特 集 高精細印刷対応 軟包装用水性
フレキソインキ マリーンフレックスLM-R
3 すべての人に健康と福祉を 12 つくる責任 つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を

グラビア並みの高精細印刷に対応し、VOCとCO₂を大幅削減

DICの価値創造 環境負荷の少ない水性フレキソインキを、もっと食品包装へ

パッケージ用インキは、基材となるプラスチックフィルムへのなじみやすさや印刷時の乾燥性に優れる「溶剤系」が主流です。しかし、大気汚染や労働環境に影響を及ぼすVOC(揮発性有機化合物)低減、地球環境規模でのCO₂排出量の削減、印刷工程の省エネルギー化といった社会要請を背景に、水性やUV硬化型など「環境対応型インキ」へのニーズが急速に高まっています。
パッケージフィルムへの印刷には、凹版を使用する「グラビア印刷」や凸版を使用する「フレキソ印刷」が主に利用されますが、環境負荷の少ない水性インキ化は世界的に「フレキソインキ」が先行しています。これはフレキソ印刷がグラビア印刷に比べてインキ塗布量が少なく、乾燥が遅い水性インキを使用した際にも乾燥エネルギーを抑制でき、生産性が高いことによります(高速印刷)。
一方で、インキ塗布量が少ないため高濃度・高精細印刷が難しく、品質がグラビア印刷に比べて劣るため、インキや印刷機の改良が求められていました。
このような状況下で、DICは2015年にDICグラフィックス社とともにプロジェクトチームを立ち上げ、フィルムを主体に食品包装や化粧品などに使われる「軟包装用水性フレキソインキ」の開発に着手しました。そして、これまで培った配合・分散技術を駆使して、印刷適性を損なうことなくインキの高濃度化に成功し、グラビア印刷と同等レベルの精細性を水性フレキソ印刷で実現しました。
また、結合剤(バインダー)となる樹脂を構造から見直し、インキ高濃度化によるラミネート時の接着強度の低下を防ぐとともに、版から基材へインキ転移後、版面に残ったインキの再溶解性を高めることで印刷品質を安定化させたのです。
このパッケージ用水性フレキソインキは「マリーンフレックスLM」と命名され、2016年10月に展示会で発表しました。それは人々がフレキソ印刷に抱いていたイメージを大きく覆すものでした。

マリーンフレックスLMを使用した印刷物

マリーンフレックスLMを使用した印刷物

フレキソ印刷工程

DICならでは 新・水性フレキソインキが「サントリー天然水」のラベルに採用

新たな環境対応型インキとして包装市場に参入した「マリーンフレックスLM」ですが、販売量は思うように伸びません。ユーザー がグラビア印刷からフレキソ印刷に切り替えるには相当の設備投資が必要で、欧米並みに普及するにはまだまだ時間が必要でした。一方で、一部の大手飲料メーカーは、CO₂/VOC 削減とフィルム印刷時の省エネ化を目的に、ペットボトル飲料のロールラベル(胴巻きラベル)を油性グラビア印刷から水性フレキソ印刷に切り替え、採用商品の拡大化の取り組みを進めていました。この動向を見たDICプロジェクトは「我々が目指す方向性は間違っていない」と判断し、2017年7月、ロールラベルをターゲットに新たな水性フレキソインキ開発に舵を切ります。
しかし、その挑戦は容易ではありませんでした。一般的な食品向けフィルム包装は2枚のフィルムの間にインキをラミネートする3層構造に対し、ロールラベルは極薄フィルムにインキを裏刷りする2層構造です。しかも、ペットボトルの形状は強度やリサイクル性などに配慮して凹凸が施され、工場から倉庫・店頭へ輸送される際の接触や振動に耐え、屋外で氷水に浸されてもインキが剥落したり意匠性が損なわれることは許されません。

