共に歩む、サステナブル社会への道
~DICのCVCで目指す社会課題解決型事業に必要なエコシステムとは~ <前編>

2023.06.30 事業を通じた社会貢献
左より柴野隆さん DIC株式会社 新事業統括本部 事業企画部(CVC担当)、Gina Domanigさん Emerald Technology Ventures CEO、後藤直孝さん DIC株式会社 新事業統括本部 ヘルスケアビジネスユニット H-2プロジェクトPM (元CVCチームリーダー)
左より柴野隆さん DIC株式会社 新事業統括本部 事業企画部(CVC担当)、Gina Domanigさん Emerald Technology Ventures CEO、後藤直孝さん DIC株式会社 新事業統括本部 ヘルスケアビジネスユニット H-2プロジェクトPM (元CVCチームリーダー)

左より柴野隆さん DIC株式会社 新事業統括本部 事業企画部(CVC担当)、Gina Domanigさん Emerald Technology Ventures CEO、後藤直孝さん DIC株式会社 新事業統括本部 ヘルスケアビジネスユニット H-2プロジェクトPM (元CVCチームリーダー)

DICのコーポレート・ベンチャーキャピタル(以下CVC*1)は、DICグループのビジョン「彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに-Color & Comfort-」を共に目指す仲間として、ユニークな技術力やビジネスモデルを持つスタートアップ*2を世界各地から見いだし、協業および出資を含む支援を行うことで”エコシステム*3”の構築に取り組んでいます。

今回、DICのCVCのパートナーの一つであるEmerald Technology Ventures(エメラルド社)のCEO Gina Domanigさんの来日を捉え、DICコーポレートコミュニケーション部のコミュニケーションスペシャリストのクレイグ・ダンドリッジさんがインタビューを行いました。

*1 CVCとは、投資が本業ではない企業が、新事業創出や最先端情報の収集などを目的としてスタートアップへの投資活動や協業を行うための組織で、オープンイノベーション手法の一つ
*2 従来「ベンチャー企業」と呼ばれてきましたが、英語で「venture」というと「危険・投機的」といったネガティブなイメージがあるため、近年は「スタートアップ」と呼ばれます
*3 多くの企業、スタートアップやファンドが協業・連携し、互いに利益を得ていくシステム

DICのCVC概要

【Key Facts】
設立:2016年(新事業統括本部)
拠点:米国、日本の2拠点
対象地域:北米、欧州、アジア、イスラエル
投資実績:スタートアップ5社*、素材化学系ファンド2社

クレイグ: 現在のグローバルなビジネス環境についてどのように感じていますか?

後藤: 世界的なカーボンニュートラルの流れをはじめ、ビジネス環境は、非常に変化が早く競争が激しいです。一企業としての利益追求型では立ちいかなくなりつつあり、根本的な構造が変わってきているのだと感じています。社会課題解決型の新事業創出を目指す私たちにとってビジネスの機会や選択肢はたくさんありますが、当然、価格競争にもさらされているので、何を選択すべきかを決定し、ビジネスを革新してポートフォリオも変えていく必要があります。DICは素材メーカーですが、今まで以上に消費者や顧客に新しい価値を提供しなければなりません。つまり、ビジネスの仕方を変えなければならないと考えています。たとえば、現在は主にインキ・顔料・樹脂などを販売していますが、新しいポートフォリオを加えて強化していく必要もあるでしょう。また、もう1つの重要な側面は、モノづくりだけでは生き残れないため、多くの協働を生み出し、付加価値の高いサービスを提供することによって消費者や顧客にアプローチしなければなりません。

クレイグ: DICのCVCの方針や注力分野について教えてください。

後藤: 今経営計画「DIC Vision 2030」においては、重点領域におけるコンピタンスの高度化とその獲得による新たな柱の構築を目指しています。DICのCVCの活動では、ファイナンシャルリターン(配当)だけでなく、新事業開発や最先端情報の収集、協業によるビジネス構築を目的として、スタートアップへの投資や素材系投資ファンドへ出資を行っています。2016年の設立から、現在までの間に、スタートアップ5社、素材系ファインド2社の実績があります。主な注力分野は、サステナブルパッケージング、サステナブルエネルギー、ヘルスケアの3分野となっています。スタートアップとの交渉は、スピード感も信頼を得るための重要なファクターですので、経営判断における時間との闘いは常に意識を高めています。

クレイグ: CVCチームのグローバルビジネスの見通しはどのようなものですか。

柴野: 同じような化学会社の中には、まったく新しい分野の事業を立ち上げているところもありますが、私たちはDIC Vision 2030を達成しなければなりません。現在、投資先は順調に成長しています。また、当社とのシナジー効果も出てきています。私たちは、過去5・6年はバイオテクノロジーに注力してきました。これは遺伝子編集などを含めた合成生物学の急速な進歩により、従来のバイオプロセスでは考えられなかった物質を安価に製造できるというゲームチェンジが起こっているからです。私自身は、合成生物学や藻類技術を活かした、スキンケア素材、食品やニュートリション素材などに取り組んでいます。そのほかにサステナブルエネルギー領域では、貯蔵や省エネなど。また、サステナブルパッケージ領域では、リサイクル、生分解、紙由来などをキーワードに活動しています。

クレイグ: 多くの人々は10年後の世界がどれだけ変わるか想像できないと思います。私たちDICが変化に対応して生き残るためには何をすべきでしょうか?

