バイオマス合成樹脂 篇 DIC岡里帆研究室 主任研究員 DIC岡 里帆 x DIC株式会社 機能性材料技術本部 機能性材料技術4グループ 研究主任 野口 崇史 機能性材料技術本部 機能性材料技術4グループ Prajwalita Das(ダス・プロジェリタ)

合成樹脂の石油由来の原料を、植物由来の原料に。いま世界中が取り組んでいるバイオマス化ですが、DICは、目の付けどころがちょっと違う!?

DIC岡さん

みなさん、「合成樹脂」をご存じですよね。一般的には「プラスチック」と呼ばれることが多いんですけど、私たちの生活をあちこちで支えてくれている、なくてはならないものです。今回は、合成樹脂の中でも、バイオマスのお話。近ごろ、DICから環境にやさしいバイオマスの合成樹脂が続々と登場しているんですって。しかも、DICのバイオマスはひと味違うというのですが、どこが違うのか、開発者のみなさんにお話しをうかがいます。

野口さん

DIC岡さん、こんにちは。私はポリエステル樹脂の開発をしている野口崇史です。

ダスさん

私は、インキ用の樹脂の開発をしているダス・プロジェリタです。

DIC岡さん

野口さん、ダスさん、こんにちは。

ダスさん

私はインド出身で、大学院の博士課程から日本の大学に留学し、博士号を取った後にDICに入社したんです。DICはグローバルな化学メーカーなので、世界中の人たちと仕事がしたいな、と。

野口さん

DICは世界62の国と地域にグループ会社がありますし、日本のDIC本社にも12カ国からの外国籍社員がいます。

DIC岡さん

まあ! まさにDICらしいダイバーシティな社員さんですね。
さて、今日はバイオマス合成樹脂のお話です。トウモロコシやサトウキビなど植物由来の原料からできた合成樹脂だということは、私も知っているんですけど……。

野口さん

はい、その通りです。普通の合成樹脂は石油由来の原料からできているのですが、それを植物由来のバイオマス原料に置きかえることができれば、CO2 排出削減に大きく貢献します。そこでDICでは、バイオマスの樹脂やインキなどの製品を、次々と開発しているんです。

写真(製品開発中の様子)
DIC岡さん

すごい! 植物は合成樹脂にもなれる。そして、CO2 排出削減にも貢献してくれる。それなら、一気にぜんぶ植物由来のバイオマス原料に変えてしまえばいいのでは?って思っちゃいますけど。それってやっぱり難しいのですか?

野口さん

原料をバイオマスに変えようとするとき、大きな課題は2つあります。一つは性能です。従来の石油由来の原料を使ったものと同じくらいの性能をちゃんと発揮できるかどうか。もう一つは、コストです。

ダスさん

バイオマス原料は、トウモロコシやサトウキビ、トウゴマなどの植物から油を抽出して作られます。少量ずつしか採取できず、石油由来の原料のような大量生産ができません。だから高価なのです。すると、バイオマス原料を使った樹脂も、どうしても高価になりがち。いかに価格を抑えて製品化できるかがポイントです。

野口さん

いくら環境にいい製品でも、価格が高すぎては、なかなか採用してもらえません。採用されなければ社会全体でのCO2 排出削減にはつながらないですからね。

DIC岡さん

性能をキープしながら、コストは抑える。ああ、ここでもまた、“あちらを立てればこちらが立たず”ですか。お二人は、そんな難題を乗り越えて開発を続けているんですね。

野口さん

はい。DICではすでにさまざまなバイオマス合成樹脂を開発して、市場に送り出していますよ。そんな中、私が担当しているのは、樹脂は樹脂でも「可塑剤」というものなんです。

DIC岡さん

カソザイ? ごめんなさい、聞いたことがないです。化学大好きの私としたことが……。

野口さん

DIC岡さん、落ち込まないで(笑)。可塑剤は脇役なのですが、とても重要な役を務めているんです。可塑剤自体も樹脂の一種で、主役の合成樹脂に加えることで、柔軟性を与えてくれるんです。

DIC岡さん

“固い合成樹脂に、可塑剤を加えると、柔らかくなる”ということですか。

野口さん

その通り。身近なところでは、食品を包装するラップフィルムや電気コードの外側の樹脂。あとは、クルマのシートなどに使われているPVC製の合成皮革。それらが柔らかいのは、可塑剤が入っているからなんです。

写真(柔らかい合成樹脂の例)
DIC岡さん

へえ、可塑剤ってすごい! 引っ張りだこの名脇役ですね!

野口さん

バイオマス化とは、石油由来の材料を自然由来の材料に置き換える試みですが、脇役である可塑剤のバイオマス化は、これまであまり検討されてきませんでした。でも、樹脂によっては、半分くらいが可塑剤でできているものもあります。そんなにたくさん含まれているなら、可塑剤をバイオマス化すれば、CO2 排出削減に効果があるのではないか、と。

DIC岡さん

目の付けどころが、DICならでは! じゃあ、「可塑剤のバイオマス化を研究してくれたまえ」という指令が野口さんのところへ来たわけですね?

野口さん

いいえ。私たちのチームの技術者が話し合う中で「可塑剤のバイオマス化って、できるんじゃない?」という話が持ち上がり、上層部にアピールしたら、「じゃあ、やってみろ」と承認してもらったんです。

DIC岡さん

そのバイオマス、かっこよすぎマス!でも、さぞや開発は難しかったでしょうね。

野口さん

はい。難しかったですが、順調に開発することはできました。DIC は長年、可塑剤を研究してきたので、先輩たちが築いてきた技術・ノウハウがあるからです。そして、「バイオマス原料100%の可塑剤を開発しました」という発表をしたのです。

DIC岡さん

あら意外。じゃあ、すぐに販売できたのですね。

野口さん

いいえ。そこから実際に製品化できるまでに、2~3年かかりました。

DIC岡さん

ええっ、どうして? せっかくバイオマス原料100%の可塑剤ができたのに!?

