色は、DICの原点。色を通して、人と人、地域をつなぎ、過去と未来をつなぎたい。それも私たちDICの役目です。

DIC岡里帆

今回ご紹介するのは、『DICカラーガイド』。日本で一番多くの方に使われている色の見本帳です。みなさん、ご覧になったこと、ありますか? 私は日々、伝統色シリーズをうっとりと読んでいます。

浅利さん

『DICカラーガイド』は、色に関わるプロの方々が仕事で使うことの多いのですが、DIC岡さんも、愛読してくださっているのですね。

DIC岡里帆

はい。“化学大好き”の私は、化学のチカラで生み出される色たちが、愛おしくて仕方がないんです。今日は、『DICカラーガイド』を中心に、色にまつわる活動をしている浅利さんと後藤さんにお話を伺えるとあって、感激です!

浅利さん

こちらこそ、DIC岡さんとお話できてうれしいです。DICは、今はグローバルな化学メーカーに成長していますが、もともとは、1908年に印刷インキの製造と販売で創業しました。印刷インキでは、今もDICグループが世界トップシェアなんですよ。

DIC岡里帆

色は、DICの原点なのですね。

後藤さん

『DICカラーガイド』は、印刷インキの色見本として、今から50年以上前の1968年に初版を発行したのが始まりです。書籍や雑誌などの印刷物に関わる方々に活用され、その後、ファッションやインテリアなど、多くの分野で色の見本帳として使われるようになりました。

DIC岡里帆

数え切れないほどの色が載っていますが、いったい何色くらい載っているのですか?

後藤さん

『DICカラーガイド』の3巻と、『DICカラーガイドPARTⅡ』の3巻を併せて、1289色。それに加えて、『日本の伝統色』300色、『フランスの伝統色 』321色、『中国の伝統色』320色があります。

DIC岡里帆

合計では、ええっと……、2230色もあるのですね!

浅利さん

はい。私たちは『DICカラーガイド』を発行するだけではなく、さまざまな新しい取り組みをしています。私の所属する企画開発グループで行っているのは、たとえば、子どもたちに向けたワークショップ。カラーガイドの数多くのカラーチップから好きな色を選んで、好きなように切り抜いて貼り付けてもらいます。たくさんの色に触れてもらい遊びながら学んでもらうという試みです。

『DICカラーガイド』を使った、子どもたち向けのワークショップの様子。

DIC岡里帆

わあ、楽しそう。子どもたち、どんな反応をするのですか?

浅利さん

保護者の方々も驚かれるくらい、色に熱中する子どもたちが多いんです。帰りたがらないお子さんがいたり、「普段のクレヨンとはぜんぜん違う色を選ぶので、うちの子はこんな色が好きだったの?と発見がありました」とおっしゃるお母さんも。

DIC岡里帆

子どもたちからすれば、ふだんのクレヨンや色紙は、きっと12色か24色くらい。2000色以上も見て遊べるのはすごいことですよね!

後藤さん

小さな頃にたくさんの色に出会うことで、子どもたちの世界が広がれば、と考えています。

DIC岡里帆

『DICカラーガイド』伝統色シリーズには色の由来が書いてあるのですが、私、特に『日本の伝統色』に惹かれます。たとえば、鴇色(ときいろ)。鴇(とき)という鳥は一見、白色に見えますが、鴇色は、淡く優しいピンクのような色。なぜかというと、鴾が飛んでいるときに見える風切羽根(羽の先端)が、その色だからなんですよね!

後藤さん

そうですね。きっと、日本各地の農村で飛ぶトキを見上げて人々が美しいと感じた色なんですよ。色の名前には、生活や文化、そして人々の思いが込められているんです。

DIC岡里帆

ひとつひとつの色に物語があるんですよねー(うっとり)。だから愛読しちゃうんです。

浅利さん

『日本の伝統色』といえば、それを使ったタオルを企画して、つくったりもしていますよ。

DIC岡里帆

うわー、これですか!? ステキな色! こんな色のタオル、ありそうで、なかなかないですよね。

浅利さん

これ、私の初仕事だったんです。『日本の伝統色』だから、日本を代表する今治タオルのメーカーさんとコラボをさせてもらいたいと、今治まで行きました。現地で製造工程なども確認させてもらい、何度も相談し色調整を重ねながらつくりました。 (※非売品です)

後藤さん

色は、素材によって、発色の仕方が変わってくるので、この色をどうやって再現するのか、つくりあげる職人さんとのコミュニケーションが大切ですね。

浅利さん

『日本の伝統色』には、興味を持ってくださる企業さんも多くて、たとえばファッションでは、コムサイズムさんとコラボで、「日本の伝統色 Tシャツ」をつくっています。製品には、色の説明をしたタグを付けてあるのですが、お店に訪れるお客様たちが、「こんな名前の色があるんだね」なんて興味をもってくださっているようです。

DIC岡里帆

確かに、そうしたストーリーがある商品って、手に取りたくなりますよね。

浅利さん

次のシーズンのTシャツに向けて、私たちから色の提案をするのですが、Tシャツのデザイナーさんは、私にとっては意外な色を選ばれることがあるんです。試作段階で見せてもらっても、「正直、これまでこんな色のTシャツって見たことない」って思うのですが、意外にもそんな色がすごくたくさん売れたり……。ふしぎですね。