後藤: 私たちの会社のブランドスローガンは「Color & Comfort」です。それは世界中の人々の生活をどのように向上させるかを考えなければならないことを意味すると思います。日本やヨーロッパ、アメリカなどの先進国だけでなく、途上国も同じです。先進国のニーズと途上国のニーズは異なりますが、私たちは多様な戦略を持たなければならないと考えています。DICのCVCは、現地で何が起こっているのか、具体的な課題、どのような投資が必要なのか、世界の潮流や途上国のニーズも考慮する必要があります。

クレイグ: DICのCVCは、なぜベンチャーキャピタルであるエメラルド社へ出資しましたか?

後藤: グローバルなベンチャーキャピタル、特に素材やクリーンテック分野のパートナーを探す中でエメラルド社を見つけました。エメラルド社は、スタートアップに投資したり投資家に情報を提供するだけでなく、スタートアップの事業成功率を高めるために多くの企業をはじめ、各国の政府や大学、研究機関などさまざまなリソースも活かすエコシステムを構築していました。当時私たちは、投資の仕方やスタートアップとの関係の作り方、新規事業の立ち上げ方などを学ぶために、ベンチャーキャピタルに社員を派遣したいと考えていました。多くのベンチャーキャピタルはインターンシップ・プログラムを提供していませんが、エメラルド社はそのプログラムを持っていました。また投資実績や投資に対する考え方、さらにはエメラルド社の皆さんの人柄に惚れ込み、当時の上司や役員が出資を決めました。スタートアップへの出資もそうですが、技術やビジネスだけでなく、最終的には人としての信頼関係が重要です。

クレイグ: インターンシップをしたDICの人は何人いますか?

後藤: 残念ながら、柴野さんと私の2人だけです。毎年人を送りたいですが、コロナのパンデミックのため、この3年間はメンバーを送ることができませんでした。

クレイグ: インターシップで学んだことの具体例を教えてください。

柴野: 私はスタートアップの見極め方を学びました。エメラルド社は毎年1500社以上のスタートアップをスクリーニングしており、各企業の強みや課題、特長を議論しています。これらの活動に参加することで、どのようにスタートアップを見極めるかを学びました。エメラルド社はサステナビリティ社会の実現に向け、求められることと新しい技術を組み合わせて将来のビジネスを描き、人を選び、育て、スタートアップのビジネスを成長させる力を持っています。エメラルド社のメンバーは、さまざまな分野の大企業出身者やPhD、MBAを保有しているプロフェッショナル、かつ、フレンドリーで、寛大で、健康的で、前向きです。また、彼らは欧州にとどまらず、北米、アジア、アフリカなど、出身も様々で、オープンイノベーションにおける多様性の重要さを肌で感じることができました。

後藤: これまでのオープンイノベーションでは、大学や研究機関との連携が中心でしたが、エメラルド社との協業では、同じ分野の企業もスタートアップを一緒に育てていくエコシステムを構築することができます。業界内ではライバルだとしても、“人と地球の未来をより良いものに”のビジョンの到達には専門家が集まった方が早く実現できる可能性もあり、DICがやるべきことも見えてくるでしょう。より多くの協業パターンを見つけることができれば、より多くの機会があることを学びました。個人的にも仕事や課題を楽しむという哲学を学びました。

クレイグ: 今後数年間の具体的な目標はありますか?

後藤: DICのCVCチームのメンバーは、仕事を通じて、社会の潮流を肌で感じ、多くの先進的な企業やスタートアップからの情報をもとに一歩先の将来を想像することができます。それはとてもエキサイティングな瞬間です。日本では、他企業と自社の話をするとき、強みだけを示し、課題は明らかにしないことが多いと思います。しかし、グローバルでは、問題点や課題について徹底的に話し合います。また、日本人は文化的にお金の話には消極的な傾向がありますが、ビジネスの場面では、私たちはお金についてもっとオープンに話す必要があると感じています。CVCのメンバーは、常にグローバルに考え、行動しなければなりません。それは挑戦的であり、DICにとっても新しい変化を生み出し、将来の貢献につながると思います。ファンドというエコシステムを通じて、さまざまな協業先と10年先を見据えた次のテーマを一緒に創っていきたいと思います。

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Emerald Technology Ventures

スイス・チューリヒ、カナダ・トロント、シンガポールに拠点を置き、エネルギー、水処理などの環境科学、素材化学、IoT・ソフトウエア分野を中心に5年以内にExitが見込めるスタートアップ投資行うベンチャーキャピタル。DICの他、Evonik、Henkelなど欧州化学企業やMichelinやCaterpillar, SABICなど様々な分野の世界的企業に加え、近年は日本からも多くの企業が出資を行っています。ここから共同研究に向けた検討や新規アイデア創出などにつながっています。