BIOTOPE代表 佐宗 邦威氏と当社執行役員 髙野 聖史の対談記事を掲載

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2019年9月13日

2019年1月、DICは新事業統括本部を設置。新事業の創出に向け、さまざまな取り組みを行っています。特別対談企画として社会を変える発想と、事業化までのプロセスについての書籍が話題のストラテジックデザイナー佐宗邦威さんと、髙野統括本部長がさまざまな意見を交わし合いました。

髙野 DICは創業111周年を迎えたインキを祖業とする化学メーカーです。インキ事業は長らく安定したビジネスでしたが、変化の激しい時代に祖業を含む現業だけでは成長路線を維持できないという危機感を持っています。現在、社会にも貢献できる新事業創出にチャレンジすることを決め、試行錯誤しているところです。

佐宗 僕が御社に興味を持ったのは、新しい価値を生み出すプロセスでは、「色」や「彩り」がとても重要な役割を果たしているからです。世の中には、すでに顕在化している課題の解決を目指す思考が得意な人はたくさんいるのですが、これからのイノベーションに必要なのは、まだ現実にない妄想の世界を形にしていくための「ビジョン思考」です。初めはモノクロであり、ぼんやりしていた妄想でも、色彩がのることで解像度が上がり、具体的になっていきます。色彩は、人の感性にアプローチして新しい価値を生み出したり、人を動かしたりするパワーを秘めているのではないでしょうか。

髙野 まさにDICでは、「化学で彩りと快適を提案する」というビジョンを掲げています。ただ、今はどんな色でも再現できる技術はあるので、色彩だけでは付加価値にはなりにくい。そこに感性やテクノロジーを掛け合わせることで何か面白いことができるではないか、というイメージはあるのですけど、なかなかそこから前進できていない状態です。

佐宗 色を生み出すことが、御社の強みだとすれば、その逆の受け取る人間側の知覚や脳の働きと色の関係について研究を深めることで、何か面白いものが生まれそうな気がしますね。

髙野 そうですね。ひと昔前は、手法がなく人間の感覚だけであったものが、さまざまなエビデンスが出せるようになってきています。脳科学は将来性のある分野ですし、色が人に与える影響などを深堀りし、化学と感性を結び付けていくことは事業としても可能性があると思います。

佐宗 イノベーションは、根拠のない直感や途方もない妄想を原動力に生まれてくるものです。こうした発想は、特別なセンスを持つ天才だけが生み出せると考える人が多いですが、そんなことはありません。ただの空想で終わるか、現実世界にインパクトを与えられるかという結果の違いはあっても、イノベーションの芽は、誰もが持っているちょっとした違和感や空想の中にあるのです。
出てきた発想に対しても、「こんなアイデア、凡庸だ」なんて最初から打ち捨てないでほしいです。発想は磨き上げるもので、陳腐な着想がイノベーションにつながる例も珍しくありません。個人から生まれる凡庸なビジョンの中にこそ、お宝が埋まっていることに気付いてほしいと思います。

髙野 私も個の力は重要だと思います。また、新事業創出には、「見えないもの」を見て、その実現に向けて人々の価値観や感情に訴え、共感・協働を促していく力が必要だと感じています。そして、イノベーションを起こすには、「新結合」が大事だと考えています。これには、要素をバラバラに分解してまとめていく力と今までになかった組み合わせを見つけ、つなげる力が必要ですが、なかなか難しい。新しい発想のきっかけになればと、異なる部署の人材を交流させる取り組みも行っています。

佐宗 なるほど。人の組み合わせに投資する価値は十分ありますよ。探索と深化という、外に広げることと、深めることをいかに両立させるかが機能として大事だと思います。まずは、深堀りが得意なイノベーター的な人材と、それをつないだり拡大したりするのが得意なクリエーター的な人材を組み合わせることを意識してはどうでしょうか。イノベーター的な人材は研究者や技術者に多くいますが、クリエーター的な人材は企業に属していないことも多いので、社外にもコミュニケーションの場を広げるといいですね。こうした出会いから生まれたアイデアを自由に育てていける企業が、新規事業に成功している印象があります

髙野 それは面白いですね。DICには深堀りが得意な人材は多くいますが、その分野が一般的な定義からするとやや狭いと感じています。狭い世界だけをひたすら掘り続ける人が、イノベーションに行き当たるのか、疑問があります。