2019年に発売された、コムサイズム×九谷焼×DICグラフィックスとのコラボ商品です。


<2020年 下げ札の一例>
下げ札には、DICカラーガイドの色や色名、色の由来などの情報を引用して作成したことを公認する『DICカラーマーク』が付いています。

DIC岡里帆

ファッションのデザイナーさんは、きっと独特な視点で色を見ているのでしょうね。そんなふうに、異分野のクリエイターが『日本の伝統色』のカラーガイドを活用することで、可能性が広がっているんですね。

DICカラーガイド 製品情報
浅利さん

そんな中、私たちはここ数年、新しい取り組みを始めたんです。日本といっても、さまざまな地域があり、それぞれの自然や文化があります。当然、それぞれの色もあるはずだと。

DIC岡里帆

確かに、その地域ごとに、印象的な色がある気がします。

浅利さん

地域のみなさんに、地元ならではの心に残っている色を含めて挙げていただいて、一緒に選んでいきました。そうして選ばれたのが、この『名古屋の伝統色』『兵庫五国の伝統色』です。

DIC岡里帆

へえ、おもしろーい。『名古屋の伝統色』では「ういろう」の色とか、名古屋城の「金鯱」の色とかも選ばれているんですね。

『名古屋の伝統色』(地域の伝統色プロジェクト

後藤さん

地域の伝統色を調査して、実物に近い色を『DICカラーガイド』の中から選んでいきました。でも、色は色見本のような単純な色みだけでなく、布や陶器などのように素材感やテクスチャーも相まって存在するものです。そういうところまで伝えるために、リーフレットには色の背景をストーリーとして載せています。

DIC岡里帆

?? どういうことですか?

後藤さん

たとえば、この「八丁味噌」の色。一般的には、味噌の色は茶色系だろうと感じられると思いますが、製造現場へ伺ってお話を伺うと、作り手のみなさんは、「赤みがあるよ」「赤みを帯びた黒褐色だよ」というふうに表現なさいました。実際に八丁味噌を見せていただくと、赤みの黒褐色の中に、アミノ酸が結晶化したキラキラとした輝きも見える。単純な茶色ではなかったんです。その色には、おいしい味噌を作ろうと代々携わってこられた皆さんの思いが詰まっていました。

『名古屋の伝統色』のひとつ、「八丁味噌」の黒褐色 ※上記はHTMLカラーコードで表現しています

浅利さん

私も『兵庫五国の伝統色』の選定で、印象的なことがありました。この「但馬牛ブラック」なのですが、牛を育てている現場に伺って、神戸ビーフになる最高級の牛を見せてもらったんです。ストレスがかからないよう、一頭一頭丁寧に育てられて、大切にブラッシングをされている。その毛並みは、つややかで深みがあり、すこし紫や茶色も感じられるブラックなんです。『DICカラーガイド』を牛舎に持っていって、色を選ぼうとしたのですが、どれとも微妙に違う。色が足りない!って思いました。

『兵庫五国の伝統色』の一つ、「但馬牛ブラック」※上記はHTMLカラーコードで表現しています

DIC岡里帆

2000色以上もあるのに足りないなんて! 長年、但馬牛を育ててきた人たちの思いのこもった、他にはない色なんですね。他にも兵庫では、「六甲アイビー」や、姫路城の「白鷺色」など、一つ一つに歴史や文化が感じられ、興味深いですね。

『兵庫五国の伝統色』

浅利さん

他の地域でも、こんな取り組みがあるんです。和歌山県海南市の方から、新しい図書館をつくる際に『日本の伝統色』を使わせてもらいたいというお話をいただいたんです。名古屋や兵庫の取り組みを紹介したところ、「じゃあ海南市の伝統色を選びたい」というお話になり、17色が選ばれて、館内のあらゆるところに散りばめられています。

和歌山県海南市の「海南nobinos」は、図書館を中心とした市民交流施設。2020年開館。

DIC岡里帆

みなさんが、海南市らしい色を選ばれたのですね。日本のあらゆる地域にそれぞれの色がありますから、はてしなく広がっていく取り組みですね。色という視点から、各地の伝統が継承されたり、発見されたりしていく。そこに化学のチカラが役立っている。感激です!

後藤さん

そうなんです。でもDIC岡さん、色の話って日本国内だけでもないし、伝統だけでもないんです。たとえば、これ。

DIC岡里帆

『アジアカラートレンドブック』? この立派な本はなんですか!?

後藤さん

はい。アジアのカラートレンドを研究・分析し、毎年、発信しています。欧米では、こうした取り組みはすでに半世紀ほど前から行われてきたのですが、私たちDICグループでは、2008年から、アジア特有の美意識や色彩感覚を発信していこうとしてきました。

アジアカラートレンドブック』では、カラートレンド予測が、豊富なビジュアルやマテリアル・サンプルとともに掲載されている。毎年発行され、現在は「2022-23版」が販売中。

DIC岡里帆

日本の地域にも広がっていくし、世界にも広がっていく。伝統を掘りおこすこともあれば、未来のトレンドの予測にもつながる。色って、本当にスゴイですね! 今晩も私は『DICカラーガイド』を読みながら寝ることにします。ああ、おだやかに眠れそう。今日はありがとうございました!

後藤さん

DIC岡さん、こちらこそありがとうございました。色彩を中心として発信をしていく中から、人と人のつながりをつくり出し、モノづくりと文化の橋渡しになれるよう、がんばっていきたいと思います。

浅利さん

私は、色の価値や、おもしろさ、楽しさなどを、どんどん伝えて広めていきたいと思います。これからも、模索しながら、いろいろなことに取り組んでいきますよ。DIC岡さん、ご期待くださいね。

お二人にとって、"色"とは?

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