一般的な包装フィルムとロールラベルのフィルムとインキの比較

この厳しい条件をクリアするため、DICの開発陣はネットワークを駆使して、ロールラベルの受託会社に試作品の物性評価を要請し、厳格なテストを繰り返しながら改良を重ねました。例えば、ラベルデザインが飲料の色に影響されないための専用白インキ(白押さえ印刷)の開発、新たな硬化剤の選定、搬送・輸送時の湿潤耐摩耗性の向上、大ロット印刷品質の安定化(インキ粘度・版面の乾燥速度・ph値の最適化)など課題は山積みでした。
プロジェクトチームは、こうした課題を一つ一つ解決し、2018年12月、ついに諸物性検査に合格。溶剤型グラビアインキに比べてVOCもCO₂排出量(エネルギー使用量)も大幅に削減。さらに、DICグラフィックス社が開発したカラーマネジメントシステム「マリーンフレックスECG」によって、軟包装印刷における特色を多色プロセスに置き換えることで、廃インキの削減や印刷機の稼働率の向上を目指す取り組みも進めています。
この新規開発した水性フレキソインキ「マリーンフレックスLM-R」は、ほどなくサントリー食品インターナショナル社の代表ブランドである「サントリー天然水」2リットルの新ラベル用インキに採用され、2019年5月から出荷が開始されています。

マリーンフレックスECG

ユーザー・サントリー様の声

サステナビリティへの取り組み

サントリーグループは1899年創業以来、サステナブルな社会の実現に貢献するために、「水と生きる」企業として、高品質なサービスの提供や自然と共生する取り組みを推進しています。
長期目標である「環境ビジョン2050」に基づき2030年目標を設定し、CO2排出量削減・環境負荷の低減に取り組み、長年にわたり業界をリードしてきました。当社はとりわけ水を最重要課題と考え、世界に向けた取り組みとして「水理念」に基づく「森と水の学校」、「水育」などの次世代環境教育にも取り組み、水の大切さを教え、社員も水源での間伐や植林活動などを通じて、社会へ貢献しています。
また、当社は環境に配慮した容器包装の開発・導入\推進し、「2R+B」(Reduce、Recycle + Bio)やBtoB(ボトルtoボトル)への挑戦や世界初の植物由来原料を30%使用したペットボトルキャップの導入など、様々な環境負荷低減活動が社会で高く評価されています。

パッケージでの環境負荷低減

サントリーグループはパッケージ分野での環境負荷への取り組みとしては、従来の包装材料の軽薄短小から、現在は素材そのものへの改良・開発に重点を置いた取り組みを進めています。また昨今、消費者のサステナビリティの意識が高まり、リサイクル性やラベルの剥がしやすさなどが求められるようになり、今後は環境に配慮した商品かどうかが、末端市場での購買動向を左右すると見られています。
当社は、安定供給・品質向上・コスト競争力に加えて、さらなる環境負荷低減に向けた素材が必要と考え、このたびの水性フレキソインキ「マリーンフレックス」の採用もその一環となります。水性フレキソ印刷の採用にあたっては、グラビアインキが発揮する高精細印刷に近づける技術開発や生産性向上の実現など幾つかの課題がありましたが、「環境にやさしいマリーンフレックスに舵を切る」との決断をしました。水性フレキソインキを採用したのは、当社が業界初となります。

森と水の学校

森と水の学校

COMMENT

当社は環境保全を重視した事業活動に取り組んでいます。今回の水性フレキソインキについては、先行することでのリスクと、取り組まないリスクを考慮した上で、水性インキの業界へのインパクトを考えて、環境に配慮した水性フレキソ印刷が必要であると決断しました。より早く、より新しい環境配慮型のパッケージを開発・導入することで、持続可能な地球環境を次世代に引き継ぐことができます。そのために私たちは囲い込みをするのではなく「如何に業界をけん引していくか」を重点に考えています。今後DIC様には、水性フレキソインキの環境への利点を積極的に発信し、水性フレキソインキの普及と業界での環境問題への意識向上を期待しています。今後も環境にやさしい素材はパッケージのキーマテリアルであると考えていますので、DICの皆さんからの積極的な提案を希望しています。