佐宗 それは研究開発の部門を持つ企業で必ずぶつかる壁です。対策として、一般の大学生、特にトレンドに敏感な女性と一緒に未来の社会について議論する場を定期的に設ける企業もあります。研究者のように深化する人は、専門用語をよく使いますよね。それでは一般の人に通じないので、誰でも理解できるよう翻訳する必要があります。その過程で自分の技術が持つ価値を考え直したり、分解して別の形に再構築したりするような作業に向き合うことになるのです。

髙野 普段と違う人と出会うことで、得意分野をより広く、社会的な視点から捉え直すわけですね。

佐宗 そうです。実際、優秀な技術者が自分の言葉で技術を語るチャレンジを始めると、急に目が輝き出すような例をいくつも見てきました。これまで出会えなかった反応をもらい、それに対してまた考える。このサイクルを繰り返すことで、既存のビジネスモデルのもとでは制約だらけに見えることも、新しい可能性やアプローチが見えてきます。
分解して再構築するスキルは、多彩な分野の人とコミュニケーションすることで育まれます。一朝一夕で成果が上がるものではありませんが、相反する立場の人を組み合わせるのが効率的です。

髙野 分解・再構築の事例として、ヤマト運輸では、既存の宅急便ネットワークを活かして過疎地域などで、ドライバーが高齢者の見守り支援や買い物支援という新たな提供価値を生み出しています。DICでもそのような多様な視点でニーズを掘り起こして、自社やアウトソースの組み合わせを考えたいですね。

髙野 今ある資産や技術を分解して再構築していくことは、大企業では特に重要ですね。そうでないとスタートアップに負けてしまいますから。

佐宗 テクノロジーは社会を変えるきっかけにはなりますが、それだけでは広がらない。テクノロジーを人の生活に生かすには、「人間語」への翻訳が必要です。人が直感や体験で扱えるように、デザインやクリエーティブな価値をプラスして、人間性を付与するのです。例えば、コンピューターのOSでいうとUnixやDOSが、グラフィカルユーザーインターフェースになった瞬間に多くの人が使えるようになったのは、まさに人間語の翻訳だと思います。つまり人間の直観や感性で自然に体が動くかたちに変えることです。

髙野 私は佐宗さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』にある「新しい発想を生むにはまず、“自分が何をしたいか”を思い出す必要がある」という記述にとても共感しました。変化の激しい時代だからこそ、周りに流されず、自らの思いに向き合うことは重要だと感じました。

佐宗 「これをやりたい」という強い意欲を持つ人がいる組織には、結果を出す力があります。一方で、取引先や上司、同僚、家族のために多くの仕事をこなす優秀な人ほど、行動や思考が他者を満足させるための「他人モード」になりがちです。これでは、ワクワクしたり感動したりする心が失われるばかりか、イノベーションにつながるような新しい発想も生まれにくくなるのです。普段、他人モードに支配されている人は、「自分モード」を取り戻すことを意識してほしいですね。

髙野 DICはBtoB企業の中でも上流に位置する素材メーカーであることもあり、他人モードに陥りやすい環境にあります。そんな中で自分モードを取り戻すにはどうすればいいと思われますか。

佐宗 実はビジョンが具体的で、やるべきことが明確であるほど他人モードになりがちなのです。スタートアップで成功する人は失敗しても方向転換するのが上手なのですが、これはゴールを遠いところに置いているからです。ゴールが近すぎると失敗と判断するしかないケースでも、大きなビジョンを見ていれば目の前のつまずきなんてちょっと道を間違えた程度にすぎません。妄想レベルに近いビジョンステートメントや存在意義が言語化されていると、こういう時に強い。新規事業のKPIに「失敗の数」を設定している企業もあるほどで、既存事業とは異なる評価やアプローチが必要だと考えます。

髙野 なるほど。社内で新規事業のアイデアを募ると、最初から落としどころを考えているケースが見られます。まずは、思い切り妄想を広げないと始まらないですね。そして、一人ひとりにとってビジョンや企業の存在意義がいつでも立ち戻れる場所であり、よりどころとなれば、目の前が思うようにいかなくても、向かう大きな道筋は変わらず進んでいけるということですね。

佐宗 脳は、情報の未完了なものを求めます。「もし何々ができたら、どうやってやるか」というような問いを一人ひとりが持っていると、結果的にそれに関する情報を探したり、必要な人脈を引き寄せたりと個々の日常の行動につながってきます。また、大きなビジョンを企業の問いとして持つことは、その問いを解決しようとする人を引き寄せ、長期的な成長につながると思います。

髙野 DICの一人ひとりが少しでも自分モードを取り戻せば、視野が広がり、より大きな可能性を追求できると実感しました。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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