特 集 世界最速硬化の炭素繊維強化プリプレグ
DICARBO® LFシリーズ
07 エネルギーをみんなに。そしてクリーンに 09 産業と技術革新の基盤を作ろう 13 気候変動に具体的な対策を 17 パートナーシップで目標を達成しよう

高級感漂う意匠性を維持しながら、二酸化炭素の排出を削減した新たな食品包装フィルムを開発しました。

軽量・強靭化に不可欠な「炭素繊維複合材」生産革新、
製造時の省エネ化でCO₂排出を大幅削減します。

DICの価値創造 CFRPの生産性向上によりモビリティなどの「燃費向上」に貢献

優れた複合材CFRPの普及を阻む生産工程の壁

CFRPは炭素繊維で樹脂を強化した複合材料で、繊維強化プラスチックの一種です。鉄筋コンクリートで例えると、炭素繊維が鉄筋に、樹脂がコンクリートに相当します。
最大の特徴は強度と軽さで、最初にゴルフクラブや釣り竿などが実用化され、やがて航空機・自動車・建築・橋梁、さらには人工衛星や風力発電装置など用途は拡大の一途をたどっています。特に「燃費の向上」が重要テーマであるモビリティの分野では、脱炭素化の潮流の中で軽量化を進める機能性材料として需要は一段と高まっています。
CFRP製造工程の一種である「プリプレグシート」を使用する場合、炭素繊維の束を広げて樹脂を含浸させたシート状のプリプレグ(中間材料)【図-1】を製造し、積層して金型にセット、加熱圧着して成形・硬化させます。しかし、一般的なエポキシ系樹脂のプリプレグシートは、保管時に冷蔵または冷凍して使用時に解凍する必要があり、工程の複雑化・高コスト・低い生産性の要因となっています。【図-2】

  • Carbon Fiber Reinforced Plastic
【図-1】 炭素繊維強化プリプレグとは
【図-2】 従来型プリプレグシートによるCFRPの製造工程

生産性を大幅に向上させる「速硬化炭素繊維強化プリプレグ」を開発

2018年、DICはCFRPの生産性やコストの改善に向け、高分子設計テクノロジーによるプリプレグ用高速硬化樹脂の開発を本格化するとともに、開発パートナーとして、繊維束を高速に薄く広げる「開繊技術」を有する福井県工業技術センター、樹脂薄膜塗工・ロール含浸における「高精度な含浸技術」を有する総合繊維メーカーのセーレン株式会社(本社:福井市)と共同プロジェクトを結成しました。
そして、このプロジェクトは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」の研究事業に選ばれ、3年以内に自動車分野を想定した高速硬化プリプレグの実用化を目指すことになりました。
こうして3者はそれぞれ強みを持つ領域で研究開発を進め、緊密に連携しながら新技術を融合。2021年夏、世界最速レベルの硬化性でありながら常温保管(23℃前後)も可能とする「高速硬化プリプレグ基材」の実用化に成功しました。
これによってプリプレグの硬化時間が従来の1/3~1/5(最短30秒)に短縮され、同時にプリプレグの冷凍・解凍工程を不要としたことで成形工程の生産性は最大5 倍に向上。さらに、プリプレグの冷凍・冷蔵設備の設置費や維持費の削減により生産コストの大幅削減も可能となりました。【図-3】

【図-3】 速硬化の炭素繊維強化プリプレグで生産性を大幅向上

DICならでは 「高速硬化性」と「常温安定」を備えたラジカル硬化樹脂を開発

粘度のコントロール、薄層化、工程とのマッチングなど難題が山積み

共同開発でDICが担当したのは、高速硬化性と保管の容易性を備えた新たな樹脂の開発です。DICは成形用樹脂を手がけていたものの、炭素繊維束を引き延ばしながら単糸にほぐし、均等に並べて薄いシート状にするプリプレグに適応する樹脂を実現するには数々のブレークスルーが必要でした。
技術陣は、まず生産性を高めるため「速く硬化する特性を持つ樹脂」の候補選定に着手しますが、難題だったのは工程に合わせて硬化状態が変化する設計と材料の調合です。開繊された極細の炭素繊維1 本1 本に含浸する工程で「半硬化状態」となり、加熱すれば「高速硬化」する樹脂の開発。つまり塗工-含浸-巻き取り-保管-加熱成形の各工程で最適の粘性を発現させる必要があるのです。
さらに冷蔵・冷凍の必要がない「常温保管」を可能にするには、樹脂の設計や調合はさらに複雑になります。
技術陣はこの課題に対し、工程で要求される樹脂の粘度と温度による物性変化を解析し、シミュレーションを繰り返しながら高分子設計を進めました。同時に樹脂開発を担う堺工場では設計どおりの樹脂特性を具現化するため試行錯誤を重ねつつ数えきれないほどのトライ&エラーを繰り返しました。そして、開繊装置を担当する福井県工業技術センターと、樹脂塗工・含浸装置を担当するセーレンに試作した樹脂を持ち込み、幾度となく改良・調整を続けました。