サントリーMONOZUKURI エキスパート株式会社 SCM本部 包材部 課長 岩井 宏之様

サントリーMONOZUKURI
エキスパート株式会社
SCM本部 包材部 課長
岩井 宏之様

サントリーMONOZUKURI エキスパート株式会社 SCM本部 包材部 若海 文有子様

サントリーMONOZUKURI
エキスパート株式会社
SCM本部 包材部
若海 文有子様

KEY PERSON of DIC

新たな取引先とWin-Winのビジネス展開を

DICグラフィックス株式会社 大阪支店 リキッドカラー製品グループ 富士 俊也

今回のプロジェクトを通じて、ロールラベルのサプライチェーンの中核を成す受託会社・印刷会社のご協力をいただき、物性評価の知見や水性フレキソインキ印刷のノウハウに触れることができました。これを契機に人的・技術的な交流を深めつつWin-Winのビジネス展開を推進できることを念願しています。このようなアプローチが中期経営計画「DIC111」に掲げた「地球環境のサステナビリティに貢献するパッケージソリューションの提供」を実現するための必要条件でもあると確信しています。

DICグラフィックス株式会社 大阪支店 リキッドカラー製品グループ 富士 俊也

ブランドオーナー様の動向を製品開発に活かし新規開拓

	DIC株式会社 新事業統括本部 次世代パッケージングビジネスユニット ユニットリーダー 福田 吉成

サントリー様の当社軟包装用水性フレキソインキの検討は、マーケティング統括本部が進めるダイレクトマーケティングが起点となりスタートしました。その道のりは平坦ではありませんでしたが、方向性を誤ることなく、ロールラベル用インキの新規参入に辿りつけたのは、サプライチェーンを俯瞰し、ブランドオーナー様の動向を見極めたからです。そして、数ある提案テーマからターゲットを絞り込み、そこにDICグラフィックス、産業資材営業部との連携のもと、技術・製造・営業・マーケティングの全パワーを集中したことが今回の成果に結びつきました。

DIC株式会社 新事業統括本部 次世代パッケージングビジネスユニット ユニットリーダー 福田 吉成

DIC COLORCLOUDの利便性を水性フレキソ分野へ

DICグラフィックス株式会社 リキッドカラー事業部 東京リキッドカラー第三営業グループ 営業三課 土屋 暁裕

水性フレキソインキの普及を後押しするため開発した「マリーンフレックスECG」は、パッケージ作成業務の効率化、廃インキの削減、印刷機の稼働率向上に直結するデジタルシステムです。既にDIC COLORCLOUDを活用したシステムは、2016年のサービス開始以来、デザイナーや印刷現場から「試行錯誤の時間が削減でき、色校正の立会時間も短縮できる」とご好評をいただいていますが、優れたデジタルソリューションを提供できるのもDICグループの強みです。

DICグラフィックス株式会社 リキッドカラー事業部 東京リキッドカラー第三営業グループ 営業三課 土屋 暁裕

DICグループのネットワーク力を最大限に活用

DIC株式会社 コンポジットマテリアル製品本部 産業資材営業グループ マネジャー 三橋 弘毅

DICグループは、インキや樹脂、包装材料はもちろん物流用のプラスチックパレットやコンテナーの製造・販売も手がけています。この物流資材をビールメーカーと大手レンタル会社に対して直接販売しており、そこで構築した人脈などから業界の全体動向をはじめとして、ブランドオーナー様の生の声を得ることができます。
今回のプロジェクトでは、多種多様な製品を扱うDICならではのネットワーク力が大いに奏功したと思います。今回の水性フレキソインキの採用事例を含め、ブランドオーナー様がDICに対して本質的に要求している課題を解決する企画提案をしていきたいと思います。

DIC株式会社 コンポジットマテリアル製品本部 産業資材営業グループ マネジャー 三橋 弘毅

想像以上に高かった物性評価試験のハードル

DIC株式会社 東京工場 分散第一技術本部 分散技術4グループ マネジャー 佐坂 利桂

DICのインキをロールラベルに採用いただくには、ラベル受託会社の物性評価試験に合格することが絶対条件ですが、そのハードルは想像以上に高く、幾度となくNGを出されました。しかし、評価プロセスを通じて、ペットボトルが工場出荷から輸送・販売・使用に至るまで、いかに過酷な環境に置かれるかを実感できたのは貴重な経験でした。印刷品質と環境性能を両立させるのは容易ではありませんが、今回の経験を活かし、新たなパッケージ用インキの開発に挑戦したいと考えています。

DIC株式会社 東京工場 分散第一技術本部 分散技術4グループ マネジャー 佐坂 利桂

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