野口さん

可塑剤は、合成樹脂の成分として使われて初めて世に出ることができます。でも、バイオマスの可塑剤は石油由来の製品に比べて、どうしても価格が高くなってしまうんです。
お客様であるメーカーさんが、次々と興味を持って私たちの可塑剤をテストしてくださるのですが、「性能や品質は申し分ないけれど、ちょっとコストがネックになって……」と採用に至らないことが多かったんです。でも、この2~3年の間に、CO2 排出削減に対する意識が高まってきたという流れもあって、ついに!

DIC岡さん

時代が追いついてきたのですね! そういえば、カーボンニュートラルという言葉も、ここのところ、ずいぶん広く使われるようになってきました。よくガマンしたねえ、バイオマス可塑剤! これからはきみたちの時代だよー!

写真(可塑剤)

これが、100%バイオマスの可塑剤。おもに塩化ビニル樹脂に加えることで、柔らかい合成樹脂をつくります。

バイオマス可塑剤
製品情報
DIC岡さん

ダスさんは、インキ用のバイオマス合成樹脂を開発しているのですね。なんといってもDICグループは世界最大のインキ会社。さまざまなインキ製品を持っていますが、ダスさんは、それらをバイオマス化しているわけですか?

ダスさん

インキというと、パンフレットや雑誌のような印刷用インキを思い浮かべる方が多いと思いますが、DICグループでは、それ以外にも、食料品や日用品などのパッケージ用インキでも世界NO.1のシェアを持っています。私たちは、そうしたさまざまなインキ用の樹脂で、バイオマス化を進めているんです。

DIC岡さん

なるほど、これもDICならではのバイオマス化ですね。やはり、インキの分野でも、野口さんの可塑剤と同じように、石油由来の原料をバイオマス原料に置きかえて、同じくらいの性能をキープしながらコストを抑える、という挑戦をされているのですか?

ダスさん

悩みは同じで、性能とコストの両立はなかなか難しいですね。バイオマス原料は、どうしても世界的な供給量や種類が限られています。手に入るバイオマス原料で、どのように性能をキープするか。樹脂の化学的な構造を設計しなおすなど、いろいろとトライ&エラーをしています。

DIC岡さん

うわー、一つの材料を置きかえるだけなのに、化学構造を全部設計しなおすんですか!? 激ムズですよね。

ダスさん

はい。さらに最近では、バイオマス度をアップしたいというご要望も増えています。たとえば、現行の製品からバイオマス度を2倍にできないか、なんて。

バイオマスインキ
製品情報
DIC岡さん

そんなに簡単に言わないでくださいよー、って言いたくなりますよね。

ダスさん

ええ(笑)、でも、難しいからこそ、やりがいがあります。自分たちが開発に関わったインキが、お菓子のパッケージに印刷され、バイオマスマークを付けてコンビニに並んでいるのを見かけたりすると、がんばってよかった、と思いますね。

DIC岡さん

すごーい。どのお菓子ですか。今度、コンビニで探してみます。

DIC岡さん

可塑剤といい、インキ用樹脂といい、それらをバイオマス化するのは、DICならではの取り組みですよね。皆さんの日々の研究開発が、世界全体のCO2 排出削減につながっていることがよくわかりました。

ダスさん

でもね、DIC岡さん。バイオマス化がゴールではないんです。

DIC岡さん

ええっ、そうなんですか?

ダスさん

バイオマスは確かに一つの大切な方法です。でもそれだけでサステナブルが達成できるわけではないんですよ。

野口さん

あらゆる工程をすべてトータルで考えて、どれくらいCO2 排出削減ができるか、と考えることが必要です。たとえば、いくらバイオマス度の高い製品をつくっても、つくる工程でたくさんのCO2 を排出していては、元も子もないですよね。ですから、材料調達や製造、運送なども含めて、トータルで取り組みを進めています。

ダスさん

また、リサイクルにも取り組んでいます。バイオマスだけでなくリサイクルに貢献できる製品をつくりたい。そうした開発にも取り組みはじめています。

DIC岡さん

ええっ? バイオマスだけでなく、リサイクルまで!

ダスさん

はい、環境問題に厳しいヨーロッパでは、すでにリサイクルへの取り組みが始まっています。私たちも試作品づくりを進めていますよ。

DIC岡さん

きっとそれもまた、激ムズなんでしょう?

ダスさん

難しいけど、おもしろいですよ。みんなで、ああしよう、こうしようと、たくさんコミュニケーションをしながら、取り組んでいます。

DIC岡さん

今日は、若手の開発者の皆さんが、“化学のチカラで地球のため社会のために何ができるか”と考え続けていることが伝わってきて、感動しちゃいました。みなさんの生み出す製品が、これからも私たちのまわりにどんどん増えていくのですね。楽しみにしています。ありがとうございました。

ダスさん

私たちの関わっている製品は、幅広い業界で製品化されて、社会のあちこちで使われています。そうした製品を、CO2排出の少ないものに変えていく仕事はやりがいがありますし、世界・社会のサステナビリティのために役立っていると感じられるのは嬉しいですね。DIC岡さん、今日はありがとうございました。

野口さん

CO2排出量の削減は全世界が協力すべき共通課題。それだけに、これからは、異業種の企業とコラボをするなど、これまでにはなかった新しい動きをつくっていく存在になりたいですね。DICは、私のような若手社員のアイデアを活かしてくれる会社だと思っています。 またいつかDIC岡さんに、私のつくった新製品の話を聞いてもらえるように頑張りますよ!

バイオマス可塑剤
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