ、土木や建設のプロの使用に耐える本格派でありながら、子どもたちや女性も抵抗なくファミリーでも使える、みんなのための折りたたみヘルメットができたのですね。
あら、こちらに置いてあるのは、別のタイプのヘルメットですか?かわいい! 子どもたち向けですか?

山村さん

ああ、それは「IZANO CAP」です。実は、初代の開発時の社内アイデアコンペで出てきたアイデアをもとに実現させたものなんです。

山村さん

子ども向けだけではなく、大人向けサイズもあるので、幅広く使えます。一見、普通の帽子ですが、防災頭巾の基準の3倍以上の衝撃吸収力をもっています。IZANOのように折りたためて収納や持ち運びに便利です。
こちらはおかげさまで2014年キッズデザイン賞をいただきました。

DIC岡さん

へえ、「IZANO」をみんなのアイデアでつくり上げたからこそ、こうした製品も生まれたのですね。

DIC岡さん

今日お話を伺って、みなさんが、本当に人々の役に立つものをつくろう、という思いをブレることなく持ち続けて、ものづくりに取り組んでいることがわかりました。イザという時のことを考え尽くし、工夫を重ねて、この「IZANO」ができあがったのですね。DIC岡研究室に置いてある「IZANO」を、これからも大切に使っていきます。今日はありがとうございました。

中村さん

「IZANO」の開発では、災害時にさまざまな方が「自助・共助・公助」の活動にそれぞれ取り組まれる中で幅広く使ってもらえる防災製品がつくれたと思います。今後も、SDGs的な観点から、より多くの方々に安全を届けられる、社会に幅広く役立つヘルメットをつくり続けていきたいと考えています。今日はこちらこそありがとうございました。

山村さん

これからのヘルメットには、ウエアラブルのデバイスやGPS機能を搭載するなど、さまざまなIT技術と融合させることも求められてくるでしょう。そんな新世代のヘルメットでも、きっと、DIC岡さんにも気に入ってもらえる、スマートで使いやすい製品を生み出したいと思います。楽しみにしていてください。

IZANO 2 製品情報