ついに世界最速硬化と常温保管を実現した速硬化炭素繊維強化プリプレグ「DICARBO® LF」誕生

試作と改良を繰り返す中で、樹脂の特性は次第にレベルアップし、同時に炭素繊維に樹脂を含浸させる工程にも独自のアイデアを盛り込むなどして、プリプレグ製造工程は完成度を高めていきました。
そして、開発期限が迫った2021年春、ついに世界最速硬化と常温保管を両立させ、多様な成形法に対応する速硬化炭素繊維強化プリプレグシート「DICARBO(ダイカーボ)® LF」が完成。これを用いた量産プロセスを構築し、同年7月に3 者共同のニュースリリースを発表するとともに、セーレンで稼働させた実証機によるサンプルシートの提供を開始しました。
DIC が同年12 月に開催された「先端材料技術展2021」にDICARBO® LFを出展すると、幅広い産業分野から反響があり、担当部署はその対応に追われました。しかし、プロジェクトは完了したわけではありません。これから従来型プリプレグをDICARBO® LFに置き換えたり、DICARBO® LFによる新たなCFRP 製品への参入をサポートする使命があります。そして採用実績を積み上げることでCFRPの普及が促進され、幅広い分野で軽量化による低燃費や省エネルギー化に貢献できるのです。

シート加工実証機

シート加工実証機

多様な成形法に対応し幅広い製品への適用が可能
DICARBO® LFと他社品との比較

KEY PERSON of DIC

参入構想から6 年、大きなヤマ場を越えて製品化の実現へ

DIC 株式会社 堺工場 オートモーティブビジネスユニットA-1 プロジェクト マネジャー 新地 智昭

新製品企画を手がける中で成長が期待できるCFRPプリプレグへの市場参入を社内提案し、開発をスタートさせました。ただ、DIC単独では製品化の道のりは遠く、2016年に福井県工業技術センター、2017年にセーレン株式会社に共同プロジェクトへの参画を要請し、開発を加速させました。
しかし、その道のりは予想以上に険しく、モノにならなかった試作品の山に、行く末を思い悩む時期もありました。それだけに多くの仲間と改良に取り組み2021年にサンプル提供を開始できた時は感無量でした。
現在は様々な分野のお客様と課題を共有しながらDICARBO® LFが実製品として世に出せるよう奮闘する日々ですが、展示会などでDICARBO® LF製のCFRP部品や製品を披露できるのもそう遠くないと確信しています。

DIC 株式会社 堺工場 オートモーティブビジネスユニットA-1 プロジェクト マネジャー 新地 智昭

生産工程の省エネルギー化を軸にCFRPの普及促進を提案

DIC 株式会社 新事業統括本部 オートモーティブビジネスユニットA-1 プロジェクト マネジャー 中島 直子

プレスリリースや展示会、デジタルマーケティングを通じた国内外市場からの手応えは大きく、モビリティ関連はもちろん、スポーツ・電気電子・土木建築など多彩な業種に売り込みを図っています。
DICはプリプレグとしては後発メーカーのため、従来品からDICARBO® LFに切り替えていただくのは容易でありませんが、お客様の省エネ化への関心は総じて高く、その解決策としてご提案しています。
また「CFRPで新製品の開発を」とお考えのお客様には、DICARBO® LFが大きな戦力となるのは間違いなく、私たちは開発過程で培った技術や人脈をフル活用してサポートしています。そして、DICARBO® LFが次世代プリプレグの主流となる日を目標に、着実に上市に向けて個別のテーマをクリアしていく決意です。

DIC 株式会社 新事業統括本部 オートモーティブビジネスユニットA-1 プロジェクト マネジャー 中島 直子

ステークホルダーの視点

新たな複合材料成型品の誕生につながることを期待します

福井県工業技術センタ-では開繊加工技術を駆使した炭素繊維プリプレグシートの開発に長年取り組んできましたが、樹脂開発という点では全く進んでおりませんでした。そのような中、御社から新しいコンセプトの樹脂によるシート開発のご提案をいただき、かつ県内企業との共同開発にて進めていただきましたことを大変感謝いたしております。
樹脂挙動の点から品質の良い安定したプリプレグシートを得るには課題もありましたが、本開発に取り組まれた研究員の皆様は大変粘り強く、かつ前向きに取り組まれ、製品化に導かれたことを当センターとしても大変うれしく思います。今後、本製品による新しい複合材料成型品が市場に多く生まれることを期待しています。

福井県工業技術センター新産業創出研究部 部長 川邊 和正様

福井県工業技術センター
新産業創出研究部 部長
川邊 和正様

2022年度の特集

優れた信号応答性と意匠性を併せ持つ機能性黒色顔料 SpectrasenseTM Black EH 8082、L 0086 Sicopal® Black L 0095

優れた信号応答性と意匠性を併せ持つ機能性黒色顔料 SpectrasenseTM Black EH 8082、L 0086 Sicopal® Black L 0095

安全・安心で、彩り豊かなカーライフに貢献する革新的なコーティングシステムを開発しました。

09 産業と技術革新の基盤を作ろう 17 パートナーシップで目標を達成しよう
世界最速硬化の炭素繊維強化プリプレグ DICARBO® LFシリーズ

世界最速硬化の炭素繊維強化プリプレグ DICARBO® LFシリーズ

軽量・強靭化に不可欠な「炭素繊維複合材」を生産革新、製造時の省エネ化でCO₂排出を大幅削減します。

07 エネルギーをみんなに。そしてクリーンに 09 産業と技術革新の基盤を作ろう 13 気候変動に具体的な対策を 17 パートナーシップで目標を達成